第66話 アリスお嬢様の思い出。(嘆願書。王都にいく。)
王城の広間にて、アズパール王は一冊の報告書を読んでいた。
目の前には報告書を持ってきた文官がいる。
「なるほどな。異様と感じた・・・か。」
「はい。現場の兵士長からは、結論は聞いていませんが、
あの言い方からするとたぶん結論はお持ちでしたでしょう。」
「例のアリス指揮官も同じ考えに至ったと思うか?」
「慰労会で話をしている旨を聞いております。
違和感があったというだけで会話が終わるとは思えません。
何かしらの結論はなされたかと思うのが普通かと。」
「なるほど・・・それにしてもこのアリス指揮官は上手くやっているな。」
「ええ、なんの軍事教練も受けないままで直感のみでしているのです。才能でしょうね。」
「ちなみに我はアリス指揮官と兵士長および小隊長に勲章の授与を検討しているが。知っているか?」
「聞き及んでおります。私たち文官も異存はございません。」
その時、広間の扉がノックされ、一人の男が入ってきた。
「王都守備隊総長、いかがした?」
アズパール王は、王都守備隊総長に聞いた。
「陛下。第一近衛分隊長、第一情報分隊長、第二情報分隊長が帰還しましたので、ご報告に参りました。」
「・・・確かここを発ってまだ4日、仕事熱心過ぎるな。」
「休暇も取れと命令していたのですが、エルヴィス伯爵邸がある街の住民から依頼をされたとかで、至急戻ったとのことです。」
「住民からとな・・・面白い聞こう。」
その言葉を聞き、第一近衛分隊長、第一情報分隊長、第二情報分隊長の3名が入室し礼をする。
「良く戻ったな。今、監査官からの報告書を見ていたところだ。
で、街の住民から依頼をされたと?」
「はっ!エルヴィス伯爵への報告はつつがなく終わりました。
また、例の書簡については王都に一任する旨、承っております。
あと、街の住民は今回のアリス指揮官への誹謗中傷の件を知っておりました。」
と第一近衛分隊長は報告する。
それを聞き、報告に来ていた文官は苦虫を潰した様な顔をしている。
「うむ。それで?」
「住民からはエルヴィス家やアリス指揮官に迷惑が掛からない様に王都にお願いという嘆願書を出したいとのことで送付先を教えてほしいとの相談を受けました。写しを持って参りました。」
アズパール王は、住民からの嘆願書を受け取り軽く中を読んでいく。
「面白いな。拙い文章だが気持ちが籠っている。
伯爵家は街の為に奮戦し、街の住民は伯爵家の為に動く。
心温まるな、何かしたくなる。
他の嘆願書もこれくらいの内容なら笑ってられるのだがな。」
「はい。」
「署名もされているな。何人分集まったと聞いた?」
「3万人と。」
「・・・は?」
「ですから。3万人分の署名が集まっているそうです。」
その言葉にアズパール王、文官、王都守備隊総長は絶句する。
「ち・・・ちょっ・・・ちょっと待て。
5万人都市で3万人分だと?何日でだ?」
慌てて文官が確認する。
「私が緊急に向こうの街を出てから到着までの5日間、実質は4日間です。」
・・・皆、驚愕を示す。アズパール王ですら口を半開きにして聞いている。
「ですので、至急戻ってきました。」
「・・・これは処理の仕方を一歩間違えれば暴動に発展してもおかしくないぞ。」
と文官は独り言を漏らす。
「エルヴィス家やアリス指揮官への絶大な人気が窺い知れますね。」
王都守備隊総長は言う。
「はぁ・・・勲章だけで済むのか?この案件は?」
と弱気なアズパール王。
「さて、住民が納得する形で決着させますか。
アリス指揮官の名誉を守り、誹謗中傷を和らげる方法の模索をしないといけませんね。」
王都守備隊総長は、少し楽しそうに言った。
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後日、エルヴィス伯爵邸に向け王都から緊急伝文が送られる。
送り先は、エルヴィス伯爵とエルヴィス伯爵邸にいるレイラに向けてであった。
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