第401話 冒険者組合の事務所で綺麗な女性と歓談しよう。
「お待ちしておりました!」
冒険者組合の事務所に入った瞬間、エリカが走って来て武雄に挨拶をする。
「はは、そんなに期待をしていたのですね。
マイヤーさん、私は受付で話してきますのでタマをお願いします。
アナタはどこで待っていたのですか?」
「あちらの喫茶スペースです。」
エリカが腕を伸ばして示す。
「わかりました、私も後でそちらに向かいます。
タマ・・・頼みますよ?」
「ニャ。」
タマが武雄のリュックからマイヤーの肩に飛び乗る。
武雄は3人から離れ受付を目指すのだった。
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武雄が受付で会議室と湯浴み場の手配をし終わり喫茶スペースに来ると。
「「可愛い♪」」
と女性2人にタマが弄く・・・可愛がられている。
「ニャ~・・・」
もうタマは反撃する元気もなくなっているようでされるがままだ。
「・・・あまりイジメないでくださいね。」
「あ、おかえりなさい。
と、そうだ。この度は私のわがままを聞いて下さりありがとうございます。
私はエリカ・キロスと言います。
こちらは同行者のカサンドラ・ラバルです。」
「ラバルです。」
カサンドラが礼をしてくる。
「私達のことは名前で呼んで頂いて結構です。」
「わかりました、エリカさん。
私はタケオ・キタミザトです。
私の事も名前で結構です。」
武雄がにこやかに言って見せる。
「マイヤーさんは自己紹介を?」
「はい、先ほどしました。」
「そうですか。
エリカさん方、タマを堪能されていますか?」
「はい、タケオさん。」
そう満面の笑みを武雄に向けながらも言いながらタマを弄っている。
武雄は座ると冒険者組合の職員が皆の分のお茶と簡単な菓子を配膳していく。
「ん?私達の分もですか?」
「ええ、私とマイヤーさんだけ食べて女性方にお出ししないのは変でしょう?
いらないなら別」
「「頂きます!」」
武雄が言い切る前に食べ始める。
「はは、誰も取りませんよ。」
武雄は苦笑するしかなかった。
「あの、タケオ殿はこの町にお住まいなのですか?」
カサンドラが聞いてくる。
「ん、どうしてですか?」
武雄が聞き返す。
「いえ、明日もいらっしゃるのならぜひタマをモフモフさせて頂きたくて。」
カサンドラが言ってくる。
「なるほど。
申し訳ありませんが私達は明日の9時課の鐘辺りで出立して国に帰ります。」
「え?タケオさんはこの国の者ではないのですか?」
エリカが聞いてくる。
「ええ、私達はアズパール王国の者です。」
「「アズパール王国・・・」」
女性2人が真面目な顔付きで考え込む。
「・・・お2方はこの国の方なのですか?」
「ええ、私達はこの国の者です。
ですが・・・アズパール王国に移住しようかと思っています。」
「移住?旅行ではなくて?」
「はい。
ちょっと訳ありで・・・越境許可書が国外退去処分並みなんです。」
「エリカ様、その言い方は変ですよ。
私達は罪人ではないのです。
ただ出国したらこの国に入国出来なくなるだけです。」
エリカの言葉にカサンドラが優しい言葉で言い直すが・・・
武雄は「結局は国外退去だね」と思うのだった。
「退去までの期限はあるのですか?」
武雄が聞いてみる。
「ないとは思うのですが・・・
早く出た方が何かと都合が良さそうな気がします。」
エリカが微妙な言い方をする。
「・・・エリカさん達も大変なんですね。」
「・・・そこは『一緒に行きますか?』と誘ってくれるかと期待したのですが?」
エリカが微妙な顔をして言ってくる。
「そうですね、私の評価を上げるならそれも良いでしょう。
ですが、今回は私一人ではありませんからね。
いろんな人を連れて行くのでエリカさん達に構っている余裕はありません。
なのでお連れ出来ませんね。」
「んー・・・男を上げるチャンスですよ?」
「はは、美女達から誘われているのですから『お任せください』と言うのが甲斐性の見せ所なのかもしれませんけどね。
あいにく私は勇ましいとか根性とかと真反対の人間でしてね。」
「そうなのですか?部下を5名も連れているのに?」
カサンドラが聞いてくる。
「あぁ、マイヤーさん達は同行をお願いしているだけで部下ではありませんよ。」
「そうなのですね。
いろんな人を連れて行くと言っていましたけど、どんな人達なのですか?」
エリカが聞いてくる。
「ん?たまたま今日見つけた廃業する工房の方です。
『行き先がない』と言っていたので『うちの街に来てみたら?』と誘ったら来てくれると言ってくれたのでね。」
「あぁ、例の移民方法ですか。」
カサンドラが呆れながら言ってくる。
「おや?知っているのですか?」
「兵士の間では公然の秘密扱いですから。
まぁうちも同じ手段は取っていますからね。」
カサンドラがため息を付く。
「アズパール王国もカトランダ帝国も同じ問題を抱えているのでしょう。」
武雄が苦笑する。
「廃業するような工房がアズパール王国で通用するのですか?」
カサンドラが聞いてくる。
「普通なら通用しないでしょうが・・・
ですけどね、国の方針に合わない事をしていたら物は売れないんですよ。
この国では不要な技術をアズパール王国では必要な技術だと思っただけです。
まぁこの場合はアズパール王国ではなくて私がでしょうか。」
「ふーん・・・連れて行くだけで上手く行くのですか?」
エリカが聞いてくる。
「連れて行くだけで上手く行くなら『商売は何て楽なんでしょう』と言いのけて上げますよ。
まぁ土台は私が準備してあげますけど、最終的には熱意と説得力を連れて行く者が持っているか・・・ですかね?」
「土台?」
「ええ。早く言えば私が住んでいる街の組合と今回連れて行く工房の人達との話合いの場を設ける事、
工房をすぐに再開できるように住居兼作業場を確保してあげる事、初期運営資金の貸し付けをしてあげる事・・・少なくともその3件はしてあげないといけないですね。」
「・・・最初の1件はコネが必要ですね。後の2件は相当な資金が必要です。」
「ですね。」
武雄は普通に返す。
「タケオさんはお金持ちなのですか?」
「全然、カツカツです。」
武雄は首を振る。
「じゃあ、どうやって?」
「・・・やり方はいろいろあるでしょうけど・・・
まぁ何とかなりますよ。」
武雄は軽く考えながら言う。
「そうかぁ・・・面白そうだなぁ。」
エリカが呟く。
「エリカさんもこの国で・・・あぁ国外退去でしたね。」
「えぇ、そうです。
政策には関わらないと父上にも宣言もしちゃいましたし。まぁ、元々この国で私は何かをする気はなかったのですけども。」
エリカが明後日の方向を見ながら呟く。
「・・・カサンドラさん。
一つ質問を良いですか?」
「はい、何でしょうか。」
「貴族が越境し移住するのは問題になるのでは?」
武雄の質問にエリカもカサンドラも一瞬固まる。
「・・・なぜ私達が貴族だと思われるのですか?」
カサンドラが訝しがりながら聞いてくる。
「そもそも越境するのに国外退去なんて命令が下されているんですよ?
商屋や工房の人間ならさっき言った公然の秘密を使えばいかようにでも移住は出来ます。
わざわざ国外退去の越境許可書を貰っている時点で貴族でしょう?」
「私達は・・・いえ、エリカ様は貴族ではなくなっています。
離脱不可項目には抵触しないです。
お名前も変えましたし。」
「そうなんですか・・・では、気兼ねなく移住が出来るのですね。」
「ええ。なのでタケオさん、連れ」
「私からお連れすることは出来ませんからね?
人数が多いので相手が出来ませんから。」
エリカが言い終わる前に武雄が断る。
「むぅ・・・」
エリカがジト目で抗議する。
と、アーキン達が冒険者組合の事務所に入ってくるのが見える。
「では、ここまでですね。
私達は明日の9時課の鐘辺りで出立してしまいます。
エリカさん達もお元気で。
タマ、おいで。」
「ニャ・・・」
タマがエリカの手を逃れて武雄の元にトボトボと帰って来る。
武雄はタマを抱き上げ肩に乗せると。
マイヤーと共にアーキン達の元へ向かう。
エリカ達は武雄達が奥に行くのをため息交じりに見つめるのだった。
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