第410話 武雄達の準備。アリス達問屋さんを再訪問アリス専用武器発見。
武雄達は穀物屋を後にしてビセンテ工房の前に来ていた。
「もう積み込みは終わったのですか?」
武雄が店先で昼食を取っている一団に声をかける。
「キタミザト殿!お疲れ様です!」
アーキンとブルックが立って挨拶をしてくる。
「いえいえ、別に立つ必要はないのですけど。」
武雄が苦笑を返す。
「積み込みはどうなっている?」
マイヤーが聞く。
「はい、積み込みは終わっています。
この後は店内の掃除です。
移動に際して家具や衣服類を相当少なくし、ほとんどの物は置いてくそうです。
また、立退料も出ているそうで当面の運営資金と家具購入に充てるとのことです。」
「なるほど。
幌馬車にコレを入れるスペースはありますか?」
武雄がジーナとヴィクターを見る。
2人は4個の瓶(2㎏相当)を抱えていた。
「・・・穀物ですか?小麦でしょうか?」
ブルックが聞いてくる。
「小麦でないですが・・・エルヴィス領で新たに作付けをしてみようかと。」
「美味しいのでしょうか?」
「上手く行けば私の料理とお菓子が倍増し」
「何としても成功させてください!」
ブルックが頭を深々と下げる。
「あはは、まだ作付けもしていませんから・・・
向こうに戻ってからエルヴィスさんと話さないといけませんね。」
と、アレホが店から出てくる。
「キタミザト様、お越しでしたか。」
「ええ、この穀物も一緒にアズパール王国に持って行きたいので乗せて貰えませんか?」
「はい、確か一番奥にそれが入る隙間があったはずです。」
と言い幌馬車に乗り込み中を確認し始める。
「ありがとうございます。
それと野宿の準備は平気ですか?
毛布は多めに持って行ってください。寒いと思いますので。」
「はい、問題ないです。
よし、空いていますのでその瓶をください。」
と、ジーナ達から瓶を受け取り中に入れていく。
「では、私達は一旦宿に戻っています。
アーキンさん、ブルックさん、後で集合です。」
「「はい。」」
2人が返事をし、武雄達は宿へと戻るのだった。
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「「・・・」」
昼食を取ってから目的の住所に着いたアリス達一行なのだが、店先でアンダーセンとトレーシーが何も言わないで悩んでいた。
「ねぇ、アリス。本当にここなの?
材木問屋さんにしか見えないのだけど。」
レイラはクゥを抱きながら言う。
「はい、ここですよ。
じゃ、中に入りましょう。」
とアリスが先陣を切って入って行く。
「いらっしゃい・・・ん?お嬢ちゃんはキタミザトさんのお連れだったな。」
「あら?親父さん、覚えてくれていたのですか?」
「あぁ、気風が良い客と美人は覚える質でね!」
「あら、じゃあまた買いに来ようかしら。」
「おぉ、お嬢ちゃんなら安くするぞ?
で、どうした?」
「この間のタケオ様のお使いです。」
「ほぉ、そこの兵士さんと美人が・・・お嬢ちゃんの姉妹かい?」
この時点で店の親父が他の3人に目を向ける。
「はい、姉です。」
「似ているな、美人だ。覚えておこう!
で、用件は何だ?」
店の親父が楽しそうに聞いてくる。
「はい、キタミザト殿からこのような依頼の指示が来ています。」
とアンダーセンが手紙を見せる。
「・・・ふむ。
わかった、2か国から平均的な盾の入手をしておこう。
2個ずつ頼んで良いか?」
「はい。」
「わかった、他に用事はあるか?」
「親父さん、そんな簡単に決めて良いのですか?」
アリスが聞く。
「あぁ、うちに頼んだのは前にこっちから言ったことを踏まえてのことだろう?
頼まれたら嫌とは言わんさ。」
「親父さん、私用の剣を新調できます?」
「ん?お嬢ちゃんのか?どんなのが欲しい?」
「両手剣並みの威力と固さがある片手剣。」
「・・・ないな。
そもそも両手剣は剣の重量を乗せる事で威力を上げている剣だ。
逆に片手剣はその重量を犠牲にして取り扱い易さを重視した物だ。
どうしてそんなのが欲しいんだ?」
「私は魔法で両手剣を片手で扱うので。」
アリスの説明にレイラもアンダーセン達も「規格外だ」と苦笑する。
「・・・ふむ。
では、両手剣よりも威力では劣るが、硬度があり片手剣よりも重量がある・・・片手剣の両手剣よりの物ならあるぞ。」
「なんて言うのですか?」
「バスタードソードという。
一応、片手でも両手でも使えるのだが基本は片手となっている
・・・早く言えば両方の特性があるのだが、はっきり言って扱いづらい。
片手剣よりも若干長く重い。両手剣よりも短く軽い。そして取り扱いが微妙。
売れんのだわ。
欲しいなら特価で売るぞ。」
「見ても良いですか?」
「こっちだ。来なさい。」
親父さんが皆を奥に招く。
連れて来られた部屋は前回と同じでいろいろな防具が置かれている所だった。
前回武雄が座った位置にアリスが座る。
「ちょっと待っててくれ・・・」
と、親父さんは棚の方に行ってしまう。
「アリス、どんな剣なのかしらね?」
「さぁ・・・」
「これだな。」
親父さんが両手で持って戻ってきてから剣を鞘から抜く。
そこには両刃剣で刀身の長さが1m程度で柄の部分が12㎝程度の幅があり、50㎝程度行った所から幅が8㎝になり残り10㎝の所で剣先が尖っていた。
それよりもまず目に入るのが。
「全部が黒なのですね。」
アリスが呟く。
柄も鍔も刀身もすべてが黒かった。
「あぁ、持ってみるか?」
「はい。」
アリスは席を立ち、軽々しく片手で持ってみる。
「・・・重くはないか?」
「はい、両手剣よりも軽いですね。
私的には丁度良いかと。
どのくらい固いのですか?」
アリスは軽く振ってみる。
「そうだなぁ・・・ちょっと待ってくれ。
要らない剣を持ってこよう。」
親父さんが隅に放置されていた剣を2本持って来る。
そして机と机を20㎝程度に離し、その上に重ねて置く。
「これでどうだ?」
「いきます。」
アリスが置かれている剣に打ち込む。
と、「ガキッ」という音と共に置かれた剣が90度に曲がる。
「・・・コレください。」
アリスが剣を見ながら呟く。
「あいよ。
肩掛けにするか?」
「はい。」
「じゃあ、待ってろ。
と、そうだ。コレはカトランダ帝国から入手したがドワーフの製作した物らしい。
そこに説明書があるから見ておいてくれ。」
と親父さんは棚の方に行ってしまう。
アリスは席に座り取扱説明書を見る。
「アリス、何て書いてあるの?」
レイラが興味津々で聞いてくる。
「タケオ様の時と同じで刃こぼれや錆が出ないように宝石が埋め込まれているそうですね。
それと・・・なんでしょう?『魔法師がこの剣で本気を出したら炎の魔法が付与される』とあるんですが・・・
炎が付与?」
アリスが悩む。
「あぁ、それは打ち込んだ瞬間に炎が一緒に発生するらしいんだが・・・
誰も発現出来ないらしい。
なので、冗談で書いたんだろうと卸業者は言っていたな。
それに片手では若干長くて両手では若干短いだろう?
向こうの兵士達も興味を引かなかったらしい。」
親父さんが肩掛けの鞘を持って来て説明をする。
「そうなんですか。
まぁ私は兵士ではないのでたまにしか使わないので気にはしませんけど。」
「まぁ、扱い易いのが一番だな。
これは最近第1皇子殿下の所の工房で作られたベルトなんだがな。
腰にも出来るし肩掛けにも出来るという優れものだ。
これをセットで売ろう。」
「ありがとうございます。
お代は?」
「あぁ、銀貨4枚だな。
キタミザトさんの盾と一緒に請求するから今は払わなくて平気だ。」
「わかりました。
では、私達はこれで。」
アリスはその場で剣を装備し、一行は席を立ち店を後にするのだった。
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アリス達が去った奥の部屋で店の親父さんがパイプをしている。
「ふふ、キタミザトさんにあのお嬢ちゃん・・・面白いな。
誰も目もくれない武器をいとも簡単に使おうとする。
それにしてもお嬢ちゃんの筋力は大したもんだな。子供達に人気の『鮮紅』並みなのかもしれないなぁ。
あんなに細いのに・・・まぁ魔法の補正なんだろう。
さて、盾の発注をするかな。」
親父さんが奥から出て行くのだった。
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店を出たアリス達は王城への帰路に着いていた。
ちなみにトレーシーは「学院に帰って仕事ですよ。」と別行動中。
「アリス、良い武器が手に入ったみたいね。」
「はい。この間のゴブリンとの戦闘から違和感があったんですよ。
下賜して貰っていた両手剣がなんか感覚的に合わないんです。」
「そういう物なの?第三魔法分隊長はどう思う?」
「あぁ、そういうのはありますね。
他の者が良い剣と言っても自分では何か納得できない物があるんです。
アリス殿、さっきの試し切りでしっくりきましたか?」
「はい、今使っている物よりかは良い感じがします。」
「良かったわね。」
レイラ達が王城を目指す。
「きゅ・・・」
レイラに抱かれているクゥがアリスの新調した剣を見ながらため息を付くのだった。
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