第57話 アリスお嬢様の思い出。(長女の散策。)
長女ジェシーは、エルヴィス伯爵邸に到着した次の日に街に散策に出ていた。
「数年経ってもあまり変わっていないわね。」
街並みを確認しながらのんびりと歩いていた。
目的地は昔、良くこっそり通ったスイーツ店。
屋敷から城門までの一本道沿いにあるお店だ。
アリスへのお土産を買いに行く途中である。
ゴドウィン辺境伯爵に嫁いでもう3年が立っていた。
里帰りは、嫁いで1年後に1回と父親の葬式だけだった。
辺境伯爵領の街の民も兵士も良くしてくれるし。
ゴドウィン辺境伯爵については、もうちょっとしっかりとしてくれると安心するんだけどなぁと思いつつも。
子供っぽいところも好ましかった。
結局のところ、ゴドウィン辺境伯爵の事が大好きなのは間違いなかった。
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「ハクションッ!!」
ゴドウィン辺境伯爵が大きなくしゃみをした。
「風邪かの?」
エルヴィス伯爵の問いかけに「いえいえ」と返す。
「時にゴドウィン様、お姉様とはどうなのですか?」
とアリスが問いかける。
「ん?別に何もないぞ?
あ~・・・昨日のを見て思うことがあったのか?」
「ええ。」
「ふふん、問題ない。
ジェシーのあの気質も気に入っている。部下が言わないことを言ってくれるのでな。
親父殿も分かると思うが、伯爵にまでなると部下から厳しい進言はなかなか上がってこないのだ。
ジェシーは内政も外交もわかる珍しいタイプでな。話をしていると慢心を諫めてもらえるのだよ。
・・・ちなみにな。ジェシーは今はああだが、俺と二人っきりの時は結構、甘えてくるのだよ。
その落差がまた凄くてな。これも気に入っておる。」
「ええ!?あのお姉様が甘える・・・考えられません。」
「ふふ。ジェシーには内緒にしてくれよ。」
そんなノロケ話を聞いていたエルヴィス伯爵が「ひ孫はそろそろかのぉ」と楽しそうにしていた。
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ジェシーは目的地に到着。
店の中に入ってみると
「ジェシーお嬢様!!!!?????」
店のおかみさんが大慌てで出迎えてきた。
「あら、おばさん。こんにちは。
お元気そうで何よりです。」
「元気も元気よ。うちの旦那も元気いっぱいよ。
それよりどうしたの?急に来て。
あ!昨日の馬車はジェシーお嬢様のだったのね。
エルヴィス伯爵様に何かあったの?」
「いえいえ。お爺さまは元気過ぎて困ってしまうくらいですよ。
実はアリスがね。」
「アリスお嬢様がどうかしたの!!!!????」
「おばさん、落ち着いて。
特に病気とか怪我ではないのよ。一応、部屋から出てきているし。」
「最近、アリスお嬢様を街で見かけなくてね。
何かあったのじゃないかと街の皆が心配しているのよ。」
「ええ。街にも行っていないのですってね。
私が理由を聞いても『平気です』っていうのだけど。
食事中も結構、上の空であまり食事をしていないっぽくて。
で、甘い物なら食べるかな?と思っておばさんの所に来たの。」
「あら。あのアリスお嬢様がねぇ。
そういうことなら協力するよ。
割引で奉仕しちゃうから好きなのを言って頂戴!」
「ふふ。おばさん、そこはタダではないの?」
「そう言いたい心境なんだけどね。こちらも商売だからトントンの利益なしで奉仕するわよ。」
「そう・・・では。値引きなしの価格で良いから最高の物をいただけるかしら?」
「そう言われると腕を振るわずにはいれないわね。何人分必要かしら?」
「そうねぇ。お爺さまやうちの旦那もいるし、アリスにスミスにフレデリック・・・30人分かしら?」
「あら?屋敷の皆で食べるのかい?」
「ええ。大勢で食べた方がアリスも食べやすいでしょうし。
最近、塞ぎ込んだアリスの顔が幸せな顔になる様を皆で見たいのよ。」
「なるほど、わかったわ。」
「いつぐらいにできるかしら?」
「そうねぇ・・・出来るだけ早く出来る様にしたいけど・・・晩課の鐘までには作っておくわ。」
「わかったわ。誰か来させるからよろしくね。」
「ジェシーお嬢様はいつまで屋敷にいるんだい?」
「そうねぇ。この間のゴブリン軍との戦の件で、なぜか王都から監査官が来て調書を取るらしいのよ。
なので、1週間か2週間くらいかしら。」
「ゴブリンとの戦闘で王都から来るなんて珍しいわね。」
「珍しいではなくて、ほぼ初めてらしいわよ?うちの旦那もそう言ってたし。」
「何だか変ね。」
「王都の考えることは分からないわよ。」
「それもそうねぇ」
「じゃ、おばさん。また来ます。」
と店を去っていったのだった。
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ジェシーが屋敷に戻ってきた。
出迎えたのは、フレデリックであった。
「おかえりなさいませ、ジェシーお嬢様。」
「ただいま、フレデリック。
通りのスイーツ店に注文をしましたので、晩課の鐘の時に受け取りに行ってください。
あと、スミスを客間に来させてください。お願いしたいことがあります。」
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