第87話 部屋の件を聞こう。
客間のドアを武雄はノックする。
中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する。
中にはエルヴィス爺さんとアリス、スミス、フレデリックがいた。
「失礼します。」
と中に入る。
「エルヴィスさん、戻りました。」
「タケオおかえり。」
「アリスお嬢様、スミス坊ちゃん、戻りました。」
「はい、おかえりなさいませ。」
「おかえりなさい。」
と持っている荷物を客間の角に置き、武雄も席に着く。
「とりあえず、スーツとコートの受け取りは済みました。
トレンチコートについては夕飯後に説明します。」
「うむ、ご苦労じゃったの。」
・・・
・・
・
武雄は聞く。
「で?何したんですか?」
「何がじゃ?」
「私が使っている部屋から私物がなくなっているのですが・・・」
「・・・タケオ、反応が薄いの。」
「いや、これが外泊先だったら焦りますけどね。
この屋敷でこういう悪戯が出来るのはエルヴィスさんのみですから。」
「うむ、タケオの焦る姿が見たかったのだがのぉ。」
「・・・ちなみに皆さんの予想は?」
「うむ。わしは客間に怒鳴り込んできて「どういうことだぁ」と言う。
アリスは、アリスに相談にきて『どうしましょう?』と相談する。
スミスは、片っ端から部屋を開け確認する。
フレデリックは、フレデリックに首謀者の相談にくる・・・だったの。」
「・・・一番近いのはエルヴィスさんですか?」
「うむ。だが全部ハズレじゃ。」
「なんだか申し訳ないですね。どれかすれば良かったですか?」
「ふふ、必要ありませんよ。」
とアリスは言う。
「うむ、タケオ。」
「はい。」
「アリスとお主の部屋を作ったので引っ越しをしたのじゃ。」
「・・・この屋敷に住むことを許可していただけるので?」
「出ていく気があったのかの?」
「ないですね・・・というより現実的に考えて私とアリスお嬢様の二人暮らしは無理ですから。」
「え?なぜです?」
とスミスは質問し、アリスも「そんなことない」と言いたげな顔をする。
「だって・・・アリスお嬢様は、箱入り娘ですから誰かがお世話しないと生きていけないでしょ?」
「タ・・・タケオ様!私だって生きていけます!!」
とアリスは猛抗議をする。
「・・・エルヴィスさん、どう思います?」
「・・・うむ、わしもアリスは外に出して生きていけるとは思わないの・・・」
「お爺さままで!!」
アリスはぷくーっと頬を膨らませて抗議してくる。
「はいはい、そんなに怒らないでください。」
「ですが!そこまで言われると!」
「アリスお嬢様も貴族ってことですよ。
家事全般を誰かにやってもらっている生活しかしたことないのですから。
二人暮らしがいきなり出来るとは考えられません。」
武雄は苦笑する。
「うぅ・・・そう言われるとそうですけど。」
「なので、どこかに移り住むという選択は死を意味します。」
「タケオ様!!」
とアリスは更に抗議してくるが武雄はスルーする。
「と考えていたのですよ、スミス坊ちゃん。」
「なるほど。僕もそうですが、一人では生きていけないですね。」
「ただ、いつかは離れみたいのを作る必要は感じています。」
「え?ずっとこの屋敷内ではいけないのですか?」
スミスは質問をしてくる。
「いえ、スミス坊ちゃんの奥方の性格にも拠るかなあっと思うのです。
姉夫婦も一緒に住んで良いと言ってくれる心の広い方だと良いのですが。」
「僕のですか!?」
「はい。折角のお嫁さんでしょう?気を悪くさせるのもあれなので・・・」
「うむ、それは今後の課題だの。しかし当分は屋敷の一番奥にしたからの。」
「はい。ありがとうございます。」
「ちなみにタケオ達の部屋の・・・屋敷的に反対側にも同じような部屋があるのだが、
そこは次期当主夫婦の部屋になっておる。
スミスが嫁を貰ったらそこに引っ越しじゃの。」
「うぅ、わかりました。
でも僕がその部屋に行くのはまだ先ですね。」
「うむ・・・そうかもしれぬし、そうじゃないかもしれぬし・・・」
「え?まだまだ先ですよ。
好きな相手もいませんし。」
とスミスは言う。
「スミス、目の前にいい例がおるじゃろ?
まだ5日じゃ・・・スミスも電撃結婚がありえるからのぉ。」
「う・・・お爺さま、その言い方は。」
とアリスは苦笑する。
「しかし、いきなりしましたね。
家具はどうしたのですか?」
「それは、私の両親のお下がりを使います。
後日、新しいのを買いにいきます。」
「なるほど。では、アリスお嬢様、お願いします。」
「・・・タケオ様も一緒に行って決めるのですよ?」
「・・・アリスお嬢様の好みで構いませんが?」
「ダメです、一緒に行きます。」
「・・・はい。」
と武雄はアリスと決めにいく事が決まる。
「ふふ。タケオは、もうアリスの尻に敷かれておるのぉ。」
とエルヴィス爺さんは楽しそうに言う。
「奥方がしっかりしていれば家内は万全になると思いますが?」
「そういうものかの?」
「ええ。旦那が強すぎるとイザコザが絶えないでしょう?
奥方がしっかりしていれば、上手く旦那を使ってくれますからね。
まぁ奥方が強すぎるのもあれですので、その辺を上手くできるかは旦那さんの奥さんに対する器量次第と言う感じで。」
「ふふ、タケオ様。私を上手く篭絡できますか?」
アリスはニヤリ顔をする。
「え?結構、上手くいっていますよ?気が付きませんか?」
「え!?いつのまに!?」
「プリンにフレンチトースト・・・」
「あ!」
「胃袋は掴みましたね。」
「うぅ・・・」
アリスはやられたという顔をする。
「なんじゃ、タケオも負けておらぬのぉ。」
「ええ。ですが、これからも上手くいくためには、その胃を満足させる物を食べさせないといけませんね。」
武雄は苦笑する。
「・・・私は食べ物だけではありませんよ?」
「はは。では、その辺は今後考えていきますね。」
と客間に他の執事がきて、夕飯の支度が整ったと知らせてきた。
「皆さま、夕飯の用意ができました。」
皆は席を立って食堂に向かったのだった。
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