第405話 宿に戻ってマッタリだ。
「~♪」
「主、お腹が空きました。」
「ニャ。」
チビッ子達は早くしろと要求してくる。
「はいはい、ちょっと待っててね~。」
武雄は皆の夕飯を用意している。
ちなみに部屋割りは玄関横の2部屋は若手組、残る1部屋はヴィクター親子、リビングの机を退けて武雄とマイヤーになった。
「いやいや、違うでしょう!」
とヴィクター親子がツッコミを入れるが。
「「別に明日まででしょう?」」
と武雄とマイヤーがリビングで良いからと「親子に久しぶりのベッドで寝かせたいから」と言われてしまい渋々従ってはいる。
今は女性達が湯あみに行っており、リビングにはマイヤーとヴィクターが座ってお茶をすすっている。
「マイヤー殿。」
ヴィクターがマイヤーに声をかける。
「はい、何でしょう。」
「何でリーダーである主が夕飯を用意しているのでしょうか?」
「・・・不思議でしょう?私達も不思議です。
キタミザト殿は『今回の旅は私のわがままですので、私が作ります。
皆さんにご苦労をかけてしまっていますからね。』と譲らないのです。
ただ・・・キタミザト殿以上に料理が上手い者が居ないのもまた事実なんです。」
「はぁ・・・」
マイヤーの説明にヴィクターがあいまいな返事をする。
「まぁ、この旅の間だけですよ。」
と、武雄達がリビングにやってくる。
「キタミザト殿、もう夕飯の支度は終わりで?」
「ええ。今日は肉をワインで煮込んだものにしていますから煮るだけです。
あとはジャガイモのマヨネーズ和えとパンですからね、楽な物です。
プリンも作り終えていますし。
明日の用意もしないといけないですけどそれは夕飯の後にしますよ。」
「簡単な物で良いのですけど。」
マイヤーが恐縮して言ってくる。
「ええ、簡単な物しか作れませんよ。
そうだ。ヴィクター、アナタ達が食べられない物はありますか?
勝手に作ってしまっていますけど。」
「私も娘も何でも食べられます。
問題はありません。」
「そうですか、では気兼ねなく作りますよ。
あ、そうそうヴィクター、アナタだけには言っておきますが。
もしかしたら王都に行った際にアナタを陛下に渡さないといけない可能性があります。」
「はい。
外交交渉に使う可能性があるのですね。」
「わかってくれていて何よりです。
部下にしておいて申し訳ありませんが、さすがに陛下に対して反抗はできません。
その際は契約を解除します。」
「わかりました・・・ですが・・・交渉材料になるかは正直わかりません。」
「そうなのですか?」
マイヤーが聞いてくる。
「はい。私には甥が居るのですが・・・どうも人間嫌いでしてね。
私がしていた融和政策を毛嫌いしていた感があります。」
「・・・内輪もめは種族関係なくあるのですね。」
「はい。ですので・・・私達が居ない事を好機と捉えて領主の座を挿げ替えていると思います。」
「では、今回の奴隷への売り渡しは?」
「十中八九、甥が仕掛けたことでしょう。」
「やり返したいですか?」
「魔王国は強さこそが評価基準です。
私にその強さがなかったと言えなくもないですが・・・
流石に妻が亡くなりましたから・・・個人的な復讐はしたいとは。」
ヴィクターの目が憎悪に染まる。
「気持ちは察しますが・・・今はダメです。
アナタもジーナも勝手に国境を越えた場合、アズパール王国側から宣戦布告したという面倒な理由に使われる可能性があります。
ですので、今は耐えなさい。
そして私の下での任期が終われば、皆で考えて仕返しをしましょう。
それまでは全ての事に耐えなさい。
それが領主の座を守れなかったアナタの取るべきことだと私は思います。」
「はい、主。」
ヴィクターが頷く。
「ちなみにですが、キタミザト殿。」
「はい?なんでしょう?」
「アリス殿が誰かに殺られたら・・・どうしますか?」
「そんなの決まっているでしょう?
エルヴィス家に災いをもたらすなら相応の覚悟で挑んできているのです。
私は爵位も戸籍も全部返上して、身軽にしてから殺したヤツを殺しに行きますよ。
ぶっ潰しますからね。」
武雄が真面目な顔で言いマイヤーは「そうですよね~」とため息を付く。
「マイヤー殿、主はそこまで強いのですか?」
ヴィクターがマイヤーに聞いてくる。
「ええ、キタミザト殿は間違いなく1対1の戦闘においてはトップクラスです。」
「そうなのですか。」
「逆に言えば1対1でなければ平々凡々なんですよ。
いや平凡よりも下ですね。」
武雄が苦笑する。
「まぁ誰しも多対戦闘は苦手とすると思いますがね。」
マイヤーがさらにため息を付く。
「ヴィクター、気になるなら旅の最中に開けた場所で野宿をしますからじゃれ合ってみますか?」
「よろしいのですか?」
「ええ、良いですよ。」
武雄は楽しそうに言うのだった。
と、「お父さま、ご主人様、上がりました。」とジーナが戻って来る。
「はい、おかえり。
マイヤー殿、どうぞ。」
「はい。では、ササッと入ってきます。」
と、マイヤーが席を立つ。
「さてと、明日の用意も始めておきますかね。」
と武雄が調理場に戻る。
そんな光景を見ながら
「お父さま、ご主人様が何で料理を?」
とジーナがヴィクターに質問をし、ヴィクターは苦笑しか出来ないのだった。
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