第395話 ・・・奴隷売買ねぇ。
バートとフォレットと別れた武雄達一行が違う路地から露天商を見ていた。
「・・・あの男性で決まりですね。」
再度、武雄が通りに背を向けて立ち、ミアが腕を伸ばして方向を示すとブルックが確認し呟く。
パイプをふかしている小太りな男性が通りと路地の端に陣取っていた。
「・・・あの奥に人影が見えますけど・・・なんです?」
武雄が見ながら言ってくる。
「・・・キタミザト殿、アレが奴隷売買です。
奥の者の両手に手錠がなされていますし、首輪もされていますね?」
アーキンが嫌な顔をして言ってくる。
「奴隷・・・ねぇ。
マイヤーさん、確かアズパール王国では奴隷制度は取っていないのでしたよね?」
「はい、そうです。」
「奴隷契約を結んだ者がアズパール王国に入った場合は奴隷契約が履行されている為、破棄するように依頼するぐらいしか対応をしていない・・・でしたよね?」
「・・・キタミザト殿・・・買われるおつもりですか?」
マイヤーが訝しがりながら聞いてくる。
「今の所買う気はないですね、一応の確認です。
それよりもマイヤーさん。
奴隷制度はウィリプ連合国で採用していると習ったのですが・・・カトランダ帝国でもそうなのですか?」
「いえ、そういった報告は聞いたことがありません。
アーキンはどうだ?」
「少なくとも前回の調査の際には奴隷販売をしているとは気が付きませんでした。
今もこの角度だから気が付きますが・・・天幕があるので通りを歩いているだけではわからないかと・・・」
アーキンが難しい顔をして言ってくる。
「ふむ・・・その辺も聞いた方が良いでしょうね。
・・・ミア、タマ。」
「ニャ。」
「はい、主。」
「アーキンさんとブルックさんと一緒に大回りをして通りの向こうの路地に行ってください。
他の者に見つからないように奴隷に近づき話を聞いてきなさい。」
「はい。何を聞きますか?」
「そうですね・・・経緯や目的を聞きなさい。」
「わかりました、主。」
「マイヤーさんは私と一緒にあの男性に質問をしに行きます。」
「はい。
万が一騒ぎになった場合は、遠回りをして宿に集合でよろしいですか?」
マイヤーが聞いてくる。
「ええ、ミア達はそうしてください。
私とマイヤーさんは冒険者組合の事務所に寄ってから宿に。
上手く行った場合は、さっきの路地に集合で。」
「「「はい。」」」
「ニャ。」
「では、行きましょう。
あ、マイヤーさんは私と向こうの移動と準備が整うまでちょっとした設定の話をしましょうか。」
武雄の言葉を聞いて各々が準備を始めるのだった。
・・
・
「おっちゃん、パイプの葉を売ってくれますか?」
武雄はパイプをふかしている男性に声をかける。
「ん?・・・構わんよ。」
男性がヤル気無さげに答える。
武雄は銅貨50枚を渡す。
「ん?」
男性が渡された金を見て武雄を初めてまともに見る。
「すみません、切らしちゃって・・・」
武雄はそう言いながら葉を入れていた空の小箱を見せる。
「まぁ・・・構わんよ。
コレから好きなだけ取りな。」
と男性が大きめの小箱を取り出して武雄の前に置く。
「すみませんね。」
武雄は苦笑しながら小箱から葉を移し始める。
「~♪」
「坊ちゃん、パイプは止めた方が良いですよ?」
後ろにいたマイヤーが武雄に向かって言ってくる。
「はぁ・・・もう30も過ぎて坊ちゃんもないだろうに・・・」
「昔から知っているんです。坊ちゃんは坊ちゃんですよ。」
「昔からって・・・私が小さい時にうちの農場で小遣い稼ぎしてただけでしょう?
昔からずっと見ていたように言わないで欲しいのですけど・・・
まぁ私の体を気にしてくれているんでしょうからソコだけはわかってあげますよ。」
武雄は飽き飽きしながら答える。
「じゃあ、止めるので?」
「あと30年くらいしたらね~。」
武雄は気にせず箱に葉を移す。
「それでは坊ちゃんがパイプの吸い過ぎで死んでしまいますね。」
「ふふん、目の前のおっちゃんが良い証人です。
パイプをしていても長生きが出来るってことです。
ねぇ、おっちゃん。」
武雄は楽しそうに
「おぅ、若旦那の言う通りだな。
旦那、諦めな。」
男性は「ガハハ」と笑い飛ばす。
「ふふふ」
武雄も笑って見せる。
「坊ちゃん・・・いつか止めさせますよ。」
「はいはい。」
マイヤーがジト目で抗議してくるが武雄は気にもしない様子を醸し出す。
「若旦那、旅支度をしてどこに向かっているんだ?」
気を緩めた男性が聞いてくる。
「ん?ウィリプ連合国までね。」
「ほぉ、俺の国に来るのか。
何か買うのかい?」
「買うかどうかはわからないけど・・・奴隷ってどんなのか見たくてね。」
「奴隷?俺がその奴隷商だぞ?」
「おっちゃんが?・・・あ、後ろのがそうなんだ。
へぇ。」
武雄は少ししゃがみ天幕の奥に目を向けるがすぐに男性に目線を戻す。
「若旦那、どんなのが欲しいんだ?」
「いや・・・まだ買うかは、わからないんですけどね。
体が丈夫で単純作業をしてくれれば・・・
・・・実はうちは綿花農家なんですけど若者を雇ってもすぐに辞めてしまって・・・」
「綿花農家か・・・うちの国でも賃金は安いらしいからな。」
「この際1人か2人くらい奴隷として雇ってみて結果が良ければ2年後にあと2人くらいを雇えればなぁという甘い考えをしているんですよ。
月々の給料から購入金額を返済して貰って返済が終われば奴隷契約は解除したいんですけどね。」
「なるほどな・・・若旦那は優しいな。
解除を前提に購入するのか?
一生奴隷として扱っても良いんだぞ?」
「んー・・・でも・・・ほら自由という餌があると従順になりそうでしょう?
仕事も頑張ってくれそうだし。」
武雄は楽しそうに言ってのける。
「お、若旦那はわかっているな。
実はな、その部分をわかっていない客が多くてな。
後々面倒な問題に発展する事が多々あるんだよ。」
「ほぉ・・・俗にいう性奴隷とか?」
マイヤーが聞いてくる。
「性奴隷は広範囲過ぎるな。
ただ相当エグイ事をする客もいると聞いている。
で、仕返しに殺されてしまうという訳だな。
まぁうちらはそこまで客を選んでは居ないし、売れた後の事は関知しないからな。」
「おっちゃんも随分商売人だね。」
「まぁな。感情移入をしてしまうと奴隷商は出来んからな。」
「ふーん。ところでおっちゃん、奴隷商はウィリプ連合国にしかいないと思っていたんだけど。
何でここにいるの?」
「ん?若旦那は知らないのか?
先月中頃にカトランダ帝国とウィリプ連合国で貿易協定が発効されてな。
ある程度関税はかかるが・・・ほぼ全ての品が売買可能になったんだよ。」
「え!?・・・それは綿花も?」
武雄が聞く。
「ああ、たぶんな。」
「んー・・・ウィリプ連合国での綿花の値段等々調べないといけないですね。
おっちゃん、向こうの綿花農家も奴隷を雇っていると思う?」
「あぁ、うちの国の農家は多かれ少なかれ奴隷を雇っているぞ。」
「と、いう事は同条件で始められるのか・・・
輸送コスト分うちにメリットがあるけど・・・んー・・・」
武雄は悩むフリをする。
「で、若旦那。うちのを買ってみないか?
あと丁度2人残っているんだよ。
値段も頑張るよ?」
「人数は合うよね・・・」
武雄は奥に目をやる。
「若い女性と初老の男性?
・・・おっちゃん、人間の奴隷は元が取れなそうなんだけど?」
首輪をされている者を武雄は見て聞いてくる。
「ん?・・・あぁ、こいつらは人間種ではないよ。
動物の姿に変身する獣人なんだ。
コレが証明書だ。」
男性が一枚の紙を取り出す。
内容は奴隷の契約書だった。
「おっちゃん、コレは何?」
「証明書兼契約書だな。
種族と名前が載っているだろう?
コレの最後に雇い主がサインをすれば契約が履行されるんだよ。
首輪の所に雇い主の名前が入る。
そしてコレは魔法がかかっていてな、雇い主が決められた手順で奴隷契約を解除しなければ、焼く事も切る事も出来ない仕様になっている。
それに、この紙を紛失してしまうと奴隷契約が解除できないんだ。」
「契約解除する前に雇い主が死んだらどうするの?」
「解除できんな。一生奴隷の身分のままだな。
あの首輪は一生外せない。
雇い主が生きている間なら継続の雇い主を定める方法があって、奴隷を継承できることになっている。
ただし、死んでしまってからでは継承が出来ないな。」
「あれ?さっき仕返しをするとか言っていたけど・・・」
「あぁ。だから自身が一生奴隷の身分でも良いと思わせるくらいの事をされたのだろうな。
奴隷の身分だとどこにも就職は出来ないし、結婚も許されない・・・名前の入っていない首輪をしていれば殺されても誰も文句は言えない・・・辛い物だな。」
「なるほどね。
それだけ奴隷の扱いには注意が必要という事なんだね。」
「まぁ・・・そうだな。
で、若旦那。どうする?
価格もこうするから」
男性は紙に価格を書く。
「・・・ふむ・・・この価格が精一杯?
何か特典はある?」
「んー・・・じゃあ、普通なら契約する時に主人の命令を守る事の順守条項を・・・あと2つ!若旦那が契約する際に自由に順守条項を付けられるようにしよう!」
「んー・・・おっちゃんはいつまでここにいます?」
「そうだなぁ・・・明日一杯まではいるな。」
「わかりました。
少し考えます。買う気になったら明日中までに来ますね。」
「あぁ、わかったよ。
だが、明日来ても残っているかはわからんよ?」
「その時はその時ですよ。
運が無かったと思って諦めます。」
武雄は苦笑しながら男性から離れていくのだった。
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