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STG/I 作者:ジュゲ
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第十話 死闘

 ロビーが真っ赤に染まっている。
 天井のモニターには”Alert”の文字に”警告”が並び、続いてご丁寧に”緊急事態”と帯で流れている。そして場内には繰り返しアナウンスが流れていた。

「緊急警報発令、日本本拠点に敵宇宙生物多数接近中」

 叫び声、悲鳴、動物のような声、全ての感情が綯い交ぜ。
 沈痛だったロビーの姿はそこにはなく、絵に描いたようなパニックがあった。
「なんで出ないんだよ!ふざんけんなよ殺すぞてめー!」
 一際大きな怒声。
「死にたくない死にたく死にたくない」
 怒鳴られた少年は威勢の良さそうな顔に似合わない声を上げ、自らのパートナーにしがみついている。
「アホが!死なない為に出撃するんだろうが!早く出ろや!」
 彼は胸ぐらを捕まれパートナーごと突き飛ばされた。
「やめろ!お前こそクソだ!好きにさせろや。騒いでないでてめーこそ出撃しろ!」
 別なプレイヤーが声を上げる。
「うるせーぞ!言われねーでも出るっつーの!」
 人だかりが多くなり怒号が飛びあい、取っ組み合いが始まる。

「サイトウ、サイトウ、サイトウ、サイトウ・・・」
 モニュメントの前で泣き声が上げる者。
 地べたに伏せ呪文のように唱え、祈るように手を合わせ震えている。

「サイトウはどうしたんだ・・・なんでいない」
 筋骨隆々としたアバターがうわ言のように叫んだ。
「呆れ返ったんだよ。お前らに」
「キル厨のクソに言われたくないわ」
 別なところから声が上がる。
「なんだと・・・」
「ほっとけ、出るぞ。マイサンズ再出撃!」
 出撃ゲート前では数人の声を上げる者。
「最前線で支援装備STGが不足してます!どなたでもいいです、初心者でも構いません。オプションに索敵ポッドを搭載して出撃して下さい。お願いします、助けて下さい!」
 少女型のアバターが半ば泣きながら叫んでいる。
 誰も見向きもしない。
「初心者に無茶言うなよ・・・前線は地獄だぞ足手まといだ」
 言った者はゲート横を通り過ぎ消えた。
「でも・・・」
 別なプレイヤーが一番声を上げていた少女を突き飛ばた。
「餓鬼どもはママのパイオツでもしゃぶってクソして寝ろ!皆、聞いてくれ!どこぞの学徒兵がフレンドリーファイアーをオンにしやがってウチのエースが大破したんだぞ!味方にやられたんだぞ!下手くそと餓鬼は迷惑なんだよ、今直ぐ消えろや!」
 湖面に投じられたその声は、恐らく彼が思ったよりも大きな波紋を生み、一層混乱の恐怖の輪が広がった。次々とログアウトしていく。
「でも敵が・・・」
「うるせー!」
 アンドロイド型アバターは彼女の顔の横を強く蹴った。
「やめねーと殺すぞ!」
 そんな彼に一人が声を上げ、別な二人が躍りかかると殴っている。
 それを見て震え上がりうわ言のように呟く者。
「死にたくない・・・いやだ・・・いやだ・・・」
 鎮まる気配は一向に訪れないようだ。

 大警報が流れた際は次々とアバターが増えていったが、事態が飲み込めると急速に減っていった。それらは出撃する者と、ログアウトしたプレイヤーが大半。他にもマイルームに引きこもる者、不安で出撃することはおろかログアウトすることもマイルームにもおられずロビーに自身のパートナーを呼び出し抱き合っているプレイヤーもかなりいる。さっきの怒号はそうした者達に向けられた。

 そんな喧騒から離れた部隊ルームに彼女らはいた。

「ミネア、彼女はどう?」
 不安そうそうに見つめる女性型アバター。
「ログインしているみたいだけど、反応ない。ずっとコールしているんだけど・・・」
「無理もないか・・・始めたばかりだし」
「そうじゃない。シューニャは寝落ちしているんだと思う。この前もそうだったし」
「そっか・・・。ミネア・・・今までありがとね」
 涙が一筋流れる。
 ミネアポリスプププリンとその部隊員のようだ。
「終わりじゃない!まだ、終わりじゃない・・・」
「終わりだよ。今回の出撃で円錐は全部壊れるじゃない。リスポーンするでしょ、あっという間だよ。本拠点までこられて、もう、そのうち地球に来るんだ・・・宇宙人も見捨てたんだよ、だから今回警告がなかった」
 少年の姿をしたアバターが言った。
「終わりじゃない」
 プリンは目に涙を浮かべつつも抵抗を示す。
「もうずっと眠れてないんだ・・・導入剤もきかなくて」
 ロボット型のアバターが体育座りのまま顔を埋める。
 強そうな外観とはまるで似つかわしくない。
「私は無理・・・ログアウトする・・・最後は家族と過ごしたい」
「ミッちゃん・・・」
「私も・・・」
「俺も、彼女に会いに行く」
「自分・・・どうしていいか・・・わからない。でも、一人はいやだ・・・」
 頭を抱え、しゃがみ込む。
「落ち着いて・・・」
「皆が出ないんじゃ野良だと出来ないよ・・・私もログアウトしようかな・・・」
 毛むくじゃらの犬のようなアバターが言った。

 プリンは少し間をおき、ゆっくりと言葉を発した。

「いいじゃない。終わりだとは思わないけど、好きなようにしよ!それが結成時のスローガンだもんね。・・・ありがとね皆」
「プップン・・・ごめん」
「ごめん・・・」
 何人かが続く。


 静まり返る。


「プリン、いっきまーーーす!」
 彼女は大声を上げ、両手を伸ばすとロビーへと走る。

 誰も声を発するものはいなかった。
*
 前線。

「つかれている、誰か、後ろを頼む!」
 STGの真後ろを、長い針のような物質が頂点まで貫いたと思うと二つに別れ、真っ二つになった。
「敵のテクタイト・・・百機弱、ラビオリ、回線オープンして位置情報を全STGに共有し・・」
 突然 飲み込まれた。
「”夕飯前”!”夕飯前”がやられた!くっそ、くっそ!アタッカーは何やってるんだよ支援がいなくなんぞ!」
「誰もでいい広域索敵ポッドを展開してくれ!このままじゃ全滅する。数が多すぎて位置がわからない、皆フレンドリーファイヤーは確認して必ずオフにしろ、向こうでフレンドが地球人にやられたって通信が入った!」
「それってスパイじゃね?」
「スパイかどうかともかく全員フレンドリーファイアーは必ず確認しろ!」

 別の宙域。

「アメリカの連中はなんて言っている?」
「準備に時間がかかるから耐えてくれだとよ!」
「なんなんだよアイツら!余計な時ばかり顔出すくせに!」
「あ~美しきかな日米同盟ってか~」
 巨大な隕石型宇宙人が避けたつもりのSTGを数機巻き込んだ。
「デカブツが割れたぞ!ヤバイ、木馬だ!来る」
 次々と破壊される。
「援軍を要請!援軍を要請!特に支援特化STG!防御特化タイプを頼む!」
「なんでもいい!とにかく援軍はよ来いや!」
「そんなこと、よ~せい~なんてな」
「ふざけとる場合か!」
「撃て!撃て!」
「まただ!また味方機にやられたんだぞ・・・」
「タツはどうしているんだよ!あのクソ忌々しい餓鬼は!」
「竜頭巾ならさっきから戦っているだろ雑魚!マップ見てねーのか!敵が戸愚呂まいている、あんなん耐えられんのか?」
「地獄だぞありゃ・・・」
「ドラゴンヘッズ隊がやられたら俺たちどうするんだよ・・・」
「手動で機雷巻くなボケカスが!味方が二機やられたぞ」
「スパイだ・・・連中のスパイがいるんだ!今マークしている誰か協力してくれ」
「わかった!」
「スパイは殺せ!」
「殺せ!」
「バカかお前ら!」
「スパイをかばうヤツもスパイだ!」
「ロックオンしたぞ!」
「フレンドリーファイヤー・オン」
 その戦いは凡そまともとはいい難く。
 前線もまたパニックの渦中にあった。
*
 最前線。

「タッちゃん!後ろに三体ついてる、お前の貞操は俺が守る」
「気持ち悪いこと言うな。自分でやれる」
 竜頭巾と彼らの部隊”ドラゴンヘッズ”は他の部隊と共に敵の大部隊と交戦中だった。
「メーデー!メーデー!ドラゴンドライブ破損、制御不能、皆避けてくれ!」
 STGの先端から中央部分の三割程度の質量が巨大な矢となりミサイルのように射出。
 ”ドラゴンヘッズ”の前衛、三機編成の小隊である”レッドドラゴン”のキラー装備だが、数が多すぎる敵には無力だった。
 落ち葉のように各機が回避運動をし避けきる。
 それが巨大隕石型宇宙人に命中。
「ラッキーパンチ!ざまあ見晒せ!」
「こちらドラゴンリーダー、レッドドラゴンは帰還しろ。ダメージが大きすぎる」
「俺は戻って死ぬまで待つなんて真っ平ゴメンだよ!」
 同意する声が聞こえる。
「日本本部が終わっても他国の本部が残っていれば大丈夫だよ」
「日本が終われば俺たちにとっては終わりだ!」
「そうじゃない!それは違う。生きていれば・・・」
「タツの言う通りだ。レッドらは戻れ。ここまで耐えてきたんだから、みすみすここまで鍛え上げたSTGを、パートナーを失ってたまるか。そう思わないか?」
「ヤバイ!右舷からコンドライト三体!」
「レッドは早く離脱しろ。ドラゴンドライブが無いから餌食にされる」
「わかった・・・装備換装して戻ってくる。ゴメン・・・役立たずで」
「いけ!来るぞ。タツ、シツ、アサヤケ、頼む!援護しろ」
「スマン・・・レッドドラゴン全機離脱!」
 小隊のSTGは急速に戦域を離脱する為に加速。
 それをアイアンメテオタイトが追撃する。
「タツすまん!右のデカイのを頼む!俺じゃ手に負えない」
「わかった!」
「コンドライト来るぞ!」
 コンドライトと呼ばれた宇宙人はシンプル。
 伸びることなく変形もしない。
 小型で極めて堅く、そして高速。
 ただただ猛烈な速度で突っ込んでくる。
 そして速度に対して小回りも効く。
 速すぎてロックオンがままならない。
「マリンバ、ロック出来ない!どうなってる?」
「分析結果が出た・・・まずい、コイツ、色が変わるんだ」
「属性変換!?こんなの手動じゃ無理だよ。軌道すら見えないのに」
「レインボーカラー・・・」
「レイ・・・ヤバイ、『済まないドラゴンヘッズ全機離脱する。この装備じゃレインボーカラーは相手に出来ない』いいか全機帰還。ゴールドドラゴンはしんがりについてくれ!本拠点に戻るぞ、ブラッグドラゴンは牽制を頼む」
「ドラゴンリーダー、こいつ・・・あ、」
 マリンバと呼ばれたSTGが真横を貫かれ衝撃で粉々に砕け散った。
「マリンバ!」
「え!マリ、マリン、マリ・・・」
「ノボリ!ボケっとするな!」
 ノボリのSTGは先端が折れ、ブーメランのように回転し隊列をそれた。
 その船内を悲鳴が満たす。
「ノボリ!ログアウトしろ!ノボリ!ノボリーっ!サポーター強制ログアウト!」
「別部隊のパートナーはマスターか隊長の指示以外には従わないよ」
 ドラゴンリーダーのサポーターが答えた。
「ノボリ!サポーターにログアウトを命じろ!ノボリ!おい、腐れ女!応答しろ!」
 彼女のSTG内サウンドモニターには既に悲鳴すら記録されていない。それでもログインを示すサインが灯っている。

 竜頭巾の真っ黒なSTGが急速反転。

「構うな!離脱する!続け続け!遅れるな!」
「タツ!だから行くな!」
「俺が引きつける!」
 真っ直ぐに進むドラゴンヘッズの隊列。
 竜頭巾を追って複数の宇宙人が食らいついた。
「・・・勝手にしろ!」

 加速体勢に入りドラゴンヘッズは天かける光の竜がごとく連なり離れていく。

「終わりだ・・・終わりだ・・・」
 竜頭巾が目を血走らせ操縦桿を握る。
 最悪なことにコンドライトが彼のSTGに食らいついた。
「コンドライト三体接近、タッツン分が悪いぞ」
 彼の少年型パートナーが状勢を伝える。
「いいことなかった・・・生まれてくるんじゃなかった・・・」
 耳に届いていない。
 敵の数がみるみる増え、漆黒のSTG、ブラッグドラゴンが宇宙人の帯を纏った。
「エンジン臨界、このままだと拠点に戻れないよ!」
 耳に入っても頭に届いていない。
 彼の船内に警告灯が点滅しだした。
「タッツン、心理グラフ異常、ログアウトしたほうがいい。補助ブースター限界、停止する?ねー聞いてる?」
 彼は瞬きもせずただ前だけを見ていた。
 ノボリが飛ばされていった方角。
「真っ直ぐ、真っ直ぐ・・・」
 コンドライトが掠めていく。
 主だった操舵をパートナーに任せていたお陰で辛うじて回避。
 しかし、次から次へとアプローチをかけてくる。
 そのたびに速度がおち、他の宇宙人達が徐々に距離を詰めてきた。
「ママ、ママ・・・」
 軽い接触。
「守れない・・・」
 彼は悲鳴もなく、呻き声のみ上げると、なすがままに船内で打ちのめされた。
 その衝撃で軌道がずれるが体勢をすぐに整えたが速度は一気に落ちた。
「ありがとう、ありがとう・・・」

 その時。

 追いすがる宇宙人達が蹴散らされるのが見える。
 無数の隕石が最後尾から砕け散っていくよう。
 おびただしい数の破片が彼のSTGのシールドで弾かれていく。
「・・・」
 彼はそれを呆然と見る。
 その奥から現れたのは白い人型のSTG。
「うそ・・・・」
「タッツン、サイトウのSTGが来てくれたよ~危なかった~」
 パートナーの声が遠くから聞こえる。
 巨人は光を帯びている。
「どうして・・・怒らせ・・た・・のに・・・」
「モニターにサイトウが映る」
「わりぃ、わりぃ、寝坊しちまって」
 装飾のないノーマルスーツを着ている髭面の中年男がそこにはいた。
 初期装備だ。
「・・・サイトウ」
「アニメのヒーローみたいで格好良かったろ、な」
「はは・・・」
「なんだよ、嬉し泣きか?」
「だまってよ・・・」
 サイトウはニコリと笑うと通信が終わった。
 彼のSTGは一層の光を帯びる。
 すると、まるで夏場の街灯に群がるアブラムシのように宇宙人達が我先にと彼へと吸い寄せられていく。
「あ、サイトウ。コンドライトが三体・・・レインボーカラー!」
「ほいよ」
 彼の音声だけが返ってくる。

 コンドライトが彼のSTGに何度も突入を試みる。

 踊るように交わす。
「あ、そうだタッちゃん、ノボリをマークしといたから牽引して上げて。まだ・・・ログアウトしていない・・・」
 彼の声は最後だけ沈んだ。
 合同部隊員のリストに目をやる。
「うん・・・」
「ザッと掃除したけど、まだいるからベースに戻ったら残党を始末して拠点本部の位置を変えたらどうかね」
「サイトウは・・・」
「あー俺はいつも通り」
「そっか・・・」
「この前は悪かったな」
「ん?、うん・・・」
 モニターで見るサイトウのSTGは今まで見たこともないオゾマシイ光景の中にいた。
 彼を先頭に敵がトグロを巻いている。
 螺旋のように動いているようで、宇宙人らはそっくりその軌道を追っている。
 宙域一体の隕石が彼を頂点に大きな生命を形成しているかのよう。
「おーし、そろそろいいかな。タッチャン最後に一つ」
「うん?」
「スパイがいるぞ」
「お前まで・・・」
「いや、あの連中の言うスパイとは違う。最近入ったヤツを調べた方がいいかもしれない。それじゃあ、またね~」
「サイトウ・・・」
 通信が途絶。

 光が遠くなる。
 遠く、遠く。
 もうレーダーモニターでしか確認出来ない。
 それを螺旋状の隕石らが連なる。

 光が一際輝いたのが目視できた。

 そして消失。
 竜頭巾は呆然とその様を眺め、開放された安堵からか自然と涙が流れ嗚咽を上げた。
 自らを押し殺し獣のよう呻くと直ぐにノボリの回収へ船を回す。
「こちらは竜頭巾、ノボリを回収後、本部の移動を提案します」
 彼の消えていった方角を見る。
「いたよ」
 パートナーの声。
「ノボリ・・・」
 サインはまだログインを示していた。
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