白皇学院の時計塔の最上階に、生徒会室はある。
放課後、その生徒会室で、女性が頭から血を流して死んでいるのが、たった今見付かった。
被害者は、白皇学院高等部、2年担任の桂 雪路。
発見したのは、生徒会三人娘の瀬川 泉、花菱 美希、朝風 理沙である。
「ちょっ、桂ちゃんどうしたの!?」
驚いた瀬川が、雪路へと駆け寄る。
「何寝てるんだ、雪路?」
と美希。
「一寸待て。様子が可笑しいぞ」
朝風はそう言って雪路に近付き、脈を計った。しかし、既に脈は無かった。
朝風は首を左右に振るうと言った。
「死んでるぞ」
「何、これは雪路の悪ふざけじゃないのか?」
その時、エレベータのドアが開いて生徒会長の桂 雛菊が現れた。
「三人とも、そんな所に固まって何やってんのよ?」
「あ、ヒナ。実は──」
その問いに三人娘は、この事を正直に話した。
「──と言う訳なんだ」
「何ですって!?」
ヒナギクは雪路の下に回り込み、死を確認すると持っていた書類を床に全てばらまいてしまった。
その頃、教室では三千院家屋敷の主、三千院 凪が物騒な事を口にしていた。
「なあ、ハヤテー」
「何ですか、お嬢様?」
それに反応するのは、ナギの執事、綾崎 颯である。
「殺人事件でも起きないかな?」
「何物騒な事言ってんですかお嬢様!?」
「いや、何か探偵気分を味わいたくてな」
と、その時、時計塔から「キャアーーーーッ!」と悲鳴が聞こえてきた。
(今の悲鳴はヒナギクさんの!?)
彼女の身を案じたハヤテは、陣風の如く生徒会室に駆け付けた。
「ヒナギクさん、どうしたんですか!?」
ハヤテが訊ねると、ヒナギクが胸に飛び付いて泣き出した。
「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが!」
ハヤテはヒナギクを抱き締めながら「先生がどうかしたんですか?」と訊ねた。
「ハヤ太くん、実はかくかくしかじかで」(注:雪路が殺された事を伝えてます)
「えーっ、先生が!?」
ハヤテは驚き、倒れてる雪路を確認する。
雪路の頭からは血が出ており、その付近には血文字でDaiと書かれていた。
この事から察するに、雪路は最後の力を振り絞ってダイイングメッセジを残したのだろう。
そして残されたのが、
「ダイ?」
だった。
「て言うか何なんですかこのコ○ンくんみたいな演出は?」
「演出じゃないよ。ホントに死んでるんだよ」
と瀬川が否定する。
「うむ。これは殺人事件だな。まさか本当に起きてしまうとは・・・」
そう言ったのは、ナギお嬢様だった。
「お嬢様、いつからそこに!?」
しかしナギは、遺体を調べるのに夢中で聴いていなかった。
「なあ、ハヤテ」
ナギが遺体を調べながら言う。
「何ですか、お嬢様?」
「大至急、校内に残ってる奴のアリバイを訊いて来てくれ」
「お任せ下さい!」
とハヤテが行こうとすると、ヒナギクがそれを制止した。
「お願い、一緒に居て」
「え、でも・・・」
「仕方ない。私が訊いてくる」
ナギはそう言ってエレベーターに乗り込んでボタンを押した。
ドアが閉まり、カゴが下降を始める。
(って、私一人になってしまったが、不安だな・・・)
そんな事を思っていると、カゴが最下層に到着してドアが開いた。
ナギはエレベーターを降りて校舎に向かった。
一方、生徒会室では、ヒナギクが会長の席に座って泣いていた。
その傍らでは、
「それにしてもこの<Dai>は一体何なのだ?」
と美希が顎に手を当てて考え込む。
同時にヒナギクが立ち上がり、エレベーターに向かって行く。
「外の空気吸って来るわ」
そう言ってヒナギクはエレベーターに乗り込み、ボタンを押してドアを閉めた。
「ハヤ太くん、ヒナに付いていてくれないか」
美希がハヤテにそう言う。
「今のヒナは何するか判らないからな」
「解りました」
ハヤテはそう言ってヒナギクの後を追った。
「キャアアアア!」
突然、校内に悲鳴が響いた。
(今のは、ヒナギクさん!?)
ハヤテは悲鳴の聞こえた場所を目指した。
そこは、自分たちの教室だった。
「ヒナギクさん、一体何が!?」
「な、ナギが・・・ナギが!」
教室の入り口に腰を抜かして座っていたヒナギクが、やって来たハヤテにそう言って指を差す。
ハヤテがその先を確認すると、首に黄色いリボンを巻かれて倒れているナギの姿が在った。
ハヤテは慌てて駆け寄り「お嬢様!」と抱いて声を掛ける。
するとナギが目を開けてハヤテを見た。
「お嬢様、一体何が遭ったんですか!?」
ハヤテの問いにナギは、疑問符を浮かべて問い返した。
「誰だお前は?」
「えっ・・・?」
固まるハヤテ。
ナギはハヤテの記憶を失っていたのだ。
(落ち着けハヤテ。こう言う時は・・・)
「あの、お嬢様。ご自分の名前は解りますでしょうか?」
「お前はバカか?当然だろ。私は三千院 凪だ」
(名前、クリア!)
「では、お嬢様のお歳は?」
「9歳だ」
(マジですかー!?)
ハヤテは驚いて内心で叫んだ。
(って、そんな事より)
ハヤテはヒナギクの方を向き訊ねる。
「ヒナギクさん、怪しい人物とか見てませんか?」
しかしヒナギクは「見てないわ」と首を横に振るった。
ハヤテはナギに向き直る。
(頼みの綱はこのお嬢様だけか。しかしお嬢様は記憶を失ってる。一体どうすれば・・・)
ハヤテが悩んでいると、ヒナギクが声を掛けて来た。
「ハヤテくん、生徒会室に戻りましょう?此処に居てはいつ犯人に襲われるか分からないし・・・」
「そうですね」
ハヤテはナギをお姫様抱っこして立ち上がった。
「なっ、お前何をするのだ!?」
ナギは暴れてハヤテのお姫様抱っこから抜け出した。
「仕方ありません」
ハヤテは拳をナギの鳩尾に埋めた。
「うっ!」
ナギは呻き声を上げて気絶し倒れた。
ハヤテはそのナギを再度お姫様抱っこし、ヒナギクと共に生徒会室に戻った。
「あら、三人とも何処行っちゃったのかしら?」
生徒会三人娘が生徒会室に居ない事に気付いたヒナギクをそう言った。
ハヤテはナギをソファに寝かせながら答える。
「もう帰ったのではないでしょうか」
「えー!?」
「シーッ、お嬢様が起きます」
「あ、ごめん。で、何でそう思うのよ?」
「それは何と無くですよ。そんな事より、今は<Dai>の意味を解読しないと・・・」
「そ、そうね・・・」
ヒナギクはハヤテの言葉に顔を顰めるとそう言った。
「んー・・・」
ハヤテは顎に手を当てて唸る。
(クソ。Daiって何なんだ、Daiって)
ハヤテはふと横目でヒナギクを見る。
(確か、雛菊は英語でDaisy・・・って、まさかな)
「ん、何かしら?」
ヒナギクが自分を見られてる事に気付き訊ねる。
「否、別にDaiが実はDaisyで訳すと雛菊だから犯人がヒナギクさんだなんて思ってませんからね!」
「はあ?」
何を言ってるんだこの人は、と言いたげな顔でヒナギクはハヤテを見詰める。
それと同時にナギが「Dai」と寝言を発して起き上がった。
「Daisyだ!犯人はDaisyだぞハヤテ!」
「お嬢様、僕の事思い出したんですね!?」
「何を言う。私はお前の事など忘れてなんかおらんぞ」
「え、でも先刻は」
「あれは演技だ。側に犯人が居たからな。そうだろ、ヒナギク?」
とナギがヒナギクに顔を向ける。
「えっ?ナギ、私を疑ってんの?」
「当然だ。て言うか、お前が犯人では無いか」
「どう言う事です、お嬢様?」
「教えてやろう。あの時、私が教室でDaiの意味を考えてると、ヒナギクがやって来たんだ。そこで私はピンと来たんだ。先生はDaisyと書こうとしたんじゃないかってな。で、ヒナギクに言ってやったんだ。『お前が犯人だろ』って。そしたらヒナギクの奴がいきなり私のリボンを奪い取って、それで首を絞めてきたんだ」
ナギが真剣な表情でそう言った。
ハヤテはヒナギクを見詰める。
「どうしてですか、ヒナギクさん?」
ヒナギクは俯き、徐に口を開いた。
「口封じよ」
「え?」
「ナギは気付いたのよ。Daiの意味に。だから他言される前に殺そうと思って」
「どうして先生を殺害したんですか?」
「それは──」
とヒナギクが事件当時の状況を語り出す。
それは、お昼休みの事。
ヒナギクが生徒会室で弁当を食べてると、雪路が慌ててやって来た。
「ヒナえもーん、お金貸してー」
「何でよ?」
「お昼よ、お昼買いたいのよ!」
「そんな事言って、どうせまたお酒なんでしょ?」
「なっ、姉の言う事が信用出来ないのか。なら力尽くで奪い取ってやる!」
言って雪路はヒナギクの懐に手を突っ込んだ。
「一寸、やめなさい!」
ヒナギクは必死に抵抗するが、雪路も負けじと必死に財布を抜き出そうとする。
そこでヒナギクは、咄嗟に机に置いてあった水筒を取り、それで雪路の頭を思いっ切り殴り付けた。
「うっ!」
雪路は呻き声を上げ、床に倒れた。
「お姉ちゃん!?」
と、その時、雪路の頭から赤い液体が出て来て床に広がった。
ヒナギクは怖くなり、弁当と水筒を持って生徒会室を跡にした。
「──と言う訳」
全てを話し終えたヒナギクは、立ち上がってエレベーターの前に移動する。
「ハヤテくん。私、自首するね」
「そうですか。何か、寂しくなりますね」
「うん。あ、そうだ」
ヒナギクがハヤテの眼前に移動し、接吻をした。
「なっ!?」
と驚くナギ。
「好きよ、ハヤテくん。私が務所から出て来たら、付き合ってくれる?」
「ヒーナーギークー!」
とナギが絶界の様な紫色の禍々しいオーラを放ち、目を赤く光らせながらヒナギクを睨み付けた。
「ハヤテは私のもんだ!誰にも渡さん!」
「え、二人は付き合ってんの?」
「何言ってんですか、ヒナギクさん。僕はフリーですよ?それに、僕は同年代から年上が好みですから、お嬢様の様なお子様には興味ありません」
「何!?ハヤテ、あれは、あの時のお前の気持ちは嘘なのか!?」
と、その時、雪路が「五月蝿いわね」と起き上がる。
「お姉ちゃん?」
「先生、生きてたんですか?」
「勝手に殺すな!」
「お姉ちゃん、これはどう言う事!?」
「ああ、これね。これは演技よ」
「演技?じゃあ、頭の血は?」
「それは血糊」
「脈が無かったのは?」
「コップを脇の下に挟んでただけ」
言って雪路は服の内側から脇の下に挟んでいたコップを取り出した。
「「「紛らわしいわ!」」」
三人はぶちギレ、雪路を吹っ飛ばした。
「あれー!」
雪路はバルコニーから外に吹っ飛び、放物線を描いて落下して行った。
「一寸吃驚させようと思っただけなのに、何でこうなるの?」
おしまい
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