第381話 31日目 越境に関しての裏ワザと引き抜きの基準。魔王国からの通達。
「何か問題でも?」
武雄は対面している兵士に真顔で言う。
「いえ・・・キタミザト殿には問題はございませんが・・・その・・・妖精は初めてでして。」
対応している兵士が冷や汗をかきながら言い訳をしている。
「貴国の首都までは行きません。
先ほども説明をしましたが、私は祖父用の剣や防具を新調及び送付をお願いしに行きたいのです。
アズパール王国所属の領主であるエルヴィス伯爵様にも許可を頂いています。」
「はい、それは越境許可書で確認させて頂いております。
ですが妖精はこの国では本の中だけの物で実在は初めてなのです。」
「それは貴国が魔王国から遠いからでしょう?
それとも貴国の法律では妖精の入国は認めないとされているのですか?」
「いえ、カトランダ帝国の法律でそのような規定はございません。
また、我が国と貴国との条約によりキタミザト殿のお持ちしている上位の越境許可書があれば越境人数にも制限はございません。」
「なら良いではないですか。
昔から私の一家を主と慕い私達の家族の一員であるミアを置いていくなんてできません。」
「ですが・・・その大丈夫なのでしょうか。」
「一応、アズパール王国の王都で王家の方の見分をお願いして実施頂いています。
その際も同様の質疑応答がありましたが、結果問題ないとされました。」
「そうですか・・・わかりました。
入国を許可いたします。」
兵士が悩みながら頷く。
「はい、ありがとうございます。
そう言えば・・・一つお聞きしたいのですが。」
「はい、何でしょうか・・・」
「今回の剣や防具の新調をお願いした場合、貴国の職人を出国させないといけない可能性があります。
その際の手続きは何か必要でしょうか。」
「いえ、キタミザト殿の越境許可書は商隊用の下位越境許可書とは違い個人用の上位越境許可書になります。
我が国と貴国との条約に置いて上位越境許可書を持っている者が居れば職人の越境は可能です。
ただし、職人の越境には1か月間という期間がありますのでそれはお守りください。」
兵士は微妙な表情で武雄に返答をする。
「わかりました。」
武雄はその表情に少し違和感を覚えるが気にしていない風を装おう。
「はい、ではお通りください。」
武雄達一行は関を潜るのだった。
・・・
・・
・
「・・・無事に通過しましたね。」
関を通りかなり離れてからマイヤーが武雄に話しかけてくる。
「ええ。ミア、タマ。
一応、了承はとりましたが、私から離れてはダメですよ?
お腹が空いたらまずは私に言いなさい。」
「はい、主。」
「ニャ。」
と、チビッ子達が返事をする。
「・・・ちょっと待ってください。
今、タマ殿はミア殿の通訳なしで答えましたよね・・・
もしかしてタマ殿は人間の言葉はわかるのですか?」
「・・・確かに。
ミア、確認して貰えますか?」
「・・・はい。
にゃ?」
「ニャ!」
「それは早く言ってほしかったですね。
主、あの主もタマも人間の言葉はわかるそうです。」
「そうですか。
タマ、これからもよろしく。」
「ニャ。」
タマが頷くのだった。
「さてと、マイヤーさん。」
「はい、何でしょうか。」
「いえ・・・職人を越境させられる期間が1か月と言われていましたよ?
初めて聞いたのですけど。」
「あぁ・・・それはですね・・・
兵士の立場から言えばかなりグレーなんですよ。」
「ん?どういう事なんですか?」
「カトランダ帝国とアズパール王国との条約では越境した者は1か月以内に自国に戻らなければならないとされているのです。」
「はい。」
「ただし、命を落とした者は例外とされます。」
「当たり前です・・・死んだら帰れま・・・あぁ・・・なるほど。
だから名を変えさせるのですか。」
「はい。コレは貴族以外の越境・・・移民等の手段で使われています。」
「どちらも優秀な者は手に入れたいという事ですか。」
「ええ。なので貴族以外が越境する際は各関では諦め感があるらしいですよ。」
「なるほど。」
武雄が頷く。
「対策は何かしているのですか?」
「・・・特に優秀な方は貴族や騎士になっていたり王都に勤めているはずです。
それ以外については給与や待遇で対処しているはずです。」
「貴族と騎士については離脱不可でしたか?」
「はい。
貴族や騎士が無断で越境した場合や1か月以上越境している事が発覚した場合、向こうから要請があれば引き渡しをします。」
「なるほど。
こちらが越境させたいのであれば貴族かどうかを確認する必要があるのですね。」
「はい。貴族だと他の者と同じように死亡報告しただけでは終わらないのです。
相手国の調査が入ります。
それも無制限に近い調査が可能で国家としては貴族を引き抜いて変な所まで調べられるのは困るのです。
機密も見られてしまうかもしれませんので貴族の引き抜きはしない決まりになっています。」
「貴族になっている者のリストは各国が保管しているのですか?」
「はい。アズパール王国、ウィリプ連合国、カトランダ帝国、魔王国の4か国共に貴族のリストは持っています。
また爵位の授与と剥奪をした場合は即時各国に通達する決まりになっています。」
「なるほど。
逆に言うとそのリストに載っていない者は引き抜きをしても構わないとなっていると捉えて良いのですか?」
「ええ、構いません。
ですが貴族の家族を引き抜くとそれが理由で戦争になることもあり得ますからあまり得策ではないと思います。」
「確かにそういう発端になる可能性もあるのですね。」
「はい。なので引き抜く際は貴族であるか、もしくは貴族の家族なのかを調べてから引き抜かれる事をお勧めします。
特に今回はキタミザト卿は引き抜きをしにいきますから注意してください。」
「わかりました、頭の隅に入れておきます。」
武雄は頷くのだった。
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エルヴィス爺さんはフレデリックと自身の書斎に居た。
机に読み終えた書簡を置いて思案している。
「はぁ・・・」
何気にため息を漏らしてしまう。
「・・・何かあったので?」
「うむ、魔王国からの正式な通告書なのじゃが・・・
『ファロン伯爵家の爵位剥奪とファロン子爵家の創設がされた』との事じゃ。」
「向こうの商人からの報告の裏付けがきましたね。
同族に継がせたと見るべきでしょう。」
「うむ、意外と早かったの。
だが・・・伯爵が居なくなったか・・・」
「お会いした事はなかったはずですが?」
フレデリックが聞いてくる。
「ないがの。
フレッドには悪いが、わしとファロン伯爵は互いに戦に対してはあまりやる気がなかったのは確かじゃな。
関での商隊の荷物検査も厳しくはしていなかったしの。」
「エルヴィス領と相手の関での荷物検査が緩いのは知っていましたが・・・そこまでわかりますか?」
「長年隣同士だからの。わしよりもかなりの高齢のはずじゃ。
まぁ確か獣人だから寿命がかなり長いからのぉ。
わしが生まれるよりも前から爵位を持っていたかもしれぬの。」
「そうですか。」
「うむ、一度お茶でもしたかったの。」
エルヴィス爺さんが寂しそうに呟く。
「王都には報告をどうしましょうか?」
「この書簡と先の商人からの報告書の両方を陛下とアリスに送ってくれるかの。
あと書簡の内容をフレッドとロバートに送ってくれ。」
「畏まりました。
早急に伝令を送ります。」
「うむ。」
エルヴィス爺さんが頷くとフレデリックが退出して行った。
一人残ったエルヴィス爺さんは窓の外を見ながらため息を再度つくのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。