第399話 工房の決断。
「いらっしゃいませ。」
武雄達はきっかり3時間後にビセンテ工房の玄関を入るとアレホが武雄達に声をかけてくる。
「・・・人数が増えていますけど?」
武雄は近寄りながらアレホに聞く。
店内にはアレホ親子とご老体と女性が居た。
「キタミザト様、申し訳ありません。
私達親子とシントロンさんとその孫娘をアズパール王国で再起をかけさせていただきたいのです。」
「ボリバル・シントロンですじゃ。」
「サリタ・シントロンです、キタミザト様。」
2人が礼をしてくる。
「ふむ・・・詳細を教えてください。
2工房が国を捨て移動を希望する・・・何か訳アリなのでしょう?」
「はい・・・わかりました。
キタミザト様、皆さま、適当にお座りになってください。」
武雄達がさっき座っていた所に座るとサリタと名乗った女性が慣れない手つきで皆にお茶を出す。
「では、キタミザト様、始めます。
実は2年前くらいに話が遡ります。当時、この町は・・・」
アレホは説明を開始するのだった。
・・・
・・
・
「・・・」
アレホの説明が終わり皆が何も言わないで武雄の言葉を待っていた。
ちなみにマイヤーは渋い顔で聞いていた。
「つまり・・・ステノ工房、ビセンテ工房、シントロン工房の3工房合作で新兵器の小銃や懐中時計を作った事が嫌がらせの始まりだと?」
武雄が聞き返す。
「はい。」
「小銃ね・・・
ちなみにどんな役割分担だったのですか?」
「私の所が弾丸の製造、シントロン工房が銃身と引き金等の細かい部品、ステノ工房が銃床部分と全体の組み立てをし、この町で名が通るステノ工房名義で販売をしていました。」
「なるほど・・・
懐中時計はどうやっていたのですか?」
「うちが外枠や駆動部分を、細かい歯車等をシントロン工房で作り、ステノ工房で組み立てを行っていました。
うちの息子もステノ工房で組み立ての作業を手伝っていました。」
「なるほどね、だから息子さんが組み立てを出来るのですか。
・・・マイヤーさん、言っても構わないですかね?」
「はい、構わないと思います。」
マイヤーはすぐに武雄の質問を理解し、即答する。
「ふむ。
ビセンテ店長、私がこの町に来た理由はお教えしましたよね?」
「はい、ステノ工房製の剣を新調するのでしたね。」
「アレは半分嘘です。」
「え?」
「正確には小銃の発案者を見に行くという現地視察が最重要目的であり剣の新調は別案件です。」
「騙したのですか?」
「まぁ・・・結果的に?
騙したというよりもステノ工房が廃業しているのを見て、話をすると面倒が起こりそうだったから言わなかっただけです。
そもそも私が小銃を見た時の感想ですけどね。
『なんで敵国にこんな良い武器が来ているの?』です。
そこで私達はこの開発者が虐げられているかもしれないと結論付けて開発者を見に来たのです。
もし虐げられていたらこっちに来て貰えるか交渉をする為にね。」
「そうですか・・・」
「結果、立ち退きまでされていたとはね・・・
まぁその話は別件ですね。
アナタ達を引っ張った最初の動機である懐中時計の製造と販売もかなり魅力的ですから。
小銃の話がなくてもアナタ達は連れて行きますよ。
ですが・・・ちょっと事情が変わりますか・・・」
武雄はそこで悩む。
「と・・・言うと?」
アレホが聞き返す。
「小銃と弾丸の製造もしてもらいます。
まぁ大量生産はさせませんので・・・細々とね。
主力は懐中時計で良いでしょうが・・・まぁ私が住んでいる街に行ってから考えましょうか。
他にも決めないといけないことが多いので。」
武雄は悩みながら言う。
「では、私達を連れて行ってくれるのですね。」
「はい、こちらからもお願いします。
ぜひ、私達のいる街で産業を興してください。」
武雄は頭を下げる。
「こちらからも聞かせて貰いますが・・・国を変えるという事はもう二度とこの地に戻ってはこれません。
それでもアズパール王国に来てもらえるのですね?」
武雄は顔を上げ真面目な顔で聞き返す。
「「「「はい。」」」」
職人4名が即答する。
「わかりました。
では、住居の紹介までは私が責任を持って手配をしましょう。
ただし、慈善事業ではありません。
努力を惜しまず、品質を高め、新たな発想を常にしなければこの産業は廃れるでしょう。
それに最低でも月20個の懐中時計を作る方法の検討もすぐにしてもらいます。
人員は紹介できるでしょうが、その人物たちを説き伏せるのは私ではありません。
アナタ達ですからね?
懐中時計が魅力ある商品なのか・・・作り手のアナタ達が一番知っているはずです。
そこの説明は考えといてください。」
「わかりました。」
アレホが回答し、残りの3人が頷く。
「お願いします。
では、出立はいつ出来ますか?」
「私達は明日の夕方には退去しないといけません。
9時課の鐘までには幌馬車1台に全荷物を積み込めます。
シントロン工房も同じだと思います。」
アレホの言葉に2人も頷く。
「わかりました。
アーキンさん、バートさん、ブルックさん、フォレットさん。
明日は各々手伝いに行きなさい。
私達も明日出立します。」
「「「「はい。」」」」
若手4名が返事をする。
「あと、アレホさん達にお願いですが。」
「はい、何でしょうか。」
「食材を多めに買っておいてください。
国境までにある村にはここに来る際に寄りましたが食材がありません。
この人数なので村には寄らずに野宿をしながら国境を越えます。
その支度も忘れないようお願いします。」
「はい、わかりました。
どんな物を?」
「干し肉、小麦、パン、干しシイタケ、簡易食器と大き目の鍋、数日はこの寒さがありますからある程度野菜も持つでしょうから玉ねぎやジャガイモ、タマゴ・・・えーっと・・・サリタさんでしたね?」
「はい!」
サリタが緊張した顔で返事をする。
「この町で買える食材は私達ではわかりません。
アナタに一任します。
干物に拘らずいろんな物を買ってきてください。
まぁ・・・馬車なら国境まで3日ぐらいでしょうか?
さらに越境後の町まで1日くらいですか・・・4、5日分買っておいてください。
あ、水の心配はしなくて良いですから。」
「はい、少し多めに買います。」
サリタが頷く。
「お願いします。
じゃ、私達は行きますかね。
明日の9時課の鐘が過ぎてからに町の入り口で会いましょう。」
武雄が席を立つとマイヤー達も席を立ち店を後にするのだった。
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武雄達が出て行った店内にて。
「決まってしまったな。
シントロン爺さん、サリタちゃん、良かったのか?」
「今さら何を言っているんじゃよ。
第3皇女殿下もお亡くなりになった・・・この町も益々規制が増すだろうしの!
憂いは何もないのじゃ!」
ボリバルが笑いながら言ってくる。
「爺ちゃんの言う通りです。
他国で名を上げましょう!」
サリタも笑いながら言う。
「父ちゃん、キタミザト様は小銃を見て来たんだね。」
「あぁ、アズパール王国はうちよりも工業力は低いが・・・
私達が思うよりも物への理解がある国家なのかもしれないな。」
「そうじゃの。
カトランダ帝国は人間的には後れを取っておるのかもしれないのぉ。
それにしてもサリタ、息子達に言わなくて本当に良いのか?」
「構わないわよ。
勘当同然で爺ちゃんの所に来たんだし、今更戻る気はないわよ。
それにアズパール王国で婚活しなくちゃ!
良い男たちは居るかなぁ?」
サリタはまだ見ぬ恋人を想うのだった。
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