第78話 訓練終了。終わった終わった。
「状況終わり!!!!」
兵士長が号令が響き渡る。
とアリスも戦っていた兵士達も手を止める。
アリスはさっさと歩いて後ろに戻る。
兵士達は、そんなアリスを見てその場にグッタリと膝をついた。
皆一様に「終わったぁ・・・」と疲労困憊だった。
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訓練経過は簡単。
アリスに向け兵士が殺到するもアリスは1振りか、2振りで吹き飛ばす・・・の繰り返し。
ちなみにアリスのフルプレートに剣が届いた者はいなかった。
アリスは途中から兜を脱いでいた。
アリス曰く「熱いし視界が悪いから」とのこと。
アリスの後方に救護所を設営したが全くの無意味だった。
・・・いやアリスの休憩所に変わった。
何回か兵士達と衝突するたびにアリスはここに戻ってきて、「タケオ様、喉が渇きました。」と武雄に伝えた。
武雄も昨日購入したマグカップに「アクア×1」で水を満たしアリスに水分補給をさせた。
そしてアリスが水を飲んでいる最中に「ケア×15」を発動し、アリスを回復させた。
兵士長は救護兵を指揮し、倒れた者をその場で治しながら戦場を駆け回った。
回復系魔法が使える者は片っ端から招集し、救護兵に回す。
この演習で一番疲労したのは魔法師だった。魔力はほぼ空になるまで酷使した。
なぜ空になるまで頑張ったか・・・
「魔力が尽きたら、あの戦線に立たせる。」との兵士長の命令で必死にならざるをえなかった。
「もうできない」という言葉を言えば、アリスお嬢様との戦線に立たされる。
魔法師達は必死になって倒れた兵士達を治しまくった。
ハロルドは兵士達を上手く指揮し、半包囲を継続させた。
参加小隊は第1小隊、第3小隊、第5小隊、第6小隊、第7小隊、第9小隊、第16新兵小隊、第17新兵小隊。
総勢:180名
武雄が倒した小隊長達もさっさと回復させ戦線に立たせた。
ちなみに第1小隊と第3小隊の中には2年前アリスと共に戦った者が多く。
「あの時のお嬢様だ・・・」と衝突前からテンションはダダ下がり。
新兵を除く他の兵士は、「やってやる。」とテンション高め。
新兵は訳も分からずこの街に来たばっかの者がほとんどで「ふん、貴族のお嬢様が何しに来た。」と舐めていた。
・・・まぁこの演習でその認識は修正されたのだが・・・
1.キタミザト様は1対1にめっぽう強い。
2.アリスお嬢様の二つ名「鮮紅」は伊達ではない。
3.アリスお嬢様の逆鱗に触れると洒落にならない。
兵士の統一認識としてはこうなった。
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アリスは武雄の元に帰ってきた。
「タケオ様、終わりました。」
「はい、お疲れ様でした。」
と武雄はアリスを抱きしめる。
「ふぁ・・・皆の前です・・・」
と言葉では否定するもアリスも武雄の背に手を回す。
とすぐに抱擁は解かれる。
とハロルドと兵士長がやってくる。
「アリスお嬢様、タケオ、ご苦労さん。」
「アリスお嬢様、キタミザト様、お二人ともお疲れ様でした。」
やってきた二人は労いを口にする。
「ええ、ハロルドも兵士長もご苦労様。
・・・さて、私とハロルドは先に屋敷に帰ります。
タケオ様はのんびりと帰ってきてください。」
「はい、わかりました。
アリスお嬢様もお気をつけて帰ってください。」
「はい、わかりました。」
武雄とアリスも軽く会話をして解散となった。
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アリスとハロルドは騎乗し屋敷に戻って行った。
兵士長は「残務処理がありますので。」と兵士達の方に行ってしまった。
武雄はスーツの上着とコートを着てから。
「さてと・・・帰るか。」と城門に向かって歩いていると城門の上で手を振っている人達を発見する。
「何をしているのですか?」
武雄は城門の上にやってきて場の惨状を見て一言目に出た言葉だった。
そこにいたのは、仕立て屋の店長、魔法具商店の店員、リンゴをくれた青果屋のおじさん、精力剤をくれた酒屋のおじさんの4名。
が酒盛りをしていた。
小さめの酒樽が4個・・・おい!飲み過ぎだろうが!
「小隊長達相手によくやったなー。」
と青果屋のおじさんが言い。
「まったく大したもので。ほほ。」
と酒屋のおじさんも褒める。
「いや~最初から見ていましたが、本当に大したものですね。」
仕立て屋の店長も褒める。
「ふふ。これで街の皆にもアピールできましたねー。」
と魔法具商店の店員が言う。
「・・・ちょっとまて。その言葉は危険だ」と武雄が思うと同時に。
「どうしてキタミザト様を街の皆にアピールする必要が??」
と仕立て屋の店長が食いついてくる。
「あぁ、キタミザト様とアリスお嬢様は婚約されたんですよ。
あれ?言っていないんですか??」
しれっとばらす魔法具商店の店員。
「「「は!?」」」
・・・武雄は頭を抱える。
3人の目が武雄に集中する。
武雄は観念した様に右手を見せる。
「「「おぉぉ。」」」
「ただし、まだ内輪のみなので、今後どうなるかわかりません。
もしかしたら破談になりますから。
他の人に言ってはいけませんよ?」
と念のため釘をさす・・・まぁ意味ないんだろうけど・・・
ここにこれ以上いたら何を聞かれるかわからん。
と、武雄はさっさと屋敷に戻ることにした。
「・・・あまり飲み過ぎてはいけませんよ?」
「おや、帰るのかい?」
「ええ、ここにいたら帰りが遅くなってしまいそうですので。」
「おう、今日はゆっくり休みな。」
と言われ、武雄は手を振りながら城門を去っていった。
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武雄を4人は見送る。
「それにしても・・・とうとうアリスお嬢様もですか・・・」
仕立て屋の店長がシミジミと言う。
他の3名も頷く。
「この街を出ていかれるのかぁ。」
と青果屋のおじさんが言う。
仕立て屋の店長と酒屋のおじさんが頷く。
「え?行かないでしょ?」
魔法具商店の店員は突っ込む。
その言葉に他の3名は「なんで?」という顔をする。
「え?だってキタミザト様はエルヴィス家に勤めているし、郊外に屋敷や領地がある貴族でもない。
もしかしたら引っ越しすらする気がないのでは??」
「・・・あれ?言われてみれば、そうですね。」
「ということは・・・今と変わらない?」
「ええ。お二人が婚約しただけで、なーんにも変わらないと思いますが。」
4名はしばし考え・・・苦笑する。
今と変わらない。
寂しくもならないただただ二人を祝福するだけなんて、なんて良い事なんだ。と
「まぁ、この訓練でもわかったでしょうが。あのアリスお嬢様を抑えられる男っていないのでは?」
「「「確かに・・・」」」
4人は笑いあいながら酒盛りを続けた。
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