第67話 アリスお嬢様の思い出。(受勲。)
その日、エルヴィス伯爵邸のある街は浮かれていた。
今日はアリス・ヘンリー・エルヴィスが受勲をする。
授与する方は、第3皇子妃レイラだ。
数日前から街は、その話題で溢れていた。
どんな勲章を授与されるのか。また、どんな衣装を着るか。とか話題は尽きなかった。
特に街で服を仕立て上げている店は一般客の入店を断り。
レイラのドレス、アリスのドレス、兵士長と各小隊長の礼服を作るのに大忙しだった。
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広間には受勲に対して招待客が臨席していた。
エルヴィス伯爵とゴドウィン辺境伯爵夫妻、テンプル子爵夫妻、伯爵・子爵各騎士団長、街の各組合長といった面々だった。
魔王国との戦は半月前に終結していた。
式典が始まる合図が鳴り、
広間は静寂に包まれる。
「まず、同日同時刻に王都の広間にて第1皇子、第2皇子、第3皇子と武官幹部、文官幹部を集め陛下が同等の演説をされます。」
つまり今からの式典は陛下がするものと同等だという意味合いだった。
「第3皇子妃レイラ様が入室されます。」
と王都守備隊隊員が告げ、扉を開ける。
レイラはゆっくりとした歩調で入ってくる。
着ているドレスは第3皇子の旗色である緑を基調としている。
レイラが壇上に上がり所定の位置に着いた時。
「軍事功労勲章 司令官章。受勲者が入室します。」
とアリスが入室してくる。
着ているドレスは白を基調としていた。
「軍事功労勲章 騎士章。受勲者が入室します。」
と兵士長と各小隊長が入室し、所定の位置に着く。
ちなみに両勲章が宣言された時、場がざわついた。
司令官章は騎士団長クラスが受賞することが多い為、
騎士でも兵士でもない者が受勲するのは初めてであった。
騎士章は騎士長クラスが受賞することが多く、
兵士長、小隊長が受勲するのは、これまた初めてであった。
この戦においての王都から各自への破格のお祝いだった。
「アリス・ヘンリー・エルヴィスおよび兵士長、各小隊長。
この度のゴブリン軍との戦において、
自らの街を知略を尽くし身命を賭して守り抜き、被害を最小限に抑えたこと、誠に見事であった。
また、今回は魔王国の別動隊を迎撃し、我が王国辺境軍の背後を襲撃するという相手の作戦を封じたという2重の意味を持っている。
アリス・ヘンリー・エルヴィスに軍事功労勲章 司令官章を
兵士長と各小隊長に軍事功労勲章 騎士章を授与し、功労に報いることとする。」
とレイラは壇上をおり、各人に一言伝え、勲章を付けていく。
レイラが壇上に戻り、招待客が式典は終わりかと思った時。
「さて、アリス・ヘンリー・エルヴィス。そなたは、今戦においてオッドアイに成ったという。
相違ないな。」
「はっ!間違いございません。」
「・・・とある話をしよう。
今から110年くらい前、王都近郊での魔物との戦闘において、
時の第1皇子が指揮する隊に大量の伏兵が現れ隊は瓦解する。
王都までの撤退戦に移行した際に、ある者が殿を務め、
皇子を守ると共に吶喊してきた敵の指揮官クラスを倒した。
また、王都に着き、皇子を城内へ帰還させると、
王都城門前に陣取り他の出陣部隊が帰還するまで守りきったという逸話だ。
その者が城門を守りきって王都内に戻ってきた時にオッドアイに成っていたという。
その者は皇子からの感謝と武勲にて王都守備隊を創設し、初代総長になる。
その者は、エルヴィス子爵という。
アリス・ヘンリー・エルヴィス。そなたの6代前の直系の祖先に当たる方だ。
今戦でそなたが自身への相当の覚悟を示す事で祖先が成したオッドアイを再現させた。
これは王家への忠誠、街への愛情、仲間との絆の結晶と我は考えている。
我ら王家は王都守備隊という精鋭を残してくれたエルヴィス卿への感謝として、
直系でありオッドアイを再現させたそなたに2つの贈り物をしたい。
本来、二つ名は個人が永久的に使用し、復活、重複はありえないのだが・・・
王都守備隊初代総長の二つ名を復活させようと思う。
直系でありオッドアイを再現させたご息女が継ぐのであれば王都守備隊初代総長も喜ばれるだろう。
二つ名は『鮮紅』という。
また、王都守備隊のみに許されている深紅のフルプレートと剣を授与するので着用を認める。
・・・以上だ。
本日は誠に喜ばしい日だ。」
レイラを除く全員が最敬礼をし。
「アズパール王に忠誠を!アズパール王国に繁栄を!」
と唱和する。
「第3皇子妃レイラ様が退出されます。」
と王都守備隊隊員が告げ、扉を開ける。
レイラはゆっくりとした歩調で退出する。
「受勲者が退出します。」
と王都守備隊隊員が告げ、扉を開ける。
アリスと兵士長と各小隊長が退出する。
受勲式は厳かに行われ終了した。
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アリスと兵士長と各小隊長は式典が終わり次第、休む間もなく馬車に乗り込みとある場所に向かった。
そこには小さな石とお酒が置いてあった。
皆で黙とうをささげる。
「さて、式典が終わりましたね。
それにしても着慣れていないのがわかってしまいますね。」
とアリスは兵士長と各小隊長に苦笑しながら話しかけた。
「ははは、いつもは兵装ですしね。
まさか、結婚式以外で礼装するとは思いませんでしたよ。
・・・『鮮紅』・・・ですか。」
「勲章だけでも驚きなのに、二つ名が付いてしまいましたね。」
「でも、俺たちはこれからもアリスお嬢様とお呼びしますけどね。」
と小隊長が言い、皆で笑っていた。
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ちなみにエルヴィス伯爵邸のある街はこれから3日間お祭り騒ぎとなる。
アリスは危ないとの理由で外出禁止。
なので主役は兵士長と各小隊長がなってしまった。
3日間飲まされ続け、4日後に発見された時は酒に浸かった死体の様な有様だった。
ちなみにアリス以外の勲章は額に入れられ、兵士詰め所に飾られている。
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エルヴィス伯爵邸の客間にてジェシーとレイラが何やらお茶をしながら話し込んでいるのをアリスが見つける。
「お姉様達、何を相談されてるのですか?」
「ん?アリスの話を童話にしようと思って。」
「恥ずかしいので嫌なのですが。」
「せっかくだから作らせてよ。ね、ジェシーお姉様。」
「そうよ、こんな美談なかなかないわよ。作りたいわ。」
「・・・私が何を言ってももう作る気なのでしょう?」
「あら、流石にわかっているわね。」
「何も言いませんから、さっさと作ってください。」
「そう?」
と言い、ジェシーとレイラはキャイキャイと話を詰めていく。
・・・後日、発売されるこの本は、王国住民の認知度90%。所持率7割と大ベストセラーになった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。