第390話 33日目 ステノ工房の店前で異邦人との遭遇。
「ん?・・・」
「キタミザト殿、どうしました?」
アーキンが聞いてくる。
朝食後、皆でステノ工房へ向かい、大通りから工房がある通りに抜けようかという所で武雄が止まったので皆が武雄を見ていた。
「いや・・・一気に雰囲気が変わった感じがして・・・
表通りは賑わっているのに1本入った脇道がこんなに人が居ないものなのですかね?」
「確かに・・・何かありそうですね。」
マイヤーも辺りを見ながら頷く。
「まぁ・・・とりあえず向かってみますか。」
武雄達一行はステノ工房があった場所に向かうのだった。
・・
・
すぐにステノ工房があった店に到着し入り口の張り紙を見る。
確かに昨日説明のあった通りの内容だった。
「「んー・・・」」
武雄は腕を組んで手を顎に当てて思案しようとしたが、同時に自分以外の声がした左側を見ると青年が武雄がしようとしたポーズで悩んでいた。
マイヤー達は武雄の右に居ます。
・・・武雄は顔には出さないように驚く。
青年は小銃を持っていたのだ。それもスコープ付きのを。
「・・・お兄さんも?」
武雄は青年に声をかけてみることにした。
「あ、おじさんもかい?」
「おじ・・・ナイスミドルと言わないと怒りますよ?」
「はは、おっちゃんもここに用が?」
「・・・はぁ・・・そうです。
私の場合はコレなんですけどね。
抜いても良いですよ。」
武雄は腰に差していた小太刀を取り出し青年に渡す。
「へぇ・・・刀かぁ。
少し短いですかねぇ?これは小太刀かな?本でしか見たことないけど・・・」
青年は武雄の小太刀を鞘から抜いてマジマジと見ている。
「・・・カタナ?この片刃剣の事を言っているのですか?」
「あ・・・いえ・・・俺がいた所ではそういう言い方をね。」
青年は苦笑しながら言ってくる。
「へぇ・・・カタナですか・・・カタナ・・・カタナ・・・
ふむ・・・良い名ですね。カタナと言いましょうかね。」
武雄は笑みを青年に向ける。
「で、おっちゃんがここに来たのはどうしてなんだい?」
「ナイスミドルと・・・もう良いです。
実は私の祖父がこの間木から落ちて腰を打ってしまいましてね。
『棺にはこの剣の複製を入れて欲しい』と喚きましてね。」
「・・・寝たきりに?」
青年が神妙な顔をする。
「幸い近所に魔法師が来てくれていたおかげで何事もなくピンピンしていますよ。
ただ本人的に年を感じたようで・・・うるさいったらありゃしない。」
武雄はため息を付きながらぼやく。
「まぁ・・・何事も無くて良かったね。」
青年が苦笑を返してくる。
「年齢も年齢なんでね・・・まぁ本人の希望に沿おうかと思って来たんです。
そしたら・・・」
武雄が店を見る。
「そうかぁ。」
「お兄さんは?」
「俺はコレだよ。」
青年が無防備にも武雄に小銃を渡す。
「・・・これは・・・魔法の杖?ロッド?・・・宝石はないか・・・
宝石がないなら・・・斧?槍?・・・刃部分もないか・・・」
武雄は銃床や側面をクルクル回しながら見て呟く。
武雄は真剣に見ている。
・・・スコープの台座がネジ留め?・・・
「あぁ・・・違いますよ。
これは・・・こうやって構えるんだよ。」
青年は武雄から小銃を返してもらい・・・武雄に銃口を向けて構える。
武雄は射線から外れるようにすぐにしゃがみ、下から構えている青年を見上げる。
「・・・どこにも・・・刃の部分がないですよね?
その構えだと力がかけられるのですか?
なんだか走り込み辛そうですけど?」
武雄が下から両頬に手を当てながら言う。
・・・様になっているね・・・
「これはそういった近接戦闘用ではない・・・遠距離武器なんだよね。
・・・なんて言えば良いのか・・・」
青年が軽く悩む。
「へぇ・・・弓とかクロスボウとかと同じ感じなので?」
「あ、そうそうクロスボウの進化したヤツだね。」
青年が良い説明が武雄側から言われたので嬉しそうに言う。
「へぇ・・・でも矢をつがえる所がありませんよ?」
武雄が不思議そうな顔つきで質問をする。
「あぁ・・・ここをひねって引っ張ると・・・」
「開きましたね・・・」
武雄が覗き込む。
・・・弾丸や薬莢は入っていないか・・・
「ここに弾丸・・・矢を入れるんだよ。」
「へぇ・・・変な武器ですね。」
「まぁ・・・変かな?コレはコレで良いんだよ?」
「面白い構えをしていましたよね。」
「やってみる?」
と青年が武雄に小銃を渡してくるので武雄はワザと銃床を脇に挟み込んで銃身を上から掴む。
「こんな感じですか?」
武雄が真面目な顔で青年に聞く。
「・・・まったく違うね?」
青年は苦笑を返してくる。
と、町の奥から4名くらいの旅人達が走って来るのがわかる。
「ん?」
「何か来ましたね。」
「あれは俺の知り合いかな?・・・何走っているんだか・・・
あ、おっちゃん。俺はルイ・セイジョウと言うんだ。」
「私はジョン・ドウです。」
武雄はしれっと偽名を言う。
「ジョン・ドウ・・・嫌な名前だね。」
「そうですか?・・・まぁ農家ですけど・・・」
「あ・・・別におっちゃんについて何か言ってないですよ?
俺が居た国でその名前は曰くがあったのでね。」
「へぇ。お兄さんの所は・・・どこなのです?
帝国ではないのですか?」
「俺は・・・今はウィリプ連合国に居るんだけど・・・
出身国が連合国ではないね。」
「へぇ、お兄さんは大変な遍歴がありそうですね。」
「まぁ・・・それなりにね。」
と、旅人達が武雄達の前に止まる。
「すみません団長!失敗しました!」
「任せろって言って出て行ったよね?
で?」
報告してきた者に呆れながらルイは質問をする。
「弾丸と小銃は手に入りましたが、追手が付いてしまい」
「いたぞ!あそこだ!」
と一行が来た方からさらに兵士達が走って来る。
「あぁ・・・もう・・・何やってるのかな?
おっちゃん、ごめん。もう行くわ。」
「はいはい、コレは返しますよ。」
と武雄が小銃のスコープ部分を持って小銃を返すと
・・・ガキッ・・・カランッ・・・
スコープと小銃の取付部分から折れる。
「ええ!???」
ルイが驚きながら小銃を拾う。
「団長!!早く!」
「あぁ・・・もういい!!
おっちゃん、それはあげるよ。大事にしてね。」
「はいはい。お兄さんもお元気で。」
「じゃ!」
ルイとその一行が走り去っていく。
その一行を兵士の一団が追いかけていく。
・・
・
「・・・キタミザト殿。」
一部始終を黙って見ていたマイヤーが声をかけてくる。
「個室のカフェがあれば行きたいですね。」
「すぐ近くに。」
ブルックが答える。
武雄達一行もすぐにその場を離れるのだった。
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「いらっしゃ・・・あんた達か。」
アレホが店内に入って来た男達を見てため息を付く。
「おう、ビセンテ。
調子はどうだ?店は今日までだろう?
ちゃんと来月1日には退去しておいてくれよ?
もう次が決まっているんだからな!ガハハ!」
「わかっているさ・・・片付けが残っていてね。
君たちの相手も余りできないんだが・・・」
アレホは店内を見ながら呟く。
「おっと・・・これは済まねぇな。
じゃあ、用件だけ。
ほれ、立退料だ!」
男はカウンターに貨幣が入った皮の巾着袋を置く。
「・・・はぁ・・・ありがたく貰っておくよ。」
「老婆心ながら聞いておいてやるが・・・コレからどうするんだ?」
男はニヤつきながら聞いてくる。
「その立退料を元手にどこか国境沿いの辺境で一からやり直すさ。」
「そうか。
おっとこの後もう一軒行かないとな。
じゃあな、ビセンテ。達者でな。」
男たちは笑いながら出ていくのだった。
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