第393話 懐中時計を発見2。エルヴィス領への誘い。
「そうですか。
ちなみに閉店なさった後はどこに行かれるのですか?
懐中時計のメンテナンスもしてほしいですから行き先を教えてください。」
「その・・・実はまだ決めていなくてですね・・・
とりあえず東の村辺りに行こうかとは思って居ます。」
「?・・・行き先を決めないで閉店をするのですか?
・・・なんだか変ですね・・・」
武雄は「ん?」と顔を捻りながら言う。
「ええ、まぁ・・・事情がありまして。」
アレホは難しい顔をする。
「そうですか・・・まぁ・・・良いです。
各々事情はあるでしょうし・・・
そうですか・・・移住先が決まっていないのですか・・・」
「その定住先が決まったらお教えしますけども・・・」
アレホが申し訳なさそうに言ってくる。
「ん?・・・んー・・・マイヤーさん、どう思います?」
武雄がマイヤーに話を振る。
「キタミザト殿、どちらにしても時間はかかるのですからしょうがないのではないですか?」
「そうですね・・・
ではビセンテ店長、この懐中時計はいくつありますか?」
「えーっと・・・ワゴンと箱の中を合わせれば・・・たぶん50個程はあります。」
「50個・・・」
武雄は頭の中で「エルヴィス家の人達でしょ?研究所の人達でしょ?・・・」と思案し始める。
「あの・・・どうしましたか?」
アレホが武雄が黙ったので不安になり聞いてくる。
「いえ・・・足らないなぁと。」
武雄が難しい顔をしながら言う。
「「え!?」」
ビセンテ親子が驚く。
「懐中時計は月何個くらい生産できますか?」
「・・・細かい部品等々がありますので・・・月5個くらいは作れるかと。」
「・・・」
武雄は何も言わず目を細める。
「キタミザト殿、ちなみにいくつ欲しいのですか?」
フォレットが聞いてくる。
「最低月産20個。」
「「えぇ!?」」
ビセンテ親子が驚く。
「どうしましたか?」
マイヤーがアレホに聞いてくる。
「いえ・・・この商品は全く見向きもされませんでしたので・・・」
「ん?そうですか?・・・それにしても月産5個かぁ・・・少なすぎますね。」
「はい。息子が1人で作っていますし・・・それにほとんどの部品は違う工房で作って貰っていたのでそれを自ら作るとなると・・・個数が少なくなってしまいます。」
「・・・ふむ・・・そうですか。
んー・・・ビセンテ店長、息子さん、うちに来ます?」
「え?」
「私としては月20個作って欲しいですから・・・私が居る街で起業してみますか?
部品の問題はありますけど・・・それらを含めて私がある程度の資金提供をしますからもう少し工房の人数を増やして貰えませんか?」
「え?・・・その・・・良いのですか?」
「良いも悪いも私は作って欲しいと思っているだけです。
出来れば産業として街おこしもしたいですし・・・嫌なら別に断ってくれても良いですよ?
あ・・・ただ・・・」
「ただ?」
「私達はカトランダ帝国の人間ではなく、アズパール王国の人間なのです。
国替えをしてもらう事が条件ですね。」
「「えぇ!?」」
ビセンテ親子が驚く。
武雄はこの国に来た理由(刀の複製の方)を説明するのだった。
・・・
・・
・
「そうですか・・・ステノ工房さんを探して・・・」
アレホが頷きながら呟く。
「ええ、廃業されてしまっていたようですので・・・諦めるしかありませんが。」
「そうですか・・・考える時間はございますか?」
アレホが武雄に聞いてくる。
「申し訳ないですが・・・私達はあと最大でも2日ぐらいしかこの町にいる気はありません。
目的であるステノ工房がないのですから留まる意味がありませんからね。
なので、ビセンテ店長。今すぐ決めてください。
我々と来て時計の工房を起業するのか、このまま帝国で再起を図るのか。
生まれ育った帝国を出て行く気がないというのであればそれも致し方ありません。
生まれ故郷が大切なのはわかります。」
「んー・・・」
アレホは腕を組み悩む。
「・・・私がアズパール王国の者である証明です。
ただし私の事はこの場では何も言えません。
国境を越えてから改めて自己紹介はさせてもらいます。」
と武雄は越境許可書をアレホに見せる。
ビセンテ親子は越境許可書をマジマジと見て武雄達が嘘を言っていないことを確認しさらに悩む。
「・・・ビセンテ店長。
懐中時計を1個お借りします。
きっかり3時間後・・・また来ますのでそれまでに決めてください。
申し訳ないですが、アナタ達に差し上げられる時間はそのぐらいです。」
「・・・わかりました。」
「では、一旦お暇します。」
武雄は席を立ち、越境許可書をコートの内ポケットにしまう。
「皆さん、行きますよ。」
武雄の掛け声に皆が席を立ち店を出て行く。
「お茶をありがとうございました。
この方に付いて行くと面白いかもしれませんよ?」
最後尾を歩いていたフォレットがビセンテ親子に優しく声をかけて出ていくのだった。
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ビセンテ工房を出た武雄達が店の前にて
「キタミザト殿、この後はどうされますか?」
マイヤーが聞いてくる。
「ん?・・・表通りを少し見てみますか。
この辺をうろついてさっきの兵士達に見つかってもイヤですからね。」
「3時間・・・さて・・・あの親子はどういう決断をするのでしょうか?
キタミザト殿、ダメだった場合どうしますか?」
アーキンが聞いてくる。
「ダメでも構いません。
その際は懐中時計を買い占めてエルヴィス領の鍛冶屋達に複製させます。
複製が面倒そうなので異動を誘っただけです。
良いですか?物が作られ販売されたという事は、こちらも同じ手順を踏めば同じ物が出来るという証明にもなります。
人材が欲しいのは手順を考えるのを省略する為です。」
「はい。」
アーキンが頷く。
「さて、3時間程ブラブラとしますか。」
武雄達が表通りの方に向かうのだった。
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武雄達が出て行ってビセンテ工房の店内は沈黙していた。
「・・・父ちゃん。」
バキトがアレホに声をかける。
「うん・・・お前はどう思う?」
「行くべきだと思う。
もう帝国に俺らの居場所はないよ・・・ならあの方を頼って新天地で再起をかけても良いと思う。
時計の概念もちゃんと知っていたし、俺らを無下には扱わなそうだし・・・」
「そうだな・・・うん・・・
もうこの帝国では魔法師組合が目を光らせているからうちらでは再起をかけられないだろう。
・・・バキト、シントロンさんを連れてきてくれ。
確かあの人達も今日が店じまいだ・・・あの人が居れば時計の部品が作れる。
俺の考えを聞いて貰いたい。」
「わかった、すぐに連れてくるよ。」
バキトは店を出て行くのだった。
「・・・新天地・・・まぁどこに行っても一からなのは変わらないか・・・
なら全く時計が知られていない地で起業する方が上手く行く可能性は高いか・・・」
アレホは移住の決意をするのだった。
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