第64話 アリスお嬢様の思い出。(伝令の報告)
エルヴィス伯爵邸の客間にて3姉妹がのんびりしていた。
ちなみに末っ子のスミスは勉強に勤しんでいる。
「そろそろ王都に戻ろうかなぁ。」
とレイラが言い。
「そうね。私も随分、屋敷を空けてしまったし。私も帰ろうかしら。」
とジェシーが言い。
「屋敷も寂しくなりますね。
では、今日はお姉様達の土産探しをしましょうか。」
とアリスは提案し、姉達もそうしようと答えていた。
アリスの外出禁止は昨日の時点で解除されていた。
アリスが街を歩いていると「アリスお嬢様!大丈夫ですか!?」と皆に言われ。
「大丈夫よ」と微笑みながら挨拶をしていた。
今日も言われるのかな?と思いながら、さて、準備しようかと思っていたところ。
客間にエルヴィス伯爵が入ってくる。
ちなみに、ゴドウィン辺境伯爵は監査会が終了したのち騎士団100名と共に魔王国との戦場に戻っていった。
「王都から伝令殿が戻ってこられた。広間でお待ちじゃ。皆で報告を聞くかの。」
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広間にはフレデリックと使用人たちが椅子を運び終えており、椅子に座り伝令の3名が待っていた。
扉が開き、フレデリックが入室する。
「第3皇子妃レイラ様、我が主、ゴドウィン辺境伯爵妃、アリス・ヘンリー・エルヴィスが入室します。」
と伝えられ、レイラ、エルヴィス伯爵、ジェシー、アリスが入室してくるのを伝令達は敬礼をして待っていた。
エルヴィス伯爵が伝令達の前に着くと、
「伝令殿、当方の屋敷を出立をされて5日、かなりお早くご報告に来ていただき感謝いたします。」
「はっ!第3皇子妃レイラ様、エルヴィス伯爵、ご依頼の件、ご報告に上がりました。」
「ええ」、「うむ」と両者から返事がくる。
「では、皆さん立ち話もなんでしょう。座ってお話しください。」
とフレデリックが促す。
その言葉を合図に皆が座る。
「先に言わせていただくが、ゴドウィン辺境伯爵は魔王国との戦場に戻られた。」
「はっ!了解しました。
では、初めにエルヴィス伯爵の依頼の件にて報告いたします。」
「うむ、お願いする。」
とエルヴィス伯爵は頷き、アリスは若干顔を伏せてみせた。
「王都において、今回のゴブリン軍との戦闘は民の間で話されております。
噂の出どころは、エルヴィス伯爵領から戻ってきた商隊が中心になっております。
また、現状では良い事しか聞こえてまいりません。
ちなみに話の中でアリス指揮官を『深紅の戦乙女』『防衛戦の女神』『奇跡の戦姫』『エルヴィスの守護者』等々いろいろな二つ名が存在します。」
「はぁ?・・・んんっ・・・わしの勘違いだったのかの?
王都ではオッドアイについての偏見が強いと思ってしまっておった。」
「勘違いと言うには少し違います。
王都内でもオッドアイへの偏見や差別は少ないですがあります。なくならないのが現状です。
今回は戦闘経緯とアリス指揮官の武勇伝がそういった物を上回っているという感じです。」
「なるほどの。」
「エルヴィス伯爵の依頼の件については、以上です。
犯人については、お聞きになりますか?」
「いえ。そちらについては、王都にお任せします。」
「はっ!王都にて適切に処理いたします。
では、報告は終わりです。」
「ご苦労でした。」
報告会を終わらせようとしたが、伝令が続きを話し始めた。
「さて、この件は、陛下のお耳に入っております。
陛下はアリス指揮官や兵士の奮闘に甚く感激しており、
何かしらの褒章・・・たぶん勲章が授与される運びになっています。
また、陛下よりレイラ殿下への言付けを賜っております。」
「何かしら?」
「そろそろ戻って来る頃だと思うが、伝令が伝えた通り、勲章を授与する旨を検討している。
ついては、我の代わりに叙勲をしてきてもらいたい。
なので、もう少し滞在する様に。とのことです。」
「わかりました。エルヴィス伯爵、もう少し滞在させていただきます。」
「はっ!ごゆるりとお過ごしください。」
とエルヴィス伯爵が答えレイラが頷きを返す。
「伝令殿、先日の監査会に立ち合うことが出来ず、ご無礼をいたしました。
私はアリス・ヘンリー・エルヴィスと申します。
当日の指揮官をさせていただきました。」
とアリスが挨拶をする。
「いえ、当時のご采配はお見事でした。
ご報告をした今は伝令ではなくなりましたので、役職のみ言わせていただきます。
私は、王都守備隊で第一近衛分隊長をしております。
また、今回同伴した者は、王都守備隊 第一情報分隊長、第二情報分隊長をしております。」
横に控えている伝令が軽く礼をする。
エルヴィス伯爵とジェシーは顔を引きつらせる。
レイラだけは普通に聞いて、言われているアリスは顔には出していないが十分驚いている。
「まったく幹部ばっかじゃない・・・王都守備隊は暇なの?」
と誰もが思いつくも言えないことをレイラが言う。
「まったくですね。普通はうちの新兵がするのでしょうが、
王都守備隊初代総長の直系の系譜であるエルヴィス伯爵家に行くことになりましたし、
アリス指揮官が初代総長と同じ様な経緯でオッドアイになった可能性があるなど、
一目見たいと幹部連中が諸手を上げましてね。
異例中の異例で今回は全部、王都守備隊管轄になっています。」
と、これまた楽しそうに話す。
「いやいや、普通は王都守備隊の兵は使わないわよ。
そこらの騎士団の騎士長以上の格なんだし。」
とレイラは苦笑している。
第一近衛分隊長は、コホンと咳ばらいをしてから。
「それでは、エルヴィス家当主、エリオット・ヘンリー・エルヴィス伯爵殿、
王都守備隊より感謝を。
我々は王都守備隊初代総長の隊訓を守り、ここまでの精鋭となりました。
そしてこれからも隊訓を守り、精兵を育成し、王の忠臣として初代総長に対し、
恥じない体制を取っていくことを誓わせていただきます。」
と言い、
「王都守備隊 第一近衛分隊長殿、第一情報分隊長殿、第二情報分隊長殿、
エルヴィス家は感謝を受け入れます。
そして我らエルヴィス家は初代様が陛下より賜りし、民と領土を守り、
この度の王都守備隊からの尊敬を失わないよう努力するとともに、
陛下への変わらぬ忠誠を誓わせていただきます。」
とエルヴィス伯爵は返答する。
「そして、アリス・ヘンリー・エルヴィス殿。
この度のゴブリン軍との奮戦、誠にお見事でした。
そのオッドアイは、王都守備隊初代総長と同等のご覚悟を示された証と我らは考えております。
その目は卑しい物ではありません。誇りを持って過ごされることを期待します。
また、アリス指揮官がその目のせいで謂れなき誹謗中傷を受けることは、我ら王都守備隊への誹謗中傷として受け取ることをここに宣言します。
これは王都守備隊全隊員の総意になります。」
「王都守備隊全隊員のお心遣いありがたく思います。
祖父より初代様の目に関する逸話を聞くことができ、私は心温かくさせていただきました。
以後、この目に関しては、共に戦った兵士との絆として、また初代様の直系の証として誇りに思い生きてまいります。」
とアリスは礼をする。
「では、伝令のお役目と王都守備隊からの感謝が終わりましたので、我々はお暇いたします。」
第一近衛分隊長殿以下2名は、そう言い席を立つ。
「もうお帰りですかの?」
とエルヴィス伯爵は聞くと
「はい、この帰路をのんびりと過ごせとうちの総長から言われています。
まずはこの街の居酒屋から回ろうかと。」
伝令の3名はにこやかにしている。
「あまり飲み過ぎないことをお祈りいたします。」
とアリスに忠告され。
「はは、心配いただきありがとうございます。
では、その言葉を胸に店の酒を枯らさない様に努力いたしましょう。」
と朗らかに退出していった。
「何とも楽しい人ですね。」
とアリスは感想を言うと。
「王都守備隊の隊員は皆あの感じねぇ。
仕事中は無口だけど、プライベートは陽気な人の集まりみたいよ。」
とレイラは言った。
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エルヴィス伯爵邸を後にした王都守備隊3名は城門に向け馬を引きながら酒屋を探していた。
「それにしてもアリス指揮官は美しかったですな。
うちの総長もアリス指揮官の様な有能な美女に着いて貰いましょうか?」
「まったくですな。今の仕事の効率が2倍になるかもしれませんな。」
などと笑いあいながら仕事明けの酒を楽しみにしていたところ。
ある店の前を通りかかった時。
「もし、前に来ておられた伝令の方でしょうか?」
と声をかけられるのだった。
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