第92話 王都での会話。(陛下のわがまま。)
「では、このことをエルヴィス伯爵に教えてやろう。誰を伝令にするかな。」
アズパール王は思案する。
「でしたら、私とウィリアムで里帰りしてきます。」
レイラがそんなことを言う。
「ん?・・・なぜだ?」
「妹の婚約者ですよ?会ってみたいじゃないですか。
もちろん私も婚約に異議はありませんので祝ってきますけどね。」
「・・・ズルい。」
「は?」
アズパール王が変な声を出す。
「いつも息子達やその嫁は遠出して、我は留守番ばっかり・・・
ズルい!」
「父上・・・なにを言っているのです?
王が王都を離れてどうするのですか?」
「わかっておる、わかっておるのだ・・・だが、ズルい!」
「・・・しかしですね。父上、仕事とかあるでしょう?」
「それはお主もそうだろう?」
「私は領地もありませんので。気楽な物です。」
「く・・・なんてことだ・・・
ウィリアムは兄弟で何かあった際の非常時の為に王都に置いているのが仇になったな。」
「仇にはなっていませんけどね。」
ウィリアムはしれっと反論する。
・・・
・・
・
「・・・決めた。我も行く・・・」
「「は?」」
ウィリアムもレイラも「なに言ってんの?」という顔をする。
「我も行く、絶対に行く!
仕事も知らん。我もリフレッシュが必要だ。」
「お義父さま・・・それは流石に無理でしょう?
文官、武官の了承もなしに行けないでしょう?」
「逆に言えば皆が了承すれば行けるという事だ。」
「それは・・・そうですね。」
「ふふ・・・そうと決まれば即行動だな。」
とアズパール王は武官・文官の幹部を広間に集まるように伝令を走らせる。
「困った人だなぁ」とウィリアムもレイラもその様子を見ていた。
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王都に詰めている武官・文官の幹部たちが広間に集まっていた。
「何を言われるのだろう?」と皆、思案顔だ。
隣席しているのは第3皇子夫婦。
と広間の扉を開けアズパール王が入室してくる。
「皆、揃っているな。」
そう言い席に着く。
「は!陛下、緊急招集に全員集まりました。」
「では、始めるか。
と言うかだな、用件と言うのは我の事だ。」
「陛下のですか?何かございましたか?」
文官の一人が言う。
「ああ、そうだな。どこから言うか・・・
体調とか戦争ではないのだ。ただな・・・休みをくれ!」
「「「「「はい?」」」」」
皆が一様に「なに言ってんの?」という顔をする。
ウィリアムとレイラは「ほら、やっぱり」という顔をする。
「・・・陛下・・・一応・・・一応、聞きますが理由はなんですか?」
他の文官が聞く。
「エルヴィス伯爵の孫娘のアリスが婚約した。
その祝いに第3皇子夫婦が行くのだが、我も行く!」
・・・
・・
・
「・・・そもそも第3皇子夫妻が行くのに
・・・さらには何で臣下である伯爵の孫娘の
・・・もっと言えば、結婚式ではなく、婚約で・・・」
「・・・なんだ?第3皇子夫婦は良いのか?」
「エルヴィス家と言えば、レイラ殿下のご実家です。
そのアリス嬢は、レイラ殿下の妹君なのでしょう?
お二人が行かれるのに差し支えはありません。」
「我は?」
「何しにいくのですか?」
もう文官も敬語を使う気がなくなっていた。
「いや、お祝いをしに。」
「なんで陛下自ら?」
「我もリフレッシュしたい!
いつもいつも遠出は息子やその妃・・・我も遠出がしたいのだ!」
と本音をこぼす。が、
「ダメです。」
「なぜ!?」
「陛下が動くとなれば、武官の第1騎士団、第2騎士団、王都守備隊が動きます。
その動きで他国が脅威と思ってしまったら戦です。」
文官の言葉に第1、第2騎士団長と王都守備隊総長が頷く。
ちなみにこの時、ウィリアムとレイラは「祝いの品は何が良いのかな?」と会話をしていたりする。
「さらに確かエルヴィス伯爵邸まで片道で9日程度かかったはずです。
往復で18日・・・20日近く王都を空けられると仕事に支障をきたす恐れがあります。
それでは国の行政が止まってしまう可能性すらあります。」
さらに違う文官が言い、他の者も頷く。
「では・・・11日で絶対に城に戻る。だからどうだ?何とかならんか?
兵士についても、戦場へ行くわけではないから王都守備隊のみで動くからな?」
「・・・そんなに行きたいのですか?」
最初に質問をしてきた文官がため息交じりに言う。
この第34代アズパール王は政治判断も出来るし、行動力もあり、人の諫言も聞き入れる。
更に臣下への情も厚く、人々の人情も分かる傑物と家臣皆が認める王なのだが、ごく稀に子供っぽい行動をして皆を困らせてもいた。
今現在が子供っぽい行動の真っ最中。
「我も外に出たいのだ・・・」
アズパール王は駄々っ子の様な・・・もうただの駄々っ子になっていた。
その肩はガックリと下がり、哀愁さえ漂っている。
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