第53話 アリスお嬢様の思い出。(現状の確認と怪しい手紙。)
魔王国との戦争は防衛戦が割と得意なテンプル子爵に任せ。
エルヴィス伯爵とゴドウィン辺境伯爵はともに馬で駆けていた。
お供の騎士団100名ずつ、計200名も駆けていた。
全員騎馬だ。
馬が潰れてしまうギリギリのラインで途中途中休憩を入れながら出来うる限りの全速で走っていた。
目指すはエルヴィス伯爵邸のある街だ。
魔王国との戦争は恒例行事化していたが、本気での戦いだった。
今回も一進一退を繰り返し引き分けになる公算が見えてきた矢先にアリスからの緊急伝令だった。
街に残してある兵は、戦力としては及第点の者がほとんど。
戦力としてはアレだが、警邏としての能力は騎士よりも高い。
ある者は仲裁が上手く、ある者は備品管理が上手く、ある者は犯罪の捜査能力が高い。
専門職に近い者たち。
それをアリスが率いて戦うという。
あの者たちで街が持つのか・・・いや持っていると信じたい。
城門を閉ざし、外壁を登ってくるゴブリンを落とす。そんな籠城戦ができるなら。
籠城戦を意図して街を作った。ただし想定は兵士100名を相手にだ。
ゴブリン200名は兵士100名相当ではない。兵士300名ぐらいに相当する可能性もあった。
ヤツらは休まないのだ。
昼夜問わず繰り返されたら籠城側は悲鳴を上げるだろう。
そんな戦いができるのか・・・
気が焦る。
街が見えてくる。
ゴブリン襲来から5日が過ぎていた。
もうすぐだ!
火の手も上がっていない。城門も壊されていない。
良くやった!
これからは我々が・・・あれ?
戦場はどこにもなかった。
いつもと変わらない外観、ゴブリン1匹すらいない。
何か肩透かしを食った感はあったが、城門を入場する。
その際に、ゴブリンがどうなったか聞いてみた。
総勢81名にて突貫、鐘1つの間に殲滅を成し遂げたとのことだった。
訳が分からない。
とりあえずエルヴィス伯爵宅に向かう。
お供、198名は兵士詰め所で休憩させることにした。
エルヴィス伯爵とゴドウィン辺境伯爵と両騎士団長の4名はエルヴィス伯爵宅に到着。
出迎えたのはスミスであった。
エルヴィス伯爵は不思議に思った。
アリスの出迎えは???
スミスの話では、当日、ゴブリン軍との戦争に勝利を収め、
嬉しそうに慰労会からアリスは帰って来たらしい。
だが、その後、部屋からほとんど出て来ないとのこと。
もう5日である。
一応、食事は自室で取っているとのことだったが、メイドが何か聞いても。
「申し訳ない。」とだけ伝えてきたとのこと。
何の事だかわからずまずは、ゴブリン軍との戦いの軌跡を聞くために兵士長を呼び出した。
兵士長の説明では。81名で突貫。死者14名、負傷者30名です。戦闘時間は鐘1つの間だったとのこと。
その話を聞いて室内の4名は唸りを上げる。
その状況下と兵士の練度、専門性を考え、自分が指揮官だったらどうだったか。
ハッキリ言って全滅と4人とも結論を出す。
アリスは勲章物の戦果を出した。
また、アリスは慰労会及びその後の墓参りで全ての生き残った兵士に声をかけたという。
それだけに及ばず、亡くなった兵士の遺族の方々に、涙ながらに兵士の死は無駄ではないと説明をし、
住民たちには私一人の業績ではなく、81名全員の業績だと言い回り。
過度に持ち上げないでくれと頼んでいたそうだ。
軍事教練の題材になりそうなくらい有能な指揮官ぶりを何の教育もされていないアリスがこなしたのだ。
それなのに突然、屋敷から出なくなっているとのこと。
一連の話を聞いた指揮官4名は増々わからなくなった。
とりあえず4名は実況見分をするために現場に向かった。
現場に向かう途中、エルヴィス伯爵は道すがら街の人達にアリスお嬢様は平気なのかと口々に問われた。
それも1人、2人ではない。
何十人という人に聞かれたのだ。
流石にエルヴィス伯爵もアリスの絶大な人気を実感した。
アリスは街を散策するのが日課だった。
街に出て来ないのが、1、2日なら用事や病気だと思うだろう。
3日目以降では、何かあったかと疑問に思い。今日で5日。異常事態なのだ。
ともかく、現場に到着した4名は付き添った兵士長の説明の元。
細部に渡り、検証し始める。
そうこうするうちに第2陣100名が戦場より丁度、到着する。
指揮官はフレデリックであった。
フレデリックも兵士長の説明を聞いて、唸りを上げる。
前の4名と同じ感想、感覚になったみたいだ。
ただし、フレデリックはその後の行動が気にかかった。
帰ってきてからの行動がおかしいのだ。
第2陣も兵士詰め所でお留守番となった。
5名が、エルヴィス伯爵邸に戻り、客間にて、アリスが屋敷に戻ってきた際の状況を確認した。
アリス宛の投書があり手渡したとのこと。
封蝋があることも判明した。
それもここ連日とのこと。
明らかにその投書が怪しい。
しかし、いくら孫娘でも部屋に押し入る訳にもいかない。
八方ふさがりかと思った矢先。
客間のドアをノックする音が。
「どうぞ。」
エルヴィス伯爵が入室を許可する。
入ってきたのはスミスだった。
「お爺さま、お話の最中に申し訳ありません。」
「構わぬよ。で、どうしたのじゃ?」
「僕は、どうしてもお姉様に元気になって欲しくて。
今の原因である投書をお姉様の部屋から持ち出しました。
お叱りも受けます。罰も受けます。
お姉様を元気にしてください。お願いします。」
頭を下げお願いするスミス。
「スミスの言い分は分かった。
とりあえずこれは預かろう。
別命あるまで下がっていなさい。」
スミスは部屋に戻っていった。
ちなみに今のスミスの話を聞いていて、エルヴィス伯爵は涙がでそうだった。
孫に苦労をかけさせているなぁっと。
「さて。何が書いてあ・・・・」
気楽に読もうとしたエルヴィス伯爵の顔が見る見る険しくなっていく。
そして、読み終えて一言。
「わし、ちょっと王都に行ってくるわ。」
ここまで読んで下さりありがとうございます。