第398話 奴隷について考えよう。
「まぁ、経済連携の裏の真偽は王都に任せましょう。」
「はい。」
皆が頷く。
「次にミアとタマが聞いてきた奴隷との会話ですけど。
これはどう解釈すれば良いんですかね?」
武雄が腕を組んで悩む。
「キタミザト殿、私は奴隷2名が偽っていると思います。
伯爵が奴隷になっているなんてあり得ません。
ですので購入をされるべきではありません。」
フォレットが意見を言う。
「貴族にこれからなられる方の近くに奴隷がいるのは対外的に印象がよろしくないと思います。
私も購入をされるべきでないと考えます。」
バートが意見を言う。
「2人は私が買う事に否定ですか。
アーキンさんとブルックさんは?」
「高位の魔物を部下に持つというのは戦力的に良いのではないでしょうか。
ですが、バートの意見の通り貴族になられる方の近くに奴隷の影が見えるのは王都内で良いように思われないと思います。
ですので、アズパール王国に帰国次第奴隷解除をするならば問題ないと思います。」
アーキンが意見を言う。
「私は奴隷が言っている伯爵が本当かウソかは大した問題ではないと思います。
そもそも奴隷になっている時点で伯爵の爵位はどうなのでしょうか。
奴隷の伯爵?・・・対外的にどう思われるかわかりかねます。
なので魔王国に問い合わせをしてもそんな者はいないと言われると思われます。
また、カトランダ帝国で兵士として雇われてしまうとアズパール王国としても敵戦力が向上してしまう事を考えれば購入し、帰国後契約の解除をすれば問題ないと思います。」
ブルックが言う。
「2人は条件つき賛成。
マイヤーさんは?」
「んー・・・キタミザト殿、買う気ですよね?」
マイヤーが腕を組みながら言ってくる。
「さて・・・とりあえず、皆の意見が聞きたかっただけです。」
「私は買う事をお勧めします。
アズパール王国に戻ってもすぐに解除をする必要はないと思います。
どちらかと言えば陛下や文官達に報告してから考えれば良いでしょう。」
「マイヤーさんはそう思うのですね?」
「はい。」
「ミアはどう思いますか?」
「先ほども言いましたが、主の買取金額を返済すれば自由になる事はあの2名は聞いています。
それでも主の元に来たいと言っているのです。
伯爵かどうかは確認のしようがありませんが・・・少なくとも戦力としては十分な者達でした。
私は買うべきだと思います。」
「そうですか・・・」
武雄は腕を組んで少し悩む。
「では。
買いましょうか。」
「「よろしいのですか?」」
バートとフォレットが聞いてくる。
「はい。ミアの推薦がありますからね。
部下の意見を無下に扱うつもりはありません。
それにミアの『戦えるか』との問いに『戦いは出来るが領民を殺すことは出来ない』と言ったのでしょう?
その言葉だけでもこの2名は買う価値はありますね。」
「そうなのですか?」
ブルックが聞いてくる。
「自身の保身の為ならばこの状況では『絶対に殺せる』と言うと私は思います。
どんな酷い主人に選ばれるかわからないのですよ?
待遇が良い私が目の前にいるのです。自身を売り込むためには気概を見せると思います。
ですが、その男性の方は『命令は従うが同族は殺せない』と言ったのです。
仲間思いの優しい方だったのでしょう。
その意見を自身の進退がかかった所で言えるのです。大した者ですよ。」
「はぁ。」
バートが生返事を返す。
「それにですね。
私の側近として働かせて戦力の向上を狙っても良いですけど。
伯爵というのがね・・・マイヤーさんの言う通り、王都で陛下に聞いてみましょうか。
『このまま雇っても良いか』と。」
「どういうことですか?」
アーキンが聞いてくる。
「つまりはですね。
本当に貴族であった場合、国家間の交渉材料になりうるのです。
貴族が唐突に奴隷になっているのです。
魔王国では行方不明扱いでしょう。それを助けたのです。
『うちの配下が魔王国から遠く離れた国でお宅の貴族を無事助けました。
返還しても良いですよ?』
と言って来たら国家間の交渉でアズパール王国が優位に立てると思いますね。」
「キタミザト殿は陛下が奴隷はダメと言ったら渡すのですか?」
フォレットが聞いてくる。
「・・・見せしめで殺すとか非人道的でないのなら・・・まぁ陛下はそんなことを言わないでしょう。
高値で売りますかね?」
「ちなみにおいくらなんですか?」
ブルックが聞いてくる。
「金貨250枚です。」
武雄がしれっと言ってのける。
「「「「え!?」」」」
若手皆が驚いたまま固まっている。
「マイヤーさん、皆さん驚いていますよ?
やはり高いんですかね?」
「わからないですね。
元伯爵と女性の獣人を金貨250枚・・・割と順当か低いくらいと思ったのですが・・・」
「私も順当かと・・・価格も金貨300枚から250枚に大幅値下げをしてくれましたし・・・」
武雄とマイヤーが首を傾げる。
「あ・・・あのキタミザト殿・・・それほどの金貨をお持ちなのですか?」
ブルックが聞いてくる。
「さっきカウンターで発送の手続きをする際に確認しました。
王都からの例の示談金が入金されていました。
私の残高は・・・400枚を超えていましたから問題ないでしょう。
なので即金で買ってしまいましょう。」
「はぁ・・・」
ブルックが生返事しかできない。
「さてと、お金を下ろして・・・もうすぐ約束の3時間が経ちますね。
あの親子に会いに行きますか。」
武雄は懐中時計を見て呟くのだった。
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武雄はカウンターで金貨を下ろしてから冒険者組合の事務所を出ようと玄関に向かう途中で綺麗な(胸もある)女性に声をかけられる。
「あの・・・もし。」
エリカが声をかけてくる。
「はい、なんでしょうか?」
「あの・・・不躾なお願いなのは十分わかっているのですが、アナタの猫をモフモフさせていただけませんか?」
「ん?・・・タマですか?」
「はい!」
エリカは目をキラキラさせながら言ってくる。
「んー・・・すみませんがこれから少し商談をしないといけないのです。
その後に戻って来ますからそれまで待っていただけますか?
そうですね・・・鐘一つ後には戻ってこれると思います。」
武雄はにこやかに言って見せる。
「うぅ・・・わかりました。
では、ここでお待ちしています。」
エリカは明らかに落胆したようにガックリとする。
「・・・なるだけ用件は早く終わらせますから・・・」
武雄も何だかそこまで落胆されると悪い事をしているように感じてしまいつい言ってしまう。
「・・・はい。」
エリカが頷くのを確認し、武雄達は冒険者組合の事務所を後にするのだった。
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「キタミザト殿、よろしかったのですか?あんな約束をして。」
アレホ親子の元に向かう道すがらブルックが聞いてくる。
「・・・断れなかったです。
どちらにしても奴隷を買ったら一旦、冒険者組合の事務所には戻って来る予定です。
受付で確認しましたが、大き目の湯あみ場があるそうなので借りたいですので。」
「・・・綺麗な女性でしたものね。胸も大きかったですし。」
バートが言う。フォレットがジト目でバートを見るがバートは気が付かない。
「・・・アリスお嬢様には内緒でお願いしますね。
割と真面目なお願いです。」
武雄が苦笑しながら言う。
「まぁ・・・この程度なら報告はしないですよ。」
フォレットが呟くのだった。
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