第86話 支払い方法を教えにいって屋敷に戻ったら・・・荷物がない?
その日の夕方。
武雄は再び仕立て屋に来て、先ほどと同じ場所に座っていた。
「では、支払い方法について結果を言います。」
机を挟んで向かいには店長がいる。
「はい。」
店長は緊張の面持ちで聞いている。
「月45着を納品した際に、エルヴィス家から一括でお支払いします。
それでよろしいでしょうか。」
「え・・・分割をされると思っていましたが。」
「何とかしました。」
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ちなみに先ほど店を出た武雄はまず兵士詰め所に行き、
兵士長と総務関連事務の第4小隊長と話を詰めた。
・各兵士の分割については第4小隊にて管理すること
・兵士からの支払いは給料から天引きで行うこと
・天引きした金貨は兵士長が預かり毎月エルヴィス家に納金すること
上記の様にすることとした。
その話が終わった後、すぐに屋敷に戻り、
エルヴィス爺さんとフレデリックと武雄で、
・仕立て屋への支払いは毎月一括でエルヴィス家にて行うこと
・毎月ちゃんと兵士長が分割分を納金すること
として了承を得られた。
兵士長にはエルヴィス家から命令書が通達される運びとなった。
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「ただし、一括で支払いをする為には、1つお願いがあります。」
「・・・なんでしょう。」
「トレンチコートの内ポケットの所に各個人の名前の刺繍をしてください。」
「・・・わかりました。」
「お願いします。
分割は兵士側で管理・集金をするので誰に納品したかわかる様に刺繍をしてくれとの依頼でした。」
「わかりました。では、特別に刺繍に変更不可の魔法をかけておきます。」
「よろしくお願いします。」
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「さて、以上ですかね。
値段も含め許可が下りていますので、正式に発注がかけられます。
私との契約書と一緒に屋敷のフレデリックさん宛に注文書と請書を持参してください。」
「わかりました。」
「・・・これで終わりですね。
あ、私のトレンチコートは着て帰りますので、申し訳ないですが出せますか?」
と武雄は自身のトレンチコートを出して貰い、魔法具商店からもらっているサンプルの襟章を付ける。
「こんな感じになりますね。」
と武雄は着て店長に見せる。
「ほぉ、襟章を付けると雰囲気がまた違いますね。
あれ?その階級章は、当初のとは違うのですか?」
「金色の線1本はエルヴィス家専用としました。
白線が兵士になります。」
「なるほど。」
「では、お暇しますかね。」
「はい。キタミザト様、これからもよろしくお願いします。」
「いえ、こちらこそ。
また、思いついたら相談にきますね。」
「わかりました。」
「では。」
と武雄は荷物を抱え店を出るのだった。
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武雄は、もうすぐエルヴィス邸に着くところまで来ていた。
そういえば、さっき屋敷に戻って来た時に中が慌ただしかったのを思い出す。
「あれは何をしていたのだろう?」
と武雄は不思議に思ったが、支払いの件で急いでいたのでそっちまで気が回らなかった。
「まぁエルヴィス爺さんもフレデリックさんも気にしていない様子だったし、大したことではないのだろう」と思うことにした。
そんなことを考えている内にエルヴィス邸に到着。
玄関を入るとフレデリックが丁度いた。
「おかえりなさいませ、タケオ様。」
「フレデリックさん、お疲れ様です。戻りました。」
「支払いの件は了承されました。」
「そうでしたか。その話はまた夕食後にいたしましょう。
・・・それが『トレンチコート』ですか?」
「はい、そうです。
皆へのお披露目は、また後程と思っています。
では、私は一度部屋に戻って一服した後に客間に行きます。」
「畏まりました。」
と武雄は自室に戻って行った。
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武雄は自室に戻ってきた・・・はずだった。
コートを脱ぎ、扉を開けた瞬間。
「あれ?」
違和感に襲われる。
今日で5日目、4回しか寝泊まりをしていないが・・・何か違う・・・
机やベッドの配置や本の並び・・・は、変わらないのに?
不思議に思いながらも部屋に入り部屋を見渡す・・・
「あ!買ってきた雑貨がない!?」
部屋の隅に押し込んだ物が無くなっていた。
・・・
・・
・
とりあえず、自分のコートは持ってきた荷物にしまう。
んー・・・
家の者に嫌われる様な事をしたなら嫌がらせや出ていけとのサインと受けとるのだが・・・
今のところは平穏無事に過ごしているから、その可能性はかなり低い。
何かしら理由があるのだろうが、フレデリックさんが言わなかったのを見ると大事ではなく、
どちらかと言うと悪戯やドッキリなんだろう・・・言わないのは首謀者が爺さんだからか?
・・・どう反応をすれば・・・武雄は悩む。
まぁ考えても仕方がないから首謀者に話を聞きに行くかっと客間に向かうのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。