第38話 あの箱はなにか怪しい。
「お茶をお持ちしました。」
店員は武雄とアリスが座っている目の前の机にお茶を持ってくる。
ついでに自分の分も机に置き、武雄達の対面に座る。
「えーっと、もう一度聞きますが、どうしてこちらに?」
「いえ、その経緯は先ほど言いましたが。」
「ええ、お伺いしました。何やら怪しい小物入れを見つけたとか。」
「はい、その通りです。で、こちらに来ました。」
「えーっと・・・再度質問しますが・・・どうしてこちらに?」
魔法具商店の店員は不思議そうな顔をする。
「私が知っている店は仕立て屋さん、ここ、雑貨屋さんと雑貨屋さん2の4箇所です。
そのなかでいろいろな工具がありそうで、何かあった場合、すぐに対応してくれそうなのは、ここしかなかったのです。」
武雄は正直に言う。
「・・・何かあった場合とは?」
「爆発。」
「おかえりください。」
丁寧に店員は頭を下げる。
「いやいや、冗談ですよ。」
「わかっています。」
と店員は頭を上げてにこやかに話す。
「でしょうね。」
と武雄もにこやかに返答する。
「これは・・・なんでしょう?
お二人ともわかっていてやっていたのですか?」
アリスは一連のやり取りを見て思ったことを口にする。
「ええ。アリスお嬢様、店員さんは小物入れの話を私から聞いた時点で察していましたよ?
それでいてワザと聞いてきたのです。」
武雄がそうアリスに言い店員は頷く。
「なぜでしょう?」
「はは、ただのお遊びです。」
店員はにこやかに笑う。
「アリスお嬢様、本気で嫌ならお茶は出しませんよ。」
「そう言われればその通り」と思いながらアリスはお茶を口にする。
武雄は机に先ほど買ってきた小物入れをリュックから取り出す。
それを見て店員が、
「見た目は普通の小物入れですね。」
「ええ。ですが、アリスお嬢様も私もこれを持ったら怪しく思いました。」
と武雄は言い、店員はおもむろに手に取ってみる。
「確かに。見た目と重さが合わないですね。
それに若干、底が浅く見えますね。」
「ええ、そうです。」
とアリスも言う。
「これはやってみるしかないですね。」
店員はそう告げ工具を取りに行く。
「アリスお嬢様、よろしいですか?」
武雄はアリスに確認をするのだった。
「やる・・・とはなんでしょう?」
「壊すという意味でしょうね。」
「構いませんよ。小物入れに惹かれたわけではないのですから。」
とアリスはこれっぽっちも小物入れ自体に興味は無い様だ。
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しばらくして小道具を持って店員が戻って来る。
「お待たせしました。」
と席に着く。
「構いませんよ。」
とアリスが伝えると、店員はおもむろに小物入れの中の意匠布を取りにかかる。
しっかりと着いている様でなかなか剥がせない。
武雄は工具類の中のヤスリの柄を左手で持ち「ファイア×1」とそして「鉄の部分だけ温めたいな」と考えてから「発動」と考えた。
ヤスリから火は上がらなかった。しかし、武雄の感覚としては発動していた。
武雄はそのヤスリを右手に触れさせる。
結構熱くなっていた。
「店員さん、これを使って取れませんか?」
と柄の部分を向けて店員に渡す。
店員もアリスも何のことかと最初は思ったが、ヤスリが熱くなっているので、「なるほど」という顔をする。
店員は熱いヤスリを使い、接着剤に熱を与えながら器用に意匠布を取っていく。
ヤスリが冷めて来たら武雄が再度熱していた。
綺麗に意匠布を取ると、底板部分が板状の金属で出来ていた。
「・・・怪しすぎますね。」
店員の一言に武雄もアリスも頷く。
店員が細めのペンチを使い、板を取り除く。
と、板の下には同じく金属で仕切りがされている空間が出てくる。
その中に指輪が3個入っていた。
「・・・増々怪しいですわ。」
武雄と店員は頷く。
「とりあえず、この指輪は手に取らない様にしましょう。
・・・・店員さん、魔法がかかっていないか見れますか?」
「わかりました。」
と武雄の依頼に店員は調べ始める。
調べ始めると店員は驚きと難しい顔をし始める。
「何かありましたか?」
アリスは店員に聞く。
「ええ。・・・アリスお嬢様、この紋章を知っていますか?」
と店員は器用にペンチを使ってアリスに見せる。
「・・・王家の紋章・・・みたいですね。」
アリスの顔から笑みが消え真顔になる。
「そうですか・・・んー・・・」
店員は悩みだす。とすぐに悩むのを諦め、武雄とアリスに説明を始める。
「これが王家の指輪という仮定で鑑定すると納得できるのですが。
この指輪には『威光』という魔法がかけられていると推測できます。
この魔法は王都の王家専属の魔術師のみが使える都市伝説クラスの魔法なのです。
その魔法様式もかけ方も口伝による伝授で一般には出回らないという代物です。
一般の魔法師が何かに『威光』をかけたことがわかると重罰が待っています。
死罪と言わないまでも死ぬまで監禁です。」
武雄とアリスは黙って聞いていたが、武雄が質問する。
「一般に出回らない魔法なのに店員さんが知っているのはどうしてですか?」
と言われ、店員は「しまった」という顔をする。
「・・・はぁ。
私はキタミザト様と似ていて、戦力にならない系統だったのです。
私が得意とするのは『鑑定』でした。
で、師事していた方が王都の王家専属魔法師なのです。
・・・で、うちの師匠が私の前でうっかり『威光』を使ってしまいまして。
鑑定の能力がある人の前で使うのはどうかと思いますが・・・使いました。
で、王家にばれると私が監禁されるのでは?と師匠は考え、私は隠居に。
師匠の伝手を頼って、この街に店を出しました。」
「はぁ・・・その魔法師、アレね。弟子を巻き込むとか・・・はぁ・・・」
アリスは言いながらため息を漏らす。
「で、店員さんはかけられるのですか?」
武雄は店員に質問する。
「いえ、確認はできますが、かけられませんし、かけようとも思いませんね。
そんなことで監禁されるリスクを背負うなんて馬鹿げてます。」
と店員はキッパリと言う。
「さて・・・どうした物か・・・」
3人は指輪を見ながら悩む。
・・・威光とはまた随分、面白そうではある。
まぁ指輪だし、してみるか・・・と武雄は手を伸ばすと同時にアリスも手を伸ばしてくる。
「「あっ。」」
お互い顔を見合わせる。
「やっぱりしてみたいですよね?」
アリスは苦笑いをしながら言う。
「ええ。どんな物か味わってみたいですよね。」
と武雄も言う。
二人のやり取りを店員は諦めて見ていた。
二人は指輪を持つ。
「アリスお嬢様、どこに付けます?」
「そうですね、すぐに外しますからどこでも・・・
そうだ。タケオ様に付けて貰いましょう。」
とアリスは「付けて」と嬉しそうに手を出してくる。
・・・え?私?・・・結婚指輪は左手薬指くらいしか知らない・・・武雄は困る。
まぁすぐに外すからとアリスの右手薬指に付ける。
アリスは驚いた顔をする。
・・・え?この指だとなんだっけ???・・・
「じゃあ、私にも付けてください。」
とアリスに向けて手を出す。
とアリスも武雄の右手薬指に若干、顔を赤らめながら付ける。
「店員さん、どうです?何か変わりましたか?」
両者付け終わり、店員さんに向かって武雄は聞いてみる。
「いえ、特に何も変化はありませんが?」
と店員は「はて?」という顔をする。
「間違いなく『威光』の魔法はかかっているのですけどね・・・」
んー・・・と店員は悩む。
武雄とアリスは顔を見合わせ苦笑する。
「ピカッと光るかと私は思いましたよ。」
「あら?タケオ様もですか?私もそう思いました。」
と二人して笑いあう。
「じゃあ、外しますか?」
と武雄とアリスは指輪を外そうとする。
・・・
・・
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「・・・アリスお嬢様。」
「・・・タケオ様。」
二人同時に口にする。
「「外せませんね。」」
その言葉を聞き。店員は顔を真っ青にするのだった。
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