第70話 練習の為、弾丸を集めなければ。
魔法具商店の店員は机に1枚の大きな紙を広げる。
そこには、手書きではあるが、銃の4面図が書かれていた。
「昨日、二人がお帰りになった後に書きました。」
見事だった。細部までとは言わないが、改造の仕様を決めるのに十分な緻密さだった。
「先ほどの襟章の時も思いましたが、仕事が早いし、良いですね。」
と褒めながらリュックから金貨の入った革袋を渡す。
「ん?金が30枚ありますが?」
中を確認した店員が言う。
「ええ。多く入れました。
小銃の値段と改造費用と弾丸を集める費用としてください。」
「・・・集める・・・ですか?注文するではなく。」
「ええ・・・そうですね。私の考える銃の進化形の話と小銃の開発者の考察をしましょうか。」
と武雄は店員に昨夜、皆に話した概要を話し出す。
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「と、この小銃は進化すると考えています。」
武雄の話に最初は微笑をしていた店員は真顔になっていた。
「・・・キタミザト様の言う進化は突拍子もないですが、流れに無理がないですね。
ついでにそのアホ開発者がどこまで考えているかわからないですね。」
「ええ。この小銃を作成できて、一般に向けて売っちゃうくらいですし・・・
私と同じで常識がないのでしょうから不安ですね。」
「それは不味いですね。」
「・・・否定して欲しかったのですが・・・」
「否定より肯定して差し上げますよ。
雇い主の孫娘に求婚するぐらい常識がないのですからね。」
「う・・・確かに・・・」
武雄は店員に苦笑を返すので精一杯だった。
「で、弾丸を集める理由ですが。
私の練習用です。それと。」
「はい。こちらが興味を持っているのを悟られない為・・・ですね?」
「さすがはエリートですね。話が早くて助かります。」
「元ですがね。」
店員はエリート自体は否定しない。
流石だなっと武雄は思った。
「これを仕入れた先・・・いや違うか。
これを購入した同業者をターゲットにした方が足が付かないでしょうね。
『旅人がこの街に滞在していて弾丸が欲しいと依頼された』と言えば譲ってくれるかもしれませんね。」
「そうですね。あと価格は仕入れ値+αの価格で交渉するべきでしょう。
是が非でも欲しいとは、思われないでしょうから。
あ・・・弾丸のみ欲しいと書いておきましょうか。」
武雄はそう言う。
「え?そう依頼するつもりですが?」
店員は不思議そうに言う。
「強調してほしいですね。
ちなみに店員さん。基本、売れそうにない物を置きたいとは思いませんよね?」
「ですね。私がそうでしたし。」
「弾丸が欲しいと依頼があったとして、少しは足しになるなら送っても良いと思います?」
「ですね。最悪トントンになるなら譲っても良いですね。」
「でも依頼通り、弾丸を送ると小銃の価値はオブジェぐらいしかないですよ?」
「確かに・・・んー・・・」
店員は悩む。
「だったら交渉したいと思いませんか?小銃とセットだったら売りたいと。」
「確実にしてきますね。」
「その場合は、一回突っぱねてください。
そんな売れない物はいらない。弾丸だけが欲しいと。」
「さて・・・相手はどう出るでしょうか?」
店員は聞いてくる。
「相手の取れる方法は3つ。
・売らない
・弾丸だけ売る
・弾丸の価格で小銃も付ける
でしょうか?」
武雄は選択肢を並べる。
「そうですね。」
「でも、私の中では3つ目が最上の回答です。どうやったらその3番目の回答に近くなりますかね?」
「・・・いくらまで出せるかによりますが・・・
突っぱねる際に人情に訴えますか?」
「やはり、そこですか・・・
『売れない在庫を持つ気持ちは、こちらもわかるので、原価を大きく下回るが銀6枚でだったら小銃も引き取りたい』と言ってみるとか?」
「厳しいかもしれませんね?」
「ですが、こっちは弾丸だけ欲しいのを何とか自分の所の不良在庫を増やしてでも小銃も引き取るという情けに見えないですかね?」
「見えなくもないですが・・・んー・・・あまり成功しないかもしれませんよ?」
「だったらだったで、弾丸だけ何軒か仲介して買えば良いだけですので、失敗しても構いません。」
「では、それでやってみましょうか。」
「ええ、お願いします。」
と武雄は店員に弾丸を集めるのをお願いした。
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