第56話 アリスお嬢様の思い出。(長女の帰還。)
エルヴィス伯爵邸の玄関に1台の馬車が停まり、一人の女性が降りてきた。
「皆、元気かしら?」
それを出迎えたのはフレデリックである。
「ようこそお越しくださいました。ゴドウィン辺境伯爵夫人様。」
「ええ、フレデリックも元気そうね。」
ゴドウィン辺境伯爵夫人は、笑顔で返した。
フレデリックは、笑顔で頷き、扉を開ける。
玄関で出迎えたのはスミスだった。
「ようこそお越しくださいました、ゴドウィン辺境伯爵夫人様。」
「エルヴィス家次期当主殿、お出迎えありがとうございます。
エルヴィス伯爵より、お誘いをいただきましたので、参りました。」
と軽くスカートの両端を持ち挨拶をする。
「祖父は、客間にてお待ちです。」
と、ここまで定型文。
「ジェシーお姉様、おかえりなさい。」
「ただいまスミス。
立派に口上が言える様になったのね!偉いわ!」
と、感激し、少し涙を浮かべていた。
「お爺さま達は客間で待っています。」
「わかったわ。」
フレデリックが客間のドアをノックし、中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開ける。
「失礼します。ゴドウィン辺境伯爵夫人様がお越しになりました。」
「うむ、通せ。」
ジェシーが入室する。
室内にいたのは、エルヴィス伯爵とゴドウィン辺境伯爵とアリス。
優雅にお茶を楽しんでいた。
「失礼します。お爺さま、ただいま戻りました。」
「ジェシーおかえり。」
「アリスも元気そうね。」
「はい。お姉様もお変わりなく。」
「手紙いただきましたわ。何か楽しいことをするそうで?どう」
とジェシーが話を進めようとした時。
「ちょっと待てぃ!・・・ジェシー!俺に挨拶はないのか!?」
「あらアナタ。さっき目線を合わせたら頷いたじゃない?」
「したさ。入ってきて目線を合わせたから、したさ!
でも、一言有っても良いでしょうが!」
「・・・はいはい。
アナタ、魔王国との戦争またエルヴィス伯爵邸までの強行軍お疲れ様でした。
迅速なるは辺境軍の礎ということを証明されたこと、お見事と存じます。」
「うむ。」
とゴドウィン辺境伯爵はご満悦そうだ。次の一言までは。
「ただし。」
ビクッ!ゴドウィン辺境伯爵が体を硬直させる。
「魔王国との戦争において、周辺2領地よりも多い3000名の兵を動かし。
統合辺境軍5000名の総司令官たる辺境伯爵が・・・それも騎士団長と共に戦線を外れるとは何事ですか!」
「いや・・・しかし・・・」
「ええ、ええ。個人的にはアリですよ。惚れ直すくらいです。」
「ならよかっ」
「しかし!外聞というのも考えなくてはいけないのですよ?
魔王国との戦争は、兵の中にいる王都派から王都に筒抜けになるんですからね?」
「他に手段が思いつかなっ」
「他の手段?あったでしょう?
辺境軍騎士団長以下100名をお爺さまとフレデリックに貸し出し、迅速に救援に向かってもらう。
エルヴィス伯爵軍残り900名を辺境軍に別動隊として編入し、テンプル子爵と共に戦線を維持する。
そうすることによって辺境軍の任務遂行能力と臨機応変さをみせしめる。となりませんか?
・・・そういえば、スタンリー騎士団長がいませんね。」
「先に領地に返しました。」
ゴドウィン辺境伯爵が若干、敬語気味に変化中。
「・・・わかりました。では、街に帰ったらその辺の経緯も含め、
アナタ、スタンリー騎士団長、全ての騎士長を集めて反省会です。」
「え・・・」
「返事は?」
「はぃ・・・」
と夫婦漫才を終える。
「話は付いたかの?」
にこやかにエルヴィス伯爵が問う。
「ええ。お爺さま。時間を取らせてごめんなさい。」
「相変わらずじゃのぉ。
ちなみに到着じゃが、ちと早すぎないかの?
あと4日かかると思っておったのじゃが。」
「ええ。辺境軍は最後の砦でしょ?なので、いつでも避難出来る様になっているのよ。
というか、出来る様にしたんだけどね。
ちなみに緊急伝文が来てから1時間後には、出発の準備が終わったわ。
早く着いたのは、昼夜問わず走ったからよ。」
「さすがはジェシーじゃな。
いろいろすまなかったの。」
「いいのよ。
実際に避難しなきゃいけない時が来てしまった場合、昼夜問わず走る事が出来るかの確認にもなったし、良い訓練になったわ。」
「そう言ってくれると助かるの。」
「で、ゴブリン軍を殲滅したのは知らされていたけど、それとアリスとの関係性は?」
簡易的な報告は戦闘終了後、辺境伯爵宛と王都向けには送られていた。
「ふむ。そのゴブリン軍と戦った兵士指揮官がアリスじゃ。」
「へぇ、やるじゃないアリス。」
「ありがとうございます、お姉様。」
「で、緊急伝文にあった遊びと言うのは何かしら?」
緊急伝文の読点の前の文章の頭文字を合わせると「あそび」になる。
「ほぉ。良く気が付いたの?」
「ええ。すぐに気が付いたわよ。」
「ふむ・・・戦の後の慰労会の最中に屋敷にアリス宛に届いた投書じゃ。」
アリス宛に届いた投書をジェシーに渡す。
「ええ。何が書いてあるのでし・・・」
ジェシーも気軽に読み始めたが、見る見る無表情にそして目が吊り上がっていく。
それを見ていたゴドウィン辺境伯爵がガタガタ震えていた。
ちなみにエルヴィス伯爵は「ヒィ!」と心の中で叫んでいた。
読み終えたジェシーは一言。
「わかったわ。とりあえずアリスは、当分外出禁止よ。」
ここまで読んで下さりありがとうございます。