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STG/I 作者:ジュゲ
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第十一話 VR症候群

 本部急襲を辛うじて生還した日本・本拠点。
 先程までメディカル・ルームに主だった部隊長が勢揃いしていた。
 最前線で活躍したドラゴンヘッズを始めとした部隊長が今は残っている。
 それはマリンバとノボリの案件が要因である。
 二人はまだ眠ったままだった。
「なんだって・・・」
 辛うじてドラゴヘッズの部隊長、ドラゴンリーダーが声を発する。
 その声は力なく、辛うじて聞こえるという程度。
「心神喪失状態です。このままでは肉体の生命維持装置無しに何日でもなく死亡します」
 古典的なロボット形状をしたドクターのAIは言った。
 他の部隊長が思い思いの言葉を紡ぎだす。
「あの・・・意味がわからないんですけど・・・他の連中とどう違うの?」
「ログアウトしないと死亡するってことなん?」
「都市伝説じゃなかったんだ・・・」
 メディカルスタッフが淡々と仕事をする中、ドクターは言葉を続けた。
「VRをつけた状態の搭乗員に時折見られる現象です。恐らくは没入度が高く現実との境がわからなくなったことが原因と思われます」
「でも他の連中は目を覚ましたろ・・・」
「ですから没入度の差です。十代以下のプレイヤーに特に見られる現象ですが、あくまで個人差が大きいと考えられます」
「ノボリは十代なのか・・・」
「どういう理屈だよ」
 ドクターは続けた。
「ゲーム中でのリアルな死を脳が実際に”致死”と判断した為に起こると考えております。ノボリ様は他の搭乗員以上にショックを受け、自ら『死んだ』もしくは『死にたい』と判断した可能性があります。その場合、実際の彼女の肉体活動も停止へ向かうと思われます」
「わかったぞ・・・」
「何がですか?」
「・・・宇宙人すらゲーム批判かよ。それってVRを、ゲームを悪人に仕立てたいだけだろ」
「違う」
 ドラゴンリーダーが言った。
「数多くある事例だよ。ゴリラに育てられた人間が自らをゴリラだと思って人間には生えない筈の獣毛が出たこともある。日本にある日記を過去から現代まで調べた人の話でも、人はどうやら本気で死にたいと思ったら死ぬらしいと仮説を立てている。最も、彼の場合は『人は真に暇になったら死ぬ』という研究だけど。とにかく、『死んだ』と思ったら肉体は死へ向かうってのはありうるんだよ。俺は少なくともそう感じる」
「そんな馬鹿な。お前も結局はゲーム脳派かよ!」
「派とか・・・そういうんじゃねーよ・・・ったく」

「嘘を言うな!」

 彼女の部隊長が吠えた。
「ご存知のように今年に入ってから既に幾つか事例があります」
 ドクターは穏やかに応えた。
「お前らが!・・・お前らが・・・殺したんだろ」
 全員が彼を見る。
 それは部隊長なら誰しも大なり小なり疑念のようなものが渦巻いていたことを意味した。

”この宇宙人は敵なのか、味方なのか”

「・・・」
「お前らは本拠点に接近するまで俺たちに危険を知らせなかった!それが証明している。サボってたって言うヤツもいる。単なる偶然とも、相手が上手だっとか、俺は違うと思う。お前ら・・・本当に味方なのか」
 彼は顔が赤くなるほど怒りを表していた。
「元々俺たちを殺す為に全て仕組んでんじゃないだろうな・・・このSTGもこの本拠点も、今回も・・・全部が・・・罠なんじゃねーのか。緊急招集し、俺たち全員を一網打尽にする・・・そういうことだったんだろ!」
「・・・」
 ドクターは沈黙した。
「言えなくもないな・・・サイトウは俺たちにとっても予測範囲外にいる。つまりお前たちにとっても予測範囲外・・(つまりスパイはお前ら・・・)」
「馬鹿かよ、落ち着けって、考えればわかるだろ」
「お前こそな・・・」
「言葉は選べ」
 別な部隊長が肩に手をかけようとすると、それを乱暴に振り払う。
「だっておかしいだろ!気づいていたはずだろ、あの数だぜ、節穴かよ・・・雑魚かよ。死んだということにしてノボリをヒューマンミューティレーションするんだろ・・・本当は全員そうするつもりだったんじゃねーのか・・・」
 最後は絞り出すように。
 彼は震えていた。
 怒りなのか、恐れからなのか。
「・・・」
 ドクターの反応を見て、この場にいる二人は(虎の尾を踏んだな)と感じていた。
 また、別な数人はポカンとしている。
「大袈裟なんじゃね?なんだそれ、その、ヒューマンなんとかって」
「宇宙人による人さらいってことかな、多分」
「おいおい、考え過ぎだろ」

「ノボリは俺の妹なんだよ・・・」

 再び皆が彼を見る。
 互いの背中を預ける連隊とはいえ、彼らはそれぞれのリアルを知らないのが普通である。それはいつの間にか暗黙の了解のようにもなっていた。特にこのゲーム”STG28”固有の訳があり、それは長期プレイヤーなら定着したものだ。自らのリアル情報を言うのは”危ない”そういう理由があった。
「ちょっと待て、だったらこんなところにいる場合じゃないだろ・・・」
 ドラゴンリーダーは重い口を開いた。
「ヤツは実家にいるんだ」
「だとしてもだよ・・・お前、すぐに電話して家族に妹さんを起こしてもらうように言えって・・・そうだろ?」
「・・・やだね」
「どうして?」
「こいつら宇宙人は俺たちを騙そうとしている!だからそれもヤツらの策略の中だとしたら・・・」
「何言ってるんだよ!百歩譲って今貴様の妹さんがどうなってるか聞けよ!」
「・・・」
「そうだよ。電話しよ!意地はってる場合じゃないでしょ!」
 顔見知りらしき一人の部隊長が首根っこを捕まえて彼を引き釣りだす。
 途中から渋々という感じで従うも、振り返ると言い放った。
「覚えてろよ・・・妹に何かあったらてめーら宇宙人を皆殺しにしてやる」
 そして足音も大きく出ていく。
 再び静まり返る。

 それぞれが思い思いの考えを巡らせた。

 ノボリのケースは事実ドクターの言うように今年に入ってケースが増えていた。曰く、その要因を宇宙人は年齢と本格的なVR普及が起因することであり、システムに何ら問題は無いと回答。VRは没入度が高く、長時間プレイすることで現実との見境が脳レベルでハッキリしなくなる。特に若いほどに。それが原因であると。
 ただし今の話のように個人差も大きく、文字通り千差万別。実際VR中でも現実への対応をすんなり可能な者もいないではなく、一時的なショック状態に陥ってもある程度すると戻る者が大半だ。ここまで重篤なケースは初めてである。マリンバとノボリ。特にノボリだ。

 連隊長達は再びドクターに幾つか提案を行う。
 「部隊長命令でパートナーにログアウトさせる」というのもの。
 そして「現実の彼女らを起こす」というもの。

 しかし返事は思わしくなかった。この状態で仮に部隊長命令で強制的にパートナーにログアウト命じた場合、実際にどうなるかはやってみないとわからないという。それでもやるということは「生死の選択」を外部の者がするということになる。”下手をすると”その行動そのものが死へと直結するものになり兼ねない。その場合の責任は誰がとるのか。メディカル・ルームは三度静まり返る。討議の結果、もう一つの選択肢を兄である彼に委ねることにした。

 不安は拭えるばかりか大きくなった。
 今回、ノボリの件は兄が名乗り出た。
 身内がいなければどうなるのか?
 マリンバの搭乗員は?
 そもそも彼は本当に兄なのか?
 抱えきれない疑問と不安を胸に部隊長会議は散開することになった。

 結果は竜頭巾にもリーダーから直ぐに伝わる。

「そんな・・・」
 大きくため息を一つつくと彼は膝から落ちる。
 ノボリは極親しいフレンドでもあったからだ。
「それで・・・どうなった」
 ドラゴンリーダーは顛末を端的に言う。
 メディカル・ルームで生命維持装置に接続し安置すること。
 それそのものは何の意味もないものだが、起きた時に現実と乖離をできるだけ避けるための措置だった。コックピットで出来た痣などは部隊長の戦果で即座に修正された。彼の実兄と名乗る”なめくじ”が実家に連絡をとり病院へ連れて行くようにしたこと。以後詳細は彼の「言いたくない」という拒否で不明のまま。実際に兄なのかどうかもわからない中で本案件は以上となったと。
「リーダーどうなる・・・これから」
 竜頭巾は青ざめた。
「どうもこうも・・・問題は山積だよ」
「山積って、他にもあるのか?」
「あるどころじゃない・・・もう、嫌になるよ」
 彼はジタンダを踏む。
 リーダーは深刻な事例を挙げた。

・STG28を提供している宇宙人が実は真の敵説
・サイトウが実は宇宙人のリーダー説
・VR症候群と名付けられたこの現象は宇宙人の計画説
・委員会内部のスパイ説
・サイトウだけいりゃいいんじゃね説

「ひとまずこんな所だ」

 竜頭巾はサイトウの件で激昂する。
「あいつら!・・・サイトウに助けられながら・・・」
 床を何度も蹴る。
 彼の癖はリーダーのが伝染したのかもしれない。
「わからなくもない」
「リーダー!」
「いや、今回だってサイトウがいなかったら本拠点は崩壊しただろ」
「だからそれはサイトウのお陰とも言えるだろ!」
「いや、聞けって」
「聞かない!」
「ったく・・。ヤツがほとんど一人で解決したようなもんだろ?凹むぜ・・・」
「単によえー俺らが悪いんじゃねーのか?」
「そうだけどよ、あいつのSTGIと俺らのSTG28では強さが桁違いだろ。今までセコセコ強化してきたのに嫌になるぜ・・・」
「だからなんだよ!ヤツのSTG28はレベル五だぞ!それでもヤツはこの前の作戦でも俺たちを助けただろ!ようはヘボの言い訳なんだよ!」
「STGIの話をしているんだよ。ヤツ一人で・・・よくねーかってこと、思うだろ?」
「思わないね!サイトウはいつも言ってた、皆がいるから出来たんだって・・・その皆が彼を疑ってこの体たらく・・・顔向け出来ねーよ!」
 彼はリーダーを真正面に捉え瞬きもせず見据えた。
「まあ・・・愚痴だ。ヘボは認めるよ・・・。ただ奴らの言うこともわからないでもないということ」
 素直に吐露する。
「わかんねーな俺は・・・」
「あ~もう。ま、いいわ・・・お前さ・・・いや、いいわ」
 トグロを巻いた宇宙人。その光景は竜頭巾にとっても正直恐ろしいものだった。震え上がった。
 本音を言えばリーダーの言うこともわからないではない。今まで多少なりとも自負のようなものがあった。それがあの光景を見て粉々に砕け散る。無意味。無価値。無力感が満たす。リーダーの話では、あの様子を多くの搭乗員が目撃していたと言う。どうやらソースはそこら辺らしい。

 STGの残機は十六機となり、日本本拠点・運営委員会はリスポーンの凍結を決定。

 委員会メンバーはSTG資源を投入する為に、自機やパートナーへの戦果投入を禁じ、修理や補充に伴うもの以外は全て残機への資源投入を義務付けることを発表する。ただし委員会の発令は凍結以外に強制力はなかった。故にその発令に従ったのは委員会メンバーの六割にとどまり、一般搭乗員に至っては二割にも満たない。

 委員会の命令には委員会メンバー以外に強制権はほぼなく、あくまで指導的ポジションにあったことが要因していると考えられる。過去に何度か委員会の主導権を強化しようという動きもあったが、度重なる不正が発覚し、結果として自ら張り子の虎となっている。
 今や委員会は単なる宇宙人への意見具申とSTGリスポーンに纏わる権限程度しか誇示できなくなっていた。その為か労多くして功少ない委員会への希望者そものが減り続けている。

 それでも日本・本拠点は新たな係留地を定め、取り敢えずの安息をとり戻す。

 甲斐もあってか、これより二週間後にはSTGの残機も百機は越えたが、それは同時にいかにプレイヤーが寄付をしていないかとの現れをも意味し委員会のやる気をより削ぐ要因にもなる。幸いにも敵の襲来が減っていたが、それはサイトウの活躍によるものが大きい。それを知る者は宇宙人以外いなかった。
*
「マジで・・・」
「マジマジ」
 シューニャは三日間に渡り寝込み、今しがたようやく起き上がった所で、プリンからのコールに気づき顛末を聞いたところである。
(俺のいない間に・・・いたところで目くそ鼻くそだけど)
 シューニャの乗るSTGホムスビはレベル二になったばかり。
「本拠点割られてたら第二シーズンってところだったか」
「何言っているの、第二も第三もないよ、地球終わりなんだから」
「んー・・・」
 言うべきか、言わざるべきか。
 彼は少し考え、言うことにする。
「それ、本当にそうなの?」
 もうすっかり女言葉になっている。
「本当にそうだって!」
「なんでわかるの?」
「だって、そう言ったんだから」
「誰が?」
「宇宙人が」
「宇宙人が?ん~・・・会ったんだ」
「夢の中で」
「夢なんだ!」
 プリンが除隊したいと愚痴るのを、彼は黙って聞き諌める。
 たった一度や二度で人間見限ってたら誰ともうまくやれる訳ないと言った。
 彼女の話は本拠点急襲が様々な波紋を生んだことが他人事ながら感じられる。
 ただし彼は冷めていた。
 彼女がカフェスペースを去るとシューニャをマイルームに放置。
 四日ぶりに起き上がる。

「あ~太陽・・・太陽は偉大だなぁ・・・ねみ~、だり~・・・」
 ブレンダーのスティックコーヒーを口にする。残りが少ない。
「うんまい」
 取り敢えず安静にしていれば最低限のレベルは保てる。
 それはこの十五年ではっきりしたこと。
(この状況は生きていると言えるのだろうか・・・。ま~それを言ったら俺よりももっと大変な中で生きておられる方々がいるのは間違いないが・・・凄いよな。偉いよ・・・恐ろしい。でも・・・俺は・・・)

何も知らない家族、友人、知人から軟弱だと随分罵倒された。
(尊敬するが・・・俺はもう無理だ・・・才能がないんだろうな)
 いつも同じ問が鎌首をもたげる。
 この自己問答すら無くなった時、本当の終わりなんだろうと心のどこかで感じている。
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