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STG/I 作者:ジュゲ
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第十二話 カルト

 午後三時。

 今日は思いの外遅くなる。
 季節の変わり目はどうしても疲労感が募る。
 甲状腺は腫れ、声が掠れている。
 胃が荒れ、腸が消化不良をおこし、下血。
(ケツが痛え・・・)
 いつものルート。上から下へ。
(本当に肉体ってのはよく出来ている。心のほうが理不尽だ)
 顔面は赤くなり腫れ上がっている。
 それでも舌苔にならないだけましだった。
 いよいよになるとベロも真っ白に苔が生える。
(普通これって相当弱った老人にしかならんよな)
 あれが舌苔とわかり驚いた。それもネットで調べて判明。
 医者で治るものなら治す。治らないものや対処療法ならいかない。
(呼吸が荒い)
 ホルモンが流出してしまっているのだろうか。
 心臓という筋肉の塊を動かすには多量のホルモンが必要なはずだ。

 コーヒーを飲みながらプリンの話を思い出していた。

 彼からすれば、”STG28”はゲーム以外の何ものでもない。現実に何度も死を感じた経験からすると彼女の言うことは映画を見て登場人物が亡くなって悲しい程度の話にしか感じられなかった。自分だって大好きな登場人物が死んだ時はガックリしたこともある。それよりゲームで大切に育てたキャラクターが死亡し、多大なる損失を被っ時の喪失感も覚えがある。更にはそれがいとも簡単に復活した時の虚しさ。これは経験したものでなければわからないだろう。そうした時、不意に「何をやってるんだ俺は」そう口に出たことも一度や二度ではない。怒り狂って窓を蹴り壊したこともある。その度に、砕け散ったガラスやコントローラーを見て、重ねて悔いるのだ。

「馬鹿なことをした」と。

 現実に死を間近に感じた今の彼からすると「幼かったな~」と笑みが浮かぶ。現実の死はそんなものじゃない。死を肌身に感じた日、恐怖で眠れなくなった。湯船が自分の涙で溢れるんじゃないとも思うほど泣いたことも何度もある。恐怖で視界の周囲が文字どおり暗くなったことも経験した。
 今や過去だ。寧ろ今では他人の死の方が怖い。どうにも出来ない。自分の死は自分で距離をある程度感じられ、コントロール出来る。肉体は機械のように正確。適切に処置し、継続すれば答えてくれる。これまではその適切さを医師が示してくれると信じて疑わなかったが、それは間違いだったと実感した。医師も神様じゃない。千差万別の人間という精密は生き物を全てに渡ってケア出来るわけがなく、同時に、そこまで熱心の医師そのものが減っている。仮にいたとし、自分を救うのは自分しかない。
 自分の死は遠ざける努力が出来る。動けない時は本当に動けない。無理は無理。ダメはダメ。そこに恐怖はなく寧ろ”是”だった。あるがままを知り、出来ることをし、無駄なものは考えない。
 でも他人は別。外側から感じた危険を伝えても、病院をすすめても、考えを伝えてもほとんどは聞き入れられることが無い。「大袈裟だな」で済まされてしまう。
 その後に「サイトウさんの言う通りになっちゃったね」と言われてもこちら側としては悔いしか残らない。「もっと強く言えば」「もっと他の言い方が」「他のアプローチで」頭の中で逡巡する後悔。失った虚無感。不意に流れる涙。それに加えて自分すら支えられない。彼にとってはプリンの話や、本拠点壊滅の危機より自らの体調が先決。

 窓をあけ、空を見上げる。

(あ~・・・久しぶりの空、空も偉大だなぁ・・・綺麗だ。気持ちいい。外気吸ったの一週間ぶりかな・・・)

 直ぐに閉めた。

「あの空の遠く彼方で宇宙戦争やってんのかね~・・・」
 やっぱり現実感がない。
 当然だ。
 自分がやっているのはゲームなんだから。

(それにしても酷い夢だった)

 具体的には思い出せないが、鮮明に覚えているイメージがある。
 全身を黒い蝿のようなものが無数に纏わりつき、自らは絶叫を上げながら振り払おうとする。払えども払えども数が減ることはなく、気づけば炎に包まれ蝿共と燃えさかる。全身が焼け付くような苦痛にもがきながらも辛うじて蝿達をほとんど焼き払うことに成功。しかし自らは黒焦げになったまま虚空を彷徨うものだ。

(嫌な夢。気色悪いし・・・かなり具合が悪いかったんだな)

 夢の中でハッキリ自分が言った言葉が思い出される。
「お前らが燃え尽きるのが先か!俺が燃え尽きるのが先か!勝負だ!」
 なんとも陳腐な台詞だが、本気だった。
 深い溜め息をつき椅子に座る。
(おぞましい)
 嫌悪する一方で、安堵する自分もいる。
 どこか「自分が先に燃え尽きたら死ぬんだろうな」という感覚がある。
「いっそ燃え尽きてくれたこんな苦労もしないだろうに・・・」
 立ち上がって鏡を見る。
(でも燃えるのは嫌だな・・・溺れるのも・・・)
 髭は伸び放題に伸び、自らの髭が理由で皮膚炎が悪化している。
 おでこ、頬、鼻のラインにそって皮膚が削げ落ち赤く地肌が見えている。
 まるで科学薬品を浴びたように独特な痛みと痒みが顔を覆っていた。

「あ!・・・やっばい、何日メール見てない?」

 彼は急に気になりメールとブラウザを起動。三千件近いDMと迷惑メールをさばいたが、自らに直接接関係のあるものは一通もない。
「ま、それならそれで・・世界情勢っと・・・」
 ニュースアグリゲータソフトで収集している情報をまとめて二百件ほどざっくり目を通す。多くはしょうもない政治がらみ、汚職、汚職、また汚職。そして事件、事故、地震、自然災害。世界各地で戦争の臭い。そんな中、幾つか気になるニュースがあった。

「ゲーム中の高校生が意識不明・・・か」

 ゲーム中に亡くなったというニュースそのものは世界的に見ればそう珍しくもない。ただし近年はやけに増えていると感じる。それでも死亡ならともかく意識不明はレアケース。過去にやや似た事例も読んだことあるが。
「またあれかな、エコノミー症候群かね・・・」
 彼が引っかかったのは、二十四時間ぶっ通しで飲まず食わずトイレにもいかず。そうした状況なら理解出来る。ところが意識不明となると話は別だ。最近はそこまで遊んでいるわけでもないのに「意識不明」になるケースがある。エコノミー症候群で心停止するのは理にかなっている。
 ところが、そうした状況でもないのにゲーム中に意識不明になるのは意味がわからない。彼はゲームのタイトルを知りたかったが、それは幾ら調べても出てこなかった。ニュースは面白半分にゲームに関する問題点を上げへつらうに留まり、探求も究明も調査もなく、右から左に流すような内容に収支。単に叩き安い対象を見つけたような記事に感じた。自身は経験から飲水の量や感覚は自ら意識的にコントロールしていたが、その感覚からすると皆は明らかに水不足に思えた。とはいえ、である。

 ”STG28” のタイトルが浮かぶ。

「VRは必須と言っていい」
 誰かが言っていた。メールだったかもしれないが。
 まだ購入していない。と言うより、購入する余裕はない。
「Webカメラすらセットしていないし」
 リアポートに挿したかったが、その為にはデスクトップパソコンを引っ張り出さないといけない。今の彼にはそれをする体力も気力もない。フロントポートは三つのうち一つは壊れており、一つはヘッドセット、一つはカードリーダーが占有している。
「挿しっぱなしの周辺機器を前に挿したくないんだよな~」
 プリンの言うことは真に迫っていると感じたものの、自己洗脳や他者からの陽動、ストックホルム症候群のような可能性を感じている。
(隕石型宇宙人が地球を滅ぼしに来て、それを別な宇宙人が提供している戦闘機で戦っている)
 思っただけで吹き出している自分がいる。
 これぞ荒唐無稽。
「バカバカしいよな」
 そういう映画は好きな彼だったが、改めて自らに降り掛かると真剣にはなれない。
 それでも「くだらない」の一言で一笑に付すには彼らの様子はリアルに思えた。
「気にならないでもない・・・」
 事実ではないにしても、裏に潜む洗脳集団かカルト的何かがいるのでは。そんな気がしたのだ。
「別に善人ではないが・・・」
(一人の大人として彼女らをほっといていいのだろうか)
 頭に浮かぶ。
 物理的に身体を動かすことなら不可能。
 ネットなら、ましてやゲームなら多少なりとも何かができるのではないか。言葉は投げかけられる。そういう思いに駆られている。
「関係ないか、そもそも彼女も大人かもしれないし」
 サイトウの中ではミネアポリスプププリンは女性認定している。十代ではないだろう。自分のキャラを演じている。言葉の端々から確信めいたものが感じられる。
「他人を助けられるのは自分の足で立ててからだな・・・てめーの足でたてねーヤツが人助けなんて土台無理だ・・・それにしても疲れた、目の疲れが半端ない。だからLEDパネルや嫌だんたよ。ブラウン管こそ至高だろう、なぜ分からない・・・これも市場原理か」
 ブラウン管モニターを長く愛用していたが使い潰してしまい、以後やむおえず液晶にかえ今ではLEDパネル。変える度に目に光が刺さるようで、加齢も伴い眼精疲労は留まることを知らなかった。ブルーライトカットフィルムに、ブルーライトカットメガネにも手を出したが少しマシになった程度。
「もう夕方・・・あーなんなんだろうねぇ」
(本当に俺の人生ってなんなんだろうな、無意味だ、実に無意味。なんで俺は死なないんだ?)

 不意に小学五年生のあの日の光景が思い出される。

(生きたいんんだろう・・・どうあれ俺の肉体は・・・人の迷惑も考えろってんだよ)
 見るとはなしに窓を見る。
 擦りガラスで景色は見えない。
 大きく、深く、ため息をつく。
「ちょっとだけゲームするか・・・宇宙を散歩するだけでもいいや・・・ビーナスちゃんにも会いたいし」
 全身が鉛のように重い。
 夕食を済ませると椅子に座っていることすら苦痛になった。
「駄目だ・・・横になろう」
 よつん這いになり布団へをゆっくり這いずる。

 頭の中はすっかり”STG28”のことで一杯。
 今日はいつもより体調はよいが、起きているにはシンドい。横になっても眠れるほど眠くはなく、脳が元気で餌を欲している。

 自ずと眠りが充分ではなくなる。眠いのに眠れない。ただ、眠れない時は眠れないままにするのがいい。焦りはなかった。横になっているだけでも随分と違う。いよいよになると横になっていても辛くなる。そうなると地獄。大概のことには動じないつもりだった彼でも「あんな思いは金輪際二度としたくない」という経験がそれだ。

 思い浮かぶまま、頭の中ではこれまでのことが逡巡し、考えるでもなくそのままにする。

(わからない。なんなんだこのゲーム。”STG28”何がどうなってる? 3Dタイプのシューティングゲーム。リアル系かと思いきやスポーツ系の仕様。ソロ狩りもで出来るようなパートナーまでついていると思いきや、まるで恋愛ゲームのような微細な設定と数値化はされていないけど育成的な要素もある。パートナー以外にもサポーターを戦果で増やすことが出来るようだし。シューティングゲームであることに変わりはないが。プレイヤーの行動原理もピンとこない。何より運営だよ。何をしたい?)

 彼は嘗て味わったことがあるカルト集団を思い出す。このゲームにはカルトにありがちな同調現象や異常性がみられる。そしてそれを促すような施策。本来ならシューティングゲームであそこまでパートナーを微細にする必要はない。いつだったか誰かに「このゲームの仕様はプレイヤーの決議によっても変わる」と言っていたことがあった。

(誰が言ってたんだっけ・・・思い出せない)

 それは頷けるものだ。価値観は十人十色。言いたい放題いって、それを採用していたら窮屈でメチャクチャなものにしかならないのは当然だ。アメリカを見ればわかる。法律でがんじがらめ、それでいて自由かというとそれは支配者や金持ちにとって自由なだけで実のところ巧妙に飼いならされているだけじゃないか。いや、他所より日本だ。日本は今や滅茶苦茶もいいところじゃないか。世界トップクラスの消化酵素を持ちながら、その日本人が今や消化不良を起こしている。

(皆が意見を言うぶんにはいいよ。それは素晴らしい。でも誰かが纏めなきゃ駄目だ。当たり前だ。神の見えざる手?集団決議?責任とって辞める?どこか責任とってるんだ。そんなんだから無責任社会になる。上が上なら下は下になる。結局は誰も責任なんぞとりゃしねー。誰かが纏め、纏めた人間が責任を負う。だからこそ責任感が生まれ目的に邁進する。このゲームは敵宇宙生物を排除するというハッキリとした単純な目的があるのに、バラバラなのも皆が勝手なままだからだ。まてよ・・・そうか、運営は纏める気がないんじゃないか?だから自主運営を認めているんじゃないか?・・・そうだよ、多分)

 彼はあれから何度かアラートを目にしたが参戦せずモニタリングしていた。参加率は極めて低い。中央のホログラムマルチモニターを見ててわかった。戦いかたも積極的な者の方が少なく消極的な者が多い。いつぞやのダンゴムシのように放置者も相変わらずいる。皆が好き勝手にやっている印象。本来ならそれはそれで構わないと思っている彼であっても、本当に宇宙人が襲来して、地球の為に戦っているのだとしたら話は別である。彼らは口々に「地球が」と言う割には他人事に思えた。

(仕様がそもそも自由過ぎる。自由を扱える優秀な人間はそうおらんぞ。俺だって幾らでも使っていい、何やってもいいって言われたってロクなことができんぞ。自由なのはいいが最低限の方向性がないと。その癖にクソみたいな細かいルールばかりこのゲームも多いし。いちいち読んでられるか!運営は何をやってる?「プレイヤーのクソ共がぎゃーぎゃー煩いから自分らで理想のゲームとやらを運営してみろファ○キン・プレイヤー」ってことなんだろうか。ありえなくもない。わからないでもない。・・・でも、だとしたら良く出来すぎている。そこまで嫌気がさしたのならもっと色々なことが手抜きでいい筈なのに、この厳密さはなんだ。意味がわからん)

 与えるだけ与え、徹底的に傍観。
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