第392話 懐中時計を発見。
ステノ工房の近くまで武雄達一行は戻ってきた。
ブラブラ通りを歩いていると、とある工房の玄関前で閉店特価と書かれたワゴン売りされている商品を何気に武雄が見る。
「は!?」
思わず武雄は声に出して驚いてしまう。
「どうしました?」
ブルックが聞いてくる。
「いえ、ブルックさん。コレ何だかわかりますか?」
ワゴンから武雄が1個取り出す。
「んー・・・
1から12の文字が刻まれていますね。
棒が2本・・・何でしょうかコレは?」
ブルックは見ながら悩む。
「やはり時計はないのですね。
コレは懐中時計という物です・・・なんで特価品なんかに・・・」
武雄はワゴンを見ながら言う。
「とりあえず入ってみますか?」
アーキンが聞いてくる。
「そうですね。
あ、時計が何個あるか数えてから行かないと・・・」
武雄達はワゴンの中にある時計の数を確認するのだった。
・・
・
「いらっしゃいませ。」
中には青年がカウンターに居てカウンター内の荷物を木箱に詰めていた。
軽く店内を見渡すと木箱が乱雑に積まれている。
「すみませんが、主人さんはいらっしゃいますか?
少しお聞きしたい事があるのですが。」
「はい、少々お待ちください。」
青年はすぐに奥に行き「父ちゃん、お客さんだよ。」と声を張っているのがわかる。
と、すぐに奥から先ほどの青年と初老の男性が出てくる。
「すみません、お客様。閉店の準備をしていましてバタついています。」
「閉店ですか・・・お聞きしたい事がありましてよろしいですか?」
「はい、何でしょうか。」
「店前にあったコレなのですが、こちらでお作りになった商品なのですか?」
武雄が店先にあった懐中時計を見せる。
「はい、私共で作った物です。」
「そうですか・・・
これを大量に買った場合、少し安くはなりますか?」
「「は!?」」
ビセンテ親子が驚く。
「え?・・・売り物ではないのですか?」
武雄が驚きを返しながら聞いてくる。
「いえいえ!滅相もない・・・売り物です!」
「ほぉ・・・良かった。
在庫は何個ありますか?
閉店されてどこに行かれるんですか?
どこに行けば売ってくれるんですか?
他国にも輸出してくれますか?
納期はどのくらいかかりますか?」
武雄は矢継ぎ早に質問をしてくる。
「ちょ・・・ちょっと待ってください。
質問が多すぎます。」
アレホが戸惑う。
「おっと・・・興奮し過ぎましたね。」
武雄は苦笑をアレホに向ける。
「と・・・とりあえずお茶をご用意しますので・・・
乱雑な店内ですが、お話を伺わせてください。
バキト、一緒にお茶の準備を。」
「はい、父ちゃん。」
ビセンテ親子が奥に行く。
・・
・
「キタミザト殿。」
「はいはい、何ですか?」
「なんでいきなり早口で質問をしたのですか?」
バートが聞いてくる。
「ん?雰囲気をこっちに持ってきたかった為ですね。
閉店の作業をしていたでしょう?
お店の雰囲気は最悪です。
ならその中で交わされる商談は辛気臭くなりそうでしょう?
だったらいきなりハイテンションでこっちがまくし立てればこちらの事しか考えないで対応してきます。
一瞬でも閉店の事が頭から抜けるのであれば気分的に楽にこちらに話をしてくれそうでしょう?」
「そういう物なのでしょうか?」
「さぁ?ですけど辛気臭い雰囲気で話はしたくないですからね。
まぁ・・・後で少しその辺も聞いてみたいとは思いますが。」
武雄が笑いながら言うと皆が「楽しそうに話すなぁ」と心配になるのだった。
・・
・
「お待たせしました。」
ビセンテ親子がお茶を持ってやってくる。
「いえいえ、こちらこそすみませんね。いきなり来て。」
武雄は朗らかに受ける。
「お客様、その申し訳ないですが、人数分の椅子はご用意できません。
・・・木箱にお座りになっていただいても良いでしょうか。」
アレホが申し訳なさそうに言ってくる。
武雄が皆を見ると頷きを返してくる。
「構いませんよ。
では、私が木箱に」
「「「「いやいやいや。」」」」
若手4人が拒否する。
「何です?」
武雄が訝しがりながら言ってくる。
「お2人は椅子で私達が木箱で!」
アーキンが言ってくる。
「そうですか?・・・まぁ・・・わかりました。」
武雄とマイヤーが椅子に座り他の4名が後ろの木箱に腰を下ろす。
武雄とマイヤーの前には簡易的な机があり対面にビセンテ親子が腰を下ろす。
「まったく・・・店主さん騒々しくてすみませんね。」
武雄が苦笑しながらアレホに言う。
「いえ、楽しそうなご一行なのですね。
私がこの工房の主でアレホ・ビセンテと言います。
こっちが息子のバキトです。」
店主も武雄達が入って来た時と打って変わって朗らかに自己紹介をする。
「タケオ・キタミザトと言います。
他の5名は私の旅の同行者ですので自己紹介は省きますがよろしいですか?」
「はい。」
「ビセンテ店長。この商品を買いたいとは思うのですが・・・
すみませんが、一度この商品の概要を説明して貰えますか?」
「え?・・・はい、畏まりました。
バキト、説明を。」
「はい!」
「皆さま、お手に持って頂いて結構です。」
とアレホが端の木箱に入れてあった懐中時計を皆に渡す。
バキトは少し緊張しながら説明を始める。
「この商品は『懐中時計』と言います。
1日を24分割して、表示上は12分割表記にしています。
短い針が1個進むごとに「1時間」と言うようになっています。
短い針が2周回ると1日が終わります。
また長い針は1日を24分割した物をさらに60分割した物を表しています。
長い針が1周すると短い針が1つ進み「1時間」となります。」
「ふむ・・・マイヤーさん、わかりますか?」
「まったく・・・」
武雄の質問にマイヤーが首を傾げる。他の皆も頭を捻っている。
「簡単に言うとですね。
今我々は3時課の鐘や6時課の鐘という鐘単位で時を知っていますよね?」
「はい。」
「次の鐘が鳴るまでを3分割にしたのがコレなんです。」
「3分割なのですか・・・ふむ・・・」
「もっと時間を細かく知ろうという考えの元に作られた商品なのですよ。」
「なるほど。」
マイヤーを含む皆が頷く。
「今、待ち合わせは朝一番、昼前、昼過ぎ、9時課の鐘の頃とか曖昧ですよね?
この時計があると例えば10時に城門に集合と細かく決められるのです。
ちなみにビセンテ店長、朝の6時は鐘でいうとどこになりますか?」
「1時課の鐘が朝6時としています。」
「なるほど。」
武雄は「私の認識と一緒ですね」と思うのだった。
「ちなみに1日経つと鐘との誤差はどのくらいですか?」
「5分程度かと・・・懐中時計の上のツマミを引っ張ると長針と短針が調節できますので、1時課の鐘と晩課の鐘の時にそれで調整をしていただきたいと思います。」
「なるほど。コレはどうやって動くのですか?」
「はい、新素材を開発したのですが・・・魔法適性がある方が持っていらっしゃったら魔力を少し頂いて動くようになっています。
また、魔法適性がある方に1日持ってもらえれば魔法適性がない方が持っても2日動く仕様にしています。」
「・・・新素材?」
武雄が目を一瞬細めて聞き返す。
「はい。微量ですが魔力を溜めることを可能にしました。
でも本当に微量でして・・・それを動力にして動いています。」
店長は武雄の雰囲気が一瞬変わったことに気が付かないで説明をするのだった。
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