第413話 実験小隊の決断と夕飯の支度。
森内の少し小高い所に洞窟があるのを少し遠目に見える所に1個小隊がいた。
「隊長、準備完了しました。」
青年に対して1人の兵士が報告をしてくる。
「わかった。
・・・106号との接続。」
「「問題はありません、良好です。」」
「周辺状況。」
「周辺300mに魔物はいません。」
「対象。」
「洞窟内から移動しておりません。」
「班長。」
「展開している兵士全員が異変があり次第即時対応可能です。」
「・・・万が一の際は106号を自爆処置する。」
「「はい。」」
「最終試験開始。洞窟内の盗賊の捕縛をしろ。」
「はっ!」
「106号起動!」
「「起動します!」」
「グォォォォ!!!!」
緑色の塗装を施した106号が起動し、起立し洞窟に向けてゆっくりと移動を開始する。
・・
・
「行ったか・・・班長、何か私は忘れていないだろうか。
いつも早とちりをして失敗してしまうのだが・・・」
「今はないかと。
それにしても今回の106号は最終試験まで何とか来ましたね。」
「あぁ、やっとだ。
・・・101号から素体を変えたそうだな?」
「ええ、漏れ聞こえた所ではオーガを素体に使っているらしいです。」
「オーガか・・・オーガなら兵士3、4人で対応するのが基本だが、106号が暴走した場合、実験小隊の我ら20名で足りるだろうか?」
隊長が悩む。
「何とかするしかないでしょう。」
「そうだな、自爆処置もあるしな。」
隊長は頷きながら少し遠くに見える洞窟を目指すのだった。
・・・
・・
・
森内の洞窟の前にて。
「隊長、最終試験終了しました。」
班長が報告してくる。
「了解。
ふぅ・・・何事も無く無事に終わったか。
結果とこちらの被害は?」
「対象の盗賊は死者1名のみです。他は拘束しています。
こちらに被害はありません。
試験結果として上々かと思います。」
「そうだな。
1体で盗賊の駆除が出来るのは楽になるかもしれないな。
じゃあ、撤収準」
「報告!」
1人の兵士が血相を変えて走り込んでくる。
「どうした!?」
「森の奥からオーガ2体が近づいてくるのを確認しました!」
「なに!?
2体・・・班長、全員を集合!」
「はっ!全員集合ーーー!」
班長が走って皆を集めに行く。
「ちなみにオーガとの距離は?」
「400mくらいかと。こちらには気が付いていないようでゆっくりと歩いています。」
「そうか・・・」
隊長は何気に周囲をぐるりと見渡す。
「・・・街道と広場か?」
遠目に街道があるようには見える。
隊長は決断を迫られる。
・・・ここでの愚は決断をしない事。
106号を使ってオーガ2体を倒し町や村の被害が出ないようにするのも1案としてはある。
だが、自分たちの仕事は106号の最終試験。
ここで皆に無理をさせる必要があるのか・・・自分たちが去ればオーガは街道には行かない可能性もある。
「戦果を上げる必要もない・・・か。」
と、班長が小隊全員を集めて戻って来る。
「隊長、集合しました。」
「うむ。今オーガ2体がここに向かっているという報告を受けた。」
「「はっ!」」
兵士達が返事をする。
「即時撤収する。
準備も不要だ、即行動する。」
「よろしいのですか?
街道と少し近いと思われますが・・・」
班長が厳しい顔をしながら質問する。
「構わない。
今は106号を無事帝都に戻すことを最優先とする。
それに我らが居なくなればオーガは街道に行かない可能性もある。
あと、盗賊の遺体は遺憾ながら洞窟の入り口に放置とする。
重荷になるような荷物も置いて行って構わない。
馬車を待機させた場所に最速で戻る。」
「了解しました。」
班長が頷く。
「いろいろ言いたいだろうが今は撤収に全力を注いでくれ。
馬車がある待機位置に行ければ町に応援も呼べるだろう。」
「そうですね。」
「では、全員撤収。
最速で行え。106号は移動が遅いから皆で担いで運ぶしかないだろう。」
「「「はっ!」」」
試験小隊が撤収を行うのだった。
------------------------
「~♪」
武雄が楽しそうに夕飯の火加減を調節している。
テントも湯あみ場も完成していて皆がかまどを囲みのんびりとしている。
「キタミザト殿、今日は何ですか?」
ブルックが聞いてくる。
「人数も多いので鍋ですよ。
シイタケの出汁から塩味と魚醤味の2種類です。
具材は野菜と紅魚ですね。」
2個の鍋を火にかけながら楽しそうに言う。
ちなみに今回の武雄の力作『露天風呂』・・・周囲6mくらい、深さ80㎝くらい、縁の幅は80cm以上あり、縁に腰かけられたりのんびりと浸かれるように作られている。
排水時のお湯捨て場ももちろん周囲8m程度、深さ2m程度と完備している。
「タケオさん、とっても無駄な労力だと思いますよ?」
完成した時、満足げな武雄を見てエリカがそう呟いていた。
「さて、もうすぐ日も落ちそうです。
夕飯後はお風呂にお湯を張りますから女性陣からどうぞ。」
「「はい。」」
ブルックとフォレットが返事をする。
「タケオさん・・・皆の前で裸になるの?」
エリカがおずおずと聞いてくる。
「いや、皆の前では裸にはならないでしょう。
一応大き目のタオルを枝の間に掛ければこっちからは見えないと思うのですけど。」
「それはそうですけど・・・」
エリカが悩んでしまう。
「抵抗があるなら今日は足だけでも浸かれば良いのではないですか?
足だけでも温めると気持ちが良いですよ?」
「では、今日は足だけにさせてもらいます。」
エリカが伝える。隣のカサンドラは「私は入ろうかなぁ?」と思案しているのはご愛敬だ。
「キタミザト様。」
アレホが武雄に声をかけてくる。
「ん?どうしました?鍋はダメでしたか?」
「いえ、夕食は楽しみにしています。
で、夕食の後、ステノ工房の2人がお話を聞いて欲しいと言ってきているのです。」
「ええ、構いませんよ。
湯あみの順番を待ちながら聞いて良いですか?」
「はい、そう伝えてきます。」
アレホがフリップ達が居る所に向かうのだった。
「・・・主。」
武雄の肩に座っているミアが森の方を見て呟く。
「ミア、どうしました?」
「たぶんですが・・・近くにオーガがいます。」
ミアの発言に場が一気に緊張する。
「ふむ・・・何体いますか?」
武雄が聞き返す。
「3・・・いや2体?
たぶん250m先です。ゆっくりと移動しています。」
「そうですか。」
武雄が頷きながら鍋に水を足す。
「いやいや!タケオさん!
オーガですよ?そんなにのんびりして!
迎撃態勢とかあるのでは?」
エリカが驚きながら言ってくる。
「たかがオーガ2体で何を狼狽えてるんだか・・・」
武雄がため息を付く。
「え!?」
エリカを始めアズパール王国側以外の皆が武雄の言葉に不思議がる。
「まぁ、キタミザト殿ですし・・・」
「「「「ですね。」」」」
マイヤーの呟きにアーキン達が頷く。
「キタミザト殿、どうしますか?」
「そうですね・・・ヴィクター、ジーナ、2人で1体は対応できますか?」
「はい。
私だけでも対応できます・・・娘は初めてなのですが?」
ヴィクターが聞き返してくる。
「そうですか。
これから先ジーナも戦闘をしないといけない場面はあるでしょう。
良い機会です、初陣を飾って来なさい。」
「わかりました。平気か?ジーナ?」
「だ・・・大丈夫です!」
ヴィクターの問いかけに緊張しながらジーナが答える。
「あとの1体は?」
「あぁ、皆さんの魔力を使うのもね・・・
私が片付けます。」
武雄が面倒くさそうに言う。
その言葉にマイヤー達5人は「やはり。」と思うのだった。
「では、我々はここで火の番をしています。」
アーキンが返事をする。
「そうしてください。
火は緩めでお願いします。」
「わかりました。」
フォレットが頷く。
と武雄とヴィクター、ジーナが席を立ち森の方に向かうのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。