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STG/I 作者:ジュゲ
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第十四話 サイトウとサイトウ

 彼はすっかりこのゲームに魅了されていた。
 ゲームのビジュアルしかり。
 戦闘システムしかり。
 パートナーしかり。
 ともすればゲーム以上に裏側に興味がある。
 人心がかくも完璧に騙されている舞台装置。
 嘗て見てきた様々な場所にはあからさまなほころびがあった。
 それがココには感じられない。
 サイトウは仮に結論づける。

 ”皆は騙されている”と。

 騙しているのは誰か。
 先導者がいるはず。
 運営とは思えなかった。
 詐欺の基本的な動きがこの運営には見られない。
(運営も何を考えているんだ?何が望みなんだ。どうしてここまでやる?)
 外部業者の可能性はある。
 最近は本当に企業のやることがえげつなくなったと感じる。
 三流というか流以前というか質の低下、モラルハザード、自己崩壊。
 全てが「儲かればなんでもいい」その一点に集中している。

(ライバル企業か?それなら寧ろ分かり易いけど・・・)

 最も可能性が高いと感じているのは一般人の愉快犯。
 他人や世間が騒げばそれで満足の者は昔から一定数いる。
 現代のネットに纏わる道具は彼らが活躍しやすいものが用意されている。
 彼はプレイヤーの中に混乱を招いた張本人がいると踏んだ。

(誰か、もしくはどの部隊か・・もしくは連隊か)

 意識に埋没させつつ、普段はそれを気に留めずゲームをプレイしている。

「ふー。ちょっと休憩」

 シューニャをマイルームに戻し、立ち上がるとコーヒーを入れる。

(運営の考えるこのゲームの着地点はどこだろう)

 LSIゲーム登場時よりゲームをやっている。
 隆盛を誇った時期と大きく変わったと感じるものがある。
 終わりは自分で決めなくてはいけないという点。
 従来のゲームには終わりが用意されてあり、それは区切りになった。
 ところがオンラインゲームには終わりが用意されていないことが多い。
 あるゲームを指し「終わらない麻薬」と称した者がいる。
 彼は「なるほど見事な表現」といたく納得した。
 多くの者は「飽きた」ことから手を引くだろう。
 自ら「引退宣言」をし、強制的に興味から切り離さそうとする者も少なくない。
 いずれにせよ終わりは自分が決めるしかない。
 彼はゲームの終え方で人間の本質的なものが強く出ると、他人の引き際が気になった。
 自らを振り返り、自分はある感覚が去来した際にヤメていることを気づく。

「終わった」

 その感覚が来ると肉体感覚で興味が減っていき、知らず遊んでいない自分がいる。
 少なくとも今の自分には全く起きてないものだ。
 むしろ興味しかない。

 マイルームで戦闘記録を見る。

 ゲーム内から専用ブラウザで公式サイトを閲覧出来るが、かなり快適。
 誰でも搭乗員のページを読める。外見上は非常によく整理されたブログ。カスタマイズも同様に出来るようだ。しかも時代の先駆けとでも言うべきオートライティング。
 こうした裏方部分も彼の興味の一つ。
 IT系の企業にいたこともありインターネット関連技術の栄枯盛衰を今もウォッチしている。彼がそう遠くない先に来るであろうと考えているSNSと連携した自動記述ブログ。それがココにある。極簡単なものは今もあるがここのは彼の考えていた最終形態に近い。
 ブログそのものを自動で記述するというもので、戦闘に出たり買い物をしたりすることで自動的にストーリーがAIによって書かれる。書く際の味付けも設定できた。
 こうしたものの発見は彼にとって喜びではあったが一方で焦りのようなものが追いかけてくる。実用化されていたとを全く知らなかったからだ。そのうち記事やブログやというのは大半がそうなるだろうと考えていた。彼にとっては興味深いことであり残念なことでもあった。

「恐らく最新技術だろう。AIの記事は既に実用化されているけどコレは聞いたことないが無い。何せやっていることの次元が違う」

 記事であれば主観を除き事実をどう整理するかであるから容易だがブログは主観が主。最近はブログのような記事が多く、記事らしい記事が無くなり読みづらいと感じていた。AIが記事を書けば主観がなくなり逆に読みやすくなると期待している。
(本当に優れた視点をもつ記者以外はいなくなるな)
 自分のブログの設定も見てみる。
 興奮を禁じ得ない。箇条書きにしたりパートナーのAIに書かせたり公式AIに記述させたり。当然ながら自分でも書ける。ブログをロックをすることも公開の範囲を微細に設定することも可能。
(凄い)
 自由度が極めて高い。
 複雑な設定を読み込めないプレイヤーの為にウィザード形式で設定することも可能だし、パートナーとの会話で条件を設定することも出来た。
(凄すぎる!)
 恐らくプレイヤーのほとんどは自動記述だろう。
 自分の自動記述を読む。

(確かにこの通りだ。でも・・・ここから来る本人像との乖離も大きいな)

 ブログ部分は多くのプレイヤーはロックしているようだがロック出来ない情報もある。
 戦闘履歴。
 ここ数日、何かにつけ閲覧していた。
 トータルで五時間は読んでいるだろうか。
 眠気と頭痛、閉じようとする瞼と格闘しながら必至になって読んだ。

 気になる人物がいた。

 ”サイトウ”というプレイヤー。

 自分と同じ姓だからというのもあったが、プリンから聞いた、日本・本拠点の救世主だからというのが頭にあった。ただし興味があるかというと答えはノー。色々と見ているうちに結果的に到達したに過ぎない。何せ興味を寄せるには人外過ぎる。遠い存在。そうしたプレイヤーはどのゲームにも少なからず一定数いる。

「どう考えても変だな」

 彼は何度も目を強くつむったり開けたりし、立ち上がった。
 窓越しの光を眩しそうに見る。

(駄目だ、風呂でも入ろう)

 ユニットバスの湯船につかる。
 体育座りで辛うじて収まる大きさ。

 サイトウというアカウント名。
 ヒノカグツチという船名。
 アバターの推定年齢。
「他人の空似か・・・俺に似ている」
 気になったのはそれだけじゃない。
 戦績がまるでおかしい。
 船体レベル五にしては強すぎる。
 しかし本拠点を一人で救ったと考えると逆に低すぎた。
 もっと天文学的戦果であっていいはずだ。

 血流が充分に全身を駆け巡るよう三十分つかり、その間、考えを巡らせる。
 勤め人時代も、考えが詰まると、散歩や風呂に入ることで解消した。
 今は治療行為として入っている。隔日で入らないと皮膚の炎症が進む。
 毎日だと逆に油分がゼロになりそれはそれで悪化してしまう。
 不純物無しの石鹸に、石鹸シャンプー。
 肌は綿タオルで撫でるように。

「気になる!プリンに聞こう」

 二時間ほど眠り、ゴールデンタイムにプリンがイン。
 彼が起きる頃には既にコールサインが入っていた。
(プリンはやけにご執心だね)
 そういう彼も相性の良さを感じていた。
 気軽に言える相手。
「オバ~ン」
「バワワ~ン!珍しい~シューニャンが起きているなんて」
「そうかね?」
「だっていつも寝落ちしているし」
 彼女は笑った。
「そうかもしれないね」
「昨日起きてたらすっごい人に会えたにの!」
「だれ?(なるほど、ご機嫌な理由はその人か)」
 彼からすると、彼女は態度と異なりどこか寂しげに感じていた。
 あのテンションや虚飾は、それを誤魔化す為に思える。
「ふっふっふ~・・・サイトウ様!」
「おっ(丁度いい、ていうか来てたのかクッソ~)」
「何よ。リアクション薄いじゃない」
「そうかね?眠いからかな」
「夜勤あけか何か?」
「違うけど、まーね。んで、サイトウってさ」
「サイトウ様」
「え?」
「サ・イ・ト・ウ・さま」
「お、おう。それでそのサイトウなんだけど」
「だからサイトウ様だって!」
「いいじゃん」
「ダメ!彼のファンなんだから」
「ともかく彼について聞きたいことがあるんだ」
「なになになに!シューにゃんも一緒にファンクラブ会員になるぅ?」
「ならないけど(会員なのかよ!)」
「なろうよ~」

 彼女を通しサイトウなる人物のあらましを知る。
 プリンは彼のファンらしい。というより信者に近い。

 戦績のアンマッチの理由はすぐにわかった。
 彼には”STG28”と”STGI”の二機が配備されているらしい。
 そして”STGI”の戦績は戦果として反映されないこと。
 世界には七人しか”STGI”の搭乗員は存在しないこと。
 中でもサイトウは別格らしい。
 ソリストらしく、どの部隊にも所属したことがなく、いつも野良でプレイしている。
 委員会にも登録しておらず、大規模作戦にもほとんど参加したことがない等。
 後は彼にとっては無駄な情報だった。

「じゃあさ、自慢のサイトウ様コレクションから、直近の映像とプリンが持っている最も古い映像を送ってくんないかな?昨日のロビーでの映像とか」
「あれれ~。やっぱりサイトウ様のことラブイ感じ?」
「いやいや、オッサンに興味ないし」
「おっと~、ていうことは美少年好きかな~?”竜頭巾”ちゃんがタイプとか」
「そういうんじゃなくて。オッサンよりかは美少年の方がマシだけど」
「キャー、シューニャンと気の合いそうな子知ってる~今度紹介するから」
「いやいやいや。ちなみにその”竜頭巾”っていつも上位をウロウロしているプレイヤーのこと?」
「そう。可愛いでしょ」
「いや、わかんないけど」
「顔出てるじゃない」
「出てるんだろうけど覚えてない」
「照れちゃって~」
「いやいやいや」
「ねー、暇ならこれから一緒に出ようよ」
 あの一件以来、彼女は部隊員とは距離を置いているらしい。
 除隊することは避けたようだ。
 自分の言葉が原因かどうかはわからないが。
「レベルが違うから」
「アラート出てるから」
「あ、それならイイネ!」
「いこいこ!」
「よっしゃ」

(不思議な子だ)

 彼女とは全く異なる部分で感じいった。

 ゲーム内のプレイヤー層は嘗てと異なり劇的に変わったと感じる。
 昔、本当に小さな市場だった頃は案外まともだった。
 常識のあるプレイヤーが多く、妙なプレイヤーがいれば丁寧に指導するような部分が自ずとあった。そこからプレイマナーが広がり、よりプレイ環境がよくなったと思える。
 ある時からオンラインゲームというものが一般に広く普及することでこの構造は崩壊する。下地が仕上がるより速く頒布された結果だ。人はそれほど柔軟にはなれないものだと感じた。

(サイトウ・・か・・・どういう人間なんだ)

 自分の落とし所が見えない。
 ゲームとしては好きな方だ。
 参加プレイヤーの雰囲気は好きではない。
 非常に閉鎖的で攻撃的なものを感じる。
 それだけならソロでずっと飽きるまでプレイすればいい話。
 でもカルト的な何かがあるのなら辞めたい。
 出来るだけ大事になる前に。
 逃げる僅かなタイミングを失うと逃げ遅れる。
 出来るだけ早い方がいい。
 今なら逃げられる。

(何から逃げる?)

 カルト的な何か。
 あの時は逃げ遅れた。

 彼が関わったのは極普通の、そこいらにある団体だった。仕事の都合。
 内情はどこも同じようなものだと感じる。一つの根拠なき絶対的価値観があり、そこから柔軟に考えを動かすことが出来ず、科学を無視し、現実を無視し、価値観を強要する。自分で信じている分には構わないと彼は思っていたが、必ず強要しだす。そうなると、染まるか、最終的には出るかの二つに一つ。友人なら染るか別れるかだ。ある人を思い出した。

(長い付き合いだったんだが・・・)

 そうした団体に入るのは容易だが出るのは困難を要する。ある意味では異常性を認識しているのだろう。故に決まりごとが多い。皆が自由に発言したり価値観を議論しだすと纏まらなくなるから。だから独裁者というのは決まりごとを増やし厳罰化する。
 多くの者は逃げる際に身ぐるみ剥ぎ取られるか肉体を危険に晒されるか、身内に危害が及ぶか、いずれかが待つだろう。警察に逃げ込んだ者もいたが彼が思った通り何の役にも立たないようだ。
 多くの場合、夜逃げや失踪という形で抜けることになるが、逃げているというだけあって生涯自らの影に追い回されることにもなると思われる。彼の場合はそのどちらでもない道を選択し、幸運もあり事なきを得たが、稀なケースと彼自身考えていた。

(仕事づきあいも内容と程度を考えないとな・・・まさか日本語がガチで通じない日本人がこの世にこんなにいるとは犬養毅も驚くだろうな・・・今はあの時以上だろう)

 彼は未だにあの頃の悪夢を見る。

 ああした団体の中で見つからずに存在し続けるには自己を強く抑制せざるおえないからだろう。ただし彼の悪夢レベルからすると最も低い次元。初歩的疲労時に見るもので、特にうなされる程度ではない。普段は全く忘れていた。表面意識では平気だったが、無意識下で肉体に苦痛として刻まれているようだ。

(カルトゲームなら抜けたいなぁ・・・今のうちに・・・でも)

「興味は突きない・・・」
「え?どうしたの」
「あ(しまった一人暮らしが長いとつい出ちゃうな)、このゲーム奥が深いなぁってね」
「わかる~!凄い深いよね。私もまだ全然知らないこと一杯ある」
(この感じこそが彼女の普通なんだろうな)
「色々教えてよ」
「エッロ」
「いやいやいや、おかしいでしょ」
「私のサイトウ様コレクション見せて上げる!」
「あー・・・それはいいかな」
「ダメ!シューにゃんもファンクラブに入ろ!」

(これなんだよ。価値観の強要。これが嫌なんだ・・・)

 嫌悪感の一方で欲が顔を出す。
 サイトウというプレイヤーを知るにはいいかもしれないと思う自分がいる。

(ダメダメダメ、ミイラ取りがミイラという言葉があるだろ。もっと慎重にことを運ばないと・・・もうあの二の舞いはゴメンだ。俺にはもう命の時間もエネルギーもそう残されていない。やることを絞らないと)

「該当宙域到達しました。稼働率四十%、戦況はやや劣勢」

 ビーナスの凛々しい声が船内に響く。
 慣れとは怖いものだ。
 ”やや劣勢”という言葉も聞き慣れればどうということも感じなくなる。
「索敵ポッド展開後、銃座モード。いつもの感じにポッドは散布して」
「かしこまりましたマスター。ポッド散布開始、銃座モード移行します」
「今回のフレンドシップは誰になってる?」
「小隊を組んでいる”ミネアポリスプププリン”様です」
「あ~そっか。(小隊、新鮮だなぁ)この宙域での指揮官は?」
「設定されておりません」
「シューにゃん!」
「ほいほい」
「索敵は任せてもいい?」
「ああ、もう始めている」
「さっすが~。前衛は任せて!」
「全面的に委ねるよ」
「エッロ」
(・・・口癖なんだろうか?)
「じゃあ、ビーナスちゃんトラクタービームで接続するよ」
「マスターよろしいですか?」
「頼む」
「バックはよろしく!」
(その言い方の方がエロい気がするんだが)
「わかった。一つ稼がせてもらおうか」
「いくよー!トラクタービーム射出、スネークアロン・パートナー同期、作戦行動開始!」

 彼女のSTGの尾部から緑の鞭のようにしなったビームが発射されたと思うと、彼のホムスビの船首に接続。彼女が加速と同時にホムスビも加速する。まるで一体の船のように。船の挙動は完全に彼女のパートナーである”アームストロング”に委ねらた。

(まだまだ未知数だな、このゲーム)
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