第414話 食前の運動1。
「・・・マイヤーさん。
あの3人だけで平気なの?」
エリカがマイヤーに聞いてくる。
周りの面々も頷く。
ちなみにステノ工房の2人もこっちのかまどまで避難してきた。
アーキン達4名は皆の1歩外側の四方に座り結界の準備をしていた。
「ヴィクター殿とジーナ殿の実力はわかりませんが・・・
キタミザト殿ならオーガ1体程度なら問題ないでしょう。」
マイヤーが答える。
「本当に?
カサンドラ、オーガって強いんでしょう?
何人で対応する物なの?」
エリカが隣のカサンドラに聞く。
「普通なら兵士3、4人で対応しますね。
剛の者なら2人で対応するのが一般的ですね。」
「ならタケオさんはさらに強いってこと?」
「キタミザト殿は1対1では無類の強さをお持ちですから。」
マイヤーが苦笑しながら答える。
皆が「本当かなぁ?」と戦いが始まるのを見守るのだった。
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皆から森側に離れた所で武雄とヴィクターとジーナはオーガが来るのを待っていた
「さてと・・・2人とも大丈夫ですか?」
武雄が装備や服装のチェックをしながら言ってくる。
「はい、主。私は平気です。
ですがジーナが・・・」
ヴィクターが心配そうにジーナを見る。武雄もジーナを見る。
「ご主人様、お父さま、平気です!」
ジーナが大人2人からの心配そうな眼差しに緊張しながら答える。
「主は大丈夫ですか?
3人で対処する方が良いのでは?」
「私ですか?1人で十分です。1体くらいなら問題ないでしょう。
前にも戦いましたし。」
「1対1でですか?」
「ええ、観衆の面前で。
ヴィクターはどうですか?」
「訓練で何度も。負けはしません。」
「相手は魔物ですが、大丈夫ですか?」
「同族でないですから問題はありません。」
ヴィクターが答える。
「そうですか。ジーナは命のやり取りは初めてですね?」
「はい!」
ジーナが緊張しながら答える。
「・・・ヴィクター、ジーナ。
アナタ達の命はオーガごときと同等ではありません。
私の部下はその辺の魔物と同じ命の価値ではありませんからね?
勝手に死んで貰っては困ります。」
「「はい!」」
「2人とも私の部下ですが、2人とも自由を得るために私の下に来ました。
私の下で機械的に働くのではなく、楽しんで働きなさい。
いろんな人と話し、笑い、怒り、悲しみ、楽しみ・・・
折角、領主や貴族というしがらみから解放されたのです。
今まで出来なかった事を経験しなさい。
そしてジーナ、戦闘も貴族のままでは命令をするだけだったかもしれない事を、自らが行動するという経験を積めると考えなさい。
今は無理に相手の命を断てとは言いません。
まずは戦闘の雰囲気を感じなさい。
ヴィクター、ちゃんと娘の面倒を見るのですよ?」
「はい、主。
ジーナ、無理をして前に出る必要はない。
基本的にはオーガの攻撃を防御する事に徹しなさい。
相手の武器に対しては・・・」
ヴィクターがジーナに簡易的な防御の方法を教え始める。
武雄が森の方に少し歩くと。
「ミア、タマ。」
「はい、主。」
「ニャ。」
「マイヤーさんの所に行って周囲を警戒しておきなさい。
あの人達はアズパール王国の精鋭部隊です。
何かあればマイヤーさんが上手く対応するでしょう。」
「わかりました、主。
タマ、行きますよ。」
「ニャ。」
チビッ子達がマイヤーの下に向かうのだった。
武雄は服装を再度チェックをしその場で黙想を始めるのだった。
・・・
・・
・
「ご主人様、来ます!」
武雄はジーナの声で目を開き、小太刀を右手で逆手に持つ。
と、オーガ2体が森をもうすぐ抜ける所だった。2体のオーガはこん棒を右手で持っていた。
武雄とオーガとの距離20m。
「グォォォォ!!!!」
森を抜けたオーガの片方が雄たけびを上げた瞬間。
武雄は左手を向かって左に居るオーガにかざし、「ファイア×15 ガトリング 発動」とファイアの連射をオーガに浴びせる。
「グォォォォ!!!!」
雄たけびと共に左に居るオーガが右手のこん棒を振り上げ走りながら殴りかかってくる。
武雄は走り始めたのを見ると右に居たオーガの足元に向けて「ストーンエイク×10、エクス×10 発動」と「ズドドドドドドドド」という音と共に右に居たオーガの足元の地面が爆発しバランスを崩し転んでいるのがわかる。
と、左に居たオーガが目の前に迫り殴りかかってくる。
武雄は「あの時と同じで良いかぁ」と思う。
武雄は左手に「シールド×10」を作りこん棒を受け止めると左側にこん棒をずらし、力を左にいなす形にする。
するとオーガの体勢を前のめりにすることができた。
武雄は右手の小太刀を振り上げオーガの左脇側から左肩口を斬りつける。
斬りつける時に「エレク×15」を発動し傷口から電気を流し、痺れさす。
と、オーガは「グゥゥゥゥ!!!!!!!」と唸り声を上げるが左腕が動かないようだ。
更に、武雄は一歩踏み込みオーガの左肩の上の手をそのままオーガの首左に当てる。
当てた瞬間から「エレク×15、エクス×15」を同時に発動しオーガに衝撃を与えながら真横に切り裂く。
オーガは声を出す間もなく絶命。
武雄の横に倒れる。
倒れたオーガに武雄は左手をかざし、「サンダ×35」を打ち込み動かないことを確認するのだった。
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武雄が戦闘をしている間、誰一人として声を出せなかった。
マイヤーを除く皆がただただ呆気に取られていた。
アーキン達4名は報告書では知っていたが目の前で王国最強の片翼の戦い方に目を見張っていた。
そして呆気に取られたのは、バランスを崩し転んでいたもう1体のオーガもだった。
仲間が人間種1匹にいとも簡単に殺されてしまった事に唖然としているようだった。
ヴィクターとジーナの2人は自らの主人の武力の凄まじさをこの時初めて見た。
見惚れてしまうぐらいに強くそして鮮やかだった。
力こそ全て・・・魔王国に所属する者はこの掟が全てだった。
ヴィクターもジーナも自らを拾ってくれた主は優しい人柄であり、自分たちの境遇も理解してくれる人格者として慕おうと考えていたが・・・間違いだった。
自分達を従えるだけの武力を有している。
「自分は見る目がない。主(ご主人様)は強くそして優しい。私達に相応しい主(ご主人様)なのだ。」
2人は武雄が人間種という事で無意識の内に侮っていたのをこの時初めてわかった。
そして同時に嬉しくもあるのだった。
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「ヴィクター、ジーナ。」
武雄が2人に顔を向けてくる。
「「はい!!」」
「手伝いが必要ですか?」
「「必要ありません!!」」
2人が返事をして自分たちの戦闘を開始するのだった。
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