第389話 32日目 就寝前の打ち合わせ。
夕飯も終わり、食器も若手4人が率先して片付けをした。
武雄とミアとタマはお風呂中です。
「「「「・・・」」」」
若手4人は机の横に座りながら呆けている。
「・・・」
マイヤーは何も言わずにお茶を飲んでいる。
「良いお風呂でした。」
武雄がチビッ子2名を両肩に乗せながらリビングに戻って来る。
ミアもタマも武雄に髪を乾かして貰ったようでサラサラしている。
「キタミザト殿、ミア殿、タマ殿、おかえりなさい。」
マイヤーがにこやかに言う。
「はい・・・で?若手4名がボーっとしていますが・・・大丈夫ですか?」
武雄が心配そうに言う。
「いえ!今日の料理・・・最高でした!」
フォレットが起立して返事をする。
「はい!王家の方々が絶賛する意味がわかりました!」
ブルックも起立して返事をする。
アーキンもバートも起立する。
「・・・いいから座りなさい。
キタミザト殿、さっきからこんな感じです。」
マイヤーが苦笑する。
「まぁ・・・食事の風景を見ていたら薄々はわかっていましたが・・・
喜んでもらえたようですね。」
「「「「はい。」」」」
若手4名が返事をするのだった。
・・
・
「さて、打ち合わせをしますか。
アーキンさんとブルックさんには、自己紹介がまだでしたね。
私の部下で妖精のミアと猫のタマです。」
「お2方様、よろしくお願いします。」
「ニャ。」
チビッ子達が挨拶をする。
「「可愛い。」」
ブルックとフォレットが呟く。
「私は第二情報分隊のフィル・アーキンです。そして」
「ヘザー・ブルックです。」
2人が挨拶をする。
「はい、では始めましょうか。
まずは・・・ミアについては皆さん知っていますね?」
武雄が言うと若手たちが頷く。
「タマはアズパール王国とカトランダ帝国との関間で預かりました。」
「預かったとは何でしょうか?」
バートが聞いてくる。
「いえ、あの辺の主さんから子供をぜひにと言われてしまって・・・断れませんでした。」
武雄が苦笑を返す。
「・・・国境間の主・・・まさかラジコチカですか!?」
アーキンが驚きながら聞いてくる。
「何でしょうか?ラジコチカって。」
「はい・・・あの辺に古くからいる魔物なのです・・・キタミザト殿はご存知ないのですか?
4足歩行のビーストマンで白地で黒の縦縞模様だったと思いますけど。」
「ええ、それですね。大きい猫でした。」
「・・・大きい猫と言うか・・・兵士数名で対応しないと追い払いも出来ないくらいなのですけど。」
「敵意もありませんでしたし・・・こちらから悪さをしなければ問題ないと思うのですけど。」
「確かに国境間のラジコチカは山の実りが不作の年にちょっと村里に出てきて穀物を荒らすぐらいなので・・・
事前に食べ物を用意しておけば人的な被害は出さない珍しい魔物ではあります。」
「そうですか、なら問題はなさそうですね。」
「いやいや、タマ殿がそのラジコチカなんです。将来はあの大きさになるのですよ?」
「でしょうね。
でもちゃんという事も聞きますし・・・うちで飼いますから問題ないですよ。
ねぇ、タマ?」
「ニャ。」
武雄の問いかけにタマが頷く。
「え?・・・まぁ・・・キタミザト殿が管理をされるのだったら問題はないのでしょうけど・・・」
アーキンが「良いのかなぁ」と腕を組みながら考え込んでしまう。
「まぁ・・・私も見ていましたが・・・断ったら戦闘をしていたかもしれないですよね。」
「ええ、クゥの時に経験しましたからね。
大人しく引き取ってきました。」
「ん?クゥ殿の時にですか?」
マイヤーが聞いてくる。
「はい。断ったら姉ドラゴンが尻尾で攻撃してきましたね。」
武雄は楽しそうに言う。
「主は変な所で喧嘩を売りますからね。」
ミアがため息を付く。
「・・・よくご無事で。」
ブルックが呟く。
「いえ、姉ドラゴンが本気ではなかったので軽く叩いた程度ですから。
何とかやり過ごしましたよ。」
武雄は笑いながら言う。
「はぁ・・・キタミザト殿の防御は1級品だから出来る事ですね。
皆もわかっているだろうがドラゴンに喧嘩を売るなよ?」
「「「「当たり前です!」」」」
マイヤーの忠告に若手が即反応する。
「とまぁ、私の方からは旅の事はタマの事しかありません。
何かありますか?」
武雄が話を打ち切り、アーキンに顔を向けて質問をする。
「はい。
キタミザト殿、今回の目的はこの町にある『ステノ』という工房に行くことですよね?」
「はい、そうです。」
武雄とマイヤーが頷く。
「実は私とブルックで今日の内に下見をしてきたのですが・・・
ステノ工房は廃業されているようなのです。」
「廃業?」
「はい。店はガランとしており、中に人はいませんでした。
それに入り口には張り紙がされていて『今までのご愛顧ありがとうございました。一身上の都合により廃業いたします』の謝罪文が張り出されていました。
掲載日時は約1か月前のようです。」
アーキンが説明をする。
「マイヤーさん。」
「はい、遅かったようですね。」
武雄とマイヤーが頷く。
「なるほど、明日私も見に行かせてください。
アーキンさん達を信用しないわけではないですが・・・一度この目で見ておいた方が良いでしょう。
他には何かありましたか?」
「はい。
それとステノ工房近くのカフェから少し通りの様子を見ていたのですが・・・
どうも昼近くになると一斉に通りの工房が一旦店を閉めるのです。
なんでそんなことをしているかはわかりませんが・・・」
ブルックが説明をする。
「ふむ・・・カフェ内で周りの人は何か言っていましたか?」
「・・・そう言えば・・・『ステノ工房さんも大変なのに目を付けられたもんだ』とおじさん達が言っていたような気がします。」
ブルックが考えながら言ってくる。
「キタミザト殿、これは・・・」
「たぶん私がというより陛下と一緒に思いついた2つ目の方ですかね。
小銃は持って来なくて正解だったかもしれません。」
「はい。
この国の魔法師組合は小銃を相当危険視していますね。
廃業にまで追い込むとは・・・少し侮っていました。
この国は工業が進んでいるのでもう少し工房に対しては緩い物かと・・・」
「私もそうですよ。
ですけど・・・確定ですね。」
「何がでしょう?」
「逆説的に捉えるとこの国の魔法師の上層部は小銃の可能性を認めたという事です。
でなければ排除に乗り出さないでしょう。
つまりはこの兵器の有効性が魔法師組合の上層部で確認されました・・・ということは・・・」
「近々これに似た兵器が出るかも?と。」
アーキンが聞いてくる。
「んー・・・そこは微妙ですね。
私みたいに小銃を囲って研究をして、ゆくゆくは魔法師の地位堅持と兵士の質向上を目指したいと思っていないから排除しているのです。小銃の有効性はわかっているのに・・・
ん?もしくは・・・小銃のような手ごろな武器があると魔法師組合が今開発中の兵器が否定されるから・・・かもしれません。」
「それはどういった物でしょうか。」
フォレットが聞いてくる。
「さて・・・私も所詮は凡人の端くれ・・・小銃が良いと認識してしまうとそれ以外のお手頃兵器は思いつかないですね。」
武雄は悩みながら言う。「戦車や装甲車の概念も小銃の派生でしょ?ヘリや飛行機も輸送がメインだろうし・・・何があるのだろう?」と思うのだった。
「まぁ・・・キタミザト殿、その辺は推測の域をでませんね。」
マイヤーがため息を付きながら言う。
「ですね。それにここで考える事でもないでしょう。
エルヴィス領に帰ってから考えましょうか。
とりあえず明日はステノ工房がある辺りを見てみましょう。
さて・・・寝ますか。」
「はい。」
皆が寝る為の準備を始めるのだった。
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