第68話 4日目の朝。今日こそはちゃんと起こす・・・はずがいないし。
3時課の鐘が鳴っている。
武雄の部屋の扉がノックされる。
「おはようございます・・・起きていますか?」
と小声で控えめに入ってくる。
今日もアリスであった。
とりあえず、武雄に会いたいと目が覚めたら一番に思ったので、起こしにきた・・・のだが。
アリスはベッドを見て「はて?」と思う。
昨日、一昨日とスヤスヤ寝ていた部屋の主は居なかったのだ。
トイレかな?と思い、ベッドにでも座りちょっと待つかと思った時。
アリスは後ろからガバッと抱えられる。
「きゃぁ!?」
アリスは突然の事に驚き、声を上げる。
「アリスお嬢様、おはようございます。」
抱えてきたのは武雄であった。
「タ・・・タケオ様!?・・・おはようございます!」
と驚きながらもちゃんと挨拶をする。
「いきなりでしたから、驚きました。」
とアリスは降ろされてから言う。
「いや、つい。アリスお嬢様の後ろ姿を見たらですね、したくなりました。」
と武雄は悪びれなく言う。
「さて、アリスお嬢様。食堂にいきましょうか。」
「はい。」
と食堂に向かうのだった。
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テーブルには、見慣れないと言うか、知らない料理があった。
エルヴィス爺さん、アリス、スミスは席に着く。
武雄は席に着かないで立っている。
「タケオ様は、座らないので?」
アリスは疑問を口にする。
「ええ、実はですね。
昨日は皆さんにご心配をお掛けしてしまいましたので、付け届けみたいなものですが、朝食を作りました。」
「なぬ!?」
エルヴィス爺さんは驚く。
「と言ってもパンのところだけですがね。
他のは、料理人達が作りました。
ちなみにエルヴィスさん達3人以外の皆さんには、軽くですが、食べていただいています。」
「フレデリックもか?」
「はい、いただきました。」
フレデリックはにこやかに言う。
「フレデリックさんと料理長には、試作時点と3人用の出来上がり時の両方で味の確認の為に食べて貰いました。」
「食べても良いかの?」
「構いませんよ。」
武雄の「か」辺りから皆が食べ始める。
・・・またか・・・
エルヴィス爺さんとスミスは満面の笑顔で一心不乱に食べている。
アリスは一口食べると武雄を見て、また一口食べたら武雄を見るを繰り返す。
「お気に召しましたか?」
「「「・・・」」」
皆、無言でコクコクと頷くだけだった。
「はは。そんなに美味しいですか?」
「このパンに挟まっている、卵と和えているのは何でしょう??
とても美味しいのですが。」
「それが今回作った調味料です。」
「え?調味料ですか?」
「んー・・・これは『マヨネーズ』という、卵と油とレモン汁で作った万能調味料です。」
「万能とな!?」
エルヴィス爺さんは驚く。
「対応できる料理が幅広いのです。
今は卵に和えてパンに挟みましたが、これ単体でサラダのドレッシングもできます。
また、肉料理と一緒に出すと油のおかげで甘さが増すという風に変わるのです。」
「ほぉ、なるほどのぉ。」
「タケオ様は料理も造詣が深いのですね。」
エルヴィス爺さんとアリスは感心する。
「いえ、ないですよ?」
それを武雄はキッパリと言う。
「昨日のプリンもこのマヨネーズも作るのが簡単なので私でも出来たのです。
何かを閃いたわけではないので料理に造詣が深い訳ではないですね。」
「ふふ、では言い直しますね。
良いレシピを知っていますね。」
アリスは微笑みながら言う。
「はい。
皆さんを幸せそうな顔にできる簡単レシピをいくつか知っていますので、また思いついたら出しますね。」
と武雄は答えるのだった。
ちなみに、これを食べた料理長は歓喜し涙した。
「タケオ、これは凄いぞ。これは魔法の調味料だな!」
「いえ、魔法ではな」
「あぁ。なんでこんな簡単なレシピがわからなかったのか・・・
タケオ。お前には感謝しかない。」
武雄の話を聞く気はない様だ。
まあ好きにさせるかと思い周囲を見るとサラダ担当が泣きながら食べている。
・・・気にしないでおこう。
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