第378話 30日目 アズパール王国側の関を通過。エルヴィス家とカトランダ帝国での話。
今日は関を越えるという事で朝早く出て一気にアズパール側の関に来ていた。
と、着くと同時に鐘が鳴っているのがわかる。
「6時課の鐘ですね。」
マイヤーが呟き、武雄は腕時計を見て確認する。
12時を1、2分過ぎていた。
「マイヤーさんの行程的には早く着きすぎでしたか?」
「はい。関に9時課の鐘が鳴る頃に到着してそのままここで1泊して、明日の早朝に関を出て向こうの関に6時課の鐘くらいについて晩課の鐘辺りで向こうの村に着く予定を考えていました。」
「ふむ・・・どうしますこのまま1泊しますか?
関と関の間で1泊しますか?」
「キタミザト殿にお任せします。」
「そうですか。
ちなみに関には宿があるのですか?」
「はい。湯あみ場はないですが、素泊まりは出来ますし、簡易的な食糧も売っています。
干し肉とパンくらいですけども。」
「んー・・・今日は関と関の間で野宿しますか。
のんびりと行きたいですからね。」
「わかりました。では、越境の受付をしましょう。」
武雄達一行は関の横の詰め所に入って行くのだった。
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エルヴィス家の食堂でエルヴィス爺さんとスミス、フレデリックが昼食後のティータイムを楽しんでいる。
「今日の昼食も絶品だったのぉ。」
とエルヴィス爺さんは言い、スミスとフレデリックも頷く。
「何日かに1回ピザが出てくると楽しいの。
毎回具材を変えているし、それにプリンとバターサンドも3日に1回出される・・・あぁ幸せじゃのぉ。」
エルヴィス爺さんが満面の笑みを作る。
と、食堂の扉がノックされる。
エルヴィス爺さんが入室の許可を出すと執事が扉を開け入って来る。
「失礼します。王都より使者が参りました。
客間にてお持ち頂いております。」
「うむ、ご苦労じゃった。
広間でお聞きするかの。」
3人は広間に向かうのだった。
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武雄達一行はのんびりと進んでいる。
「それにしてもさっきの関のやり取りは面白かったですね。」
武雄が楽しそうに言ってくる。
「まぁ・・・まずはキタミザト殿の越境許可書を見ながら人数の確認でミア殿が現れて驚き。
私の持っている越境許可書に陛下のサインがあったのを見て驚き。
彼らには悪い事をしたかもしれませんね。」
「ええ、思い出して・・・笑いが止まりません。」
武雄はクスクス笑う。
「主、やはり私は珍しいのですね。」
ミアが首を傾げながら言ってくる。
「私ももう慣れましたが、やはり初見では驚きました。
王国内でも妖精は相当レアですからね。
それもキタミザト殿の・・・人間の部下になっているのですから驚きが倍増です。」
「マイヤー様、そういう物なのですね。」
マイヤーの説明を聞きミアは頷きを返す。
と、ミアが進行方向ではなく草原の彼方を見つめる。
「?・・・主。」
「ミア、どうしましたか?」
「んー・・・魔物がこっちに近づいてきます。」
「確か、ミアの認識範囲は200m~300mでしたね・・・
マイヤーさん、移動を止めましょう。」
「はい。即応しますか?」
「いや・・・止めましょう。
国境間の緩衝地帯での不用意な戦闘はするべきではないでしょう。
まずはどんな攻撃でも受け止められるようにしようかと。
私が前面にシールドをいつでも展開できるようにはします。」
「では私も攻撃を剣で受けれるように強化をしておきます。」
マイヤーが馬から降り、剣を鞘から抜く。
「お願いします。」
武雄も馬を降り、シールド×15枚ずつ 縦3列で発動出来ようにしておくのだった。
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エルヴィス家の客間にエルヴィス爺さんとスミス、フレデリックが居る。
王都からの使者には会ったのだが、軽く挨拶をして手紙と金貨60枚を置いて帰って行った。
「・・・」
エルヴィス爺さんは今2通目の手紙を読んでいる。
スミスもフレデリックもお茶を飲みながら待っている。
「・・・とりあえず、まぁ示談が成立したようじゃの。」
手紙をフレデリックに渡しながらエルヴィス爺さんが言う。
「ほぉ・・・
主に金貨60枚、アリスお嬢様に金貨40枚、タケオ様に金貨340枚ですか。」
「は!?タケオ様の金額が多すぎませんか?」
スミスが驚く。
「ふむ、まぁ総計の金額みたいじゃの。
王家と貴族会議そして第1皇子一家と第2騎士団からか・・・」
「そうですね。
王都側からの2人の評価がわかった気がしますが・・・
多い少ないではないですが、金貨400枚以上を即時支払える王都はやはり格上ですね。」
「うむ、そうじゃの。
うちのようにカツカツの貴族とは大違いじゃの。
そして2つ目の手紙に今回の件で王都勤めが新たに4家、領地持ちが1家、研究所所長が2家選出されると書いてあるな。」
「はい。
決定者として第1皇子推薦のバビントン卿が領地持ちに、第2皇子推薦のアルダーソン卿と第3皇子推薦のキタミザト卿が研究所所長になっていますね。
そしてウィリプ王国に面している貴族から1名、カトランダ帝国に面している貴族から1名、魔王国に面している貴族から2名を選定し、王都勤めをさせるとも書いてありますね。」
「うむ、まぁうちからはタケオが貴族になっているからの。王都勤めの候補には入っておらんだろう。」
「はい。」
フレデリックが手紙をスミスに渡す。
スミスは中身を読み始める。
「さて・・・この示談金をどう使うか・・・」
エルヴィス爺さんが自身の前に置かれた革袋を見ながら言う。
「お好きに使って構わないと思いますが?」
フレデリックが言う。
「そうか・・・ならタケオとアリスの噂をこっちから仕掛けるか。
どうせ王都の商隊辺りから皆に話が広まるのだろうからの。
先にこちらの住民に知らせておいて向こうがしたり顔で話をしても笑い飛ばせるくらいにしておこうかの。」
「はい、畏まりました。
では各組合長を招集しますか?」
「うむ。
皆にアリスとタケオの婚約とタケオの爵位授与と今回の顛末を説明するかの。」
「街の住民はどう思いますかね?」
「さて・・・わからぬの。
ただこの件を大事にしても我らにも王家にも利はないからの。
その辺を説明できればと思うの。
それと各町の局長以外の局長達も集めよ。
一緒に説明を受けて貰う。
まぁ2日程度で日程の調整をしてくれるかの。
皆の予定をいきなり変えるのも悪いからの。」
「はい、畏まりました。」
フレデリックが恭しく礼をする。
その一方でスミスは手紙を見ながら「新規の王都勤めの数が4家って・・・粛清をしたってことなのかな?」と訝しがるのだった。
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カトランダ帝国の皇城の一室にて。
「エリカ姉さん、本当に出ていくの?」
青年が同室内にいる旅支度をしている女性に聞く。
「ええ、チコの邪魔はしたくないからね。」
「別に邪魔だとは思ってはいないんだけど・・・」
「チコがそう思っても周りがそう思わないわよ。
それに・・・良い機会だしね。
父上には了承も取れたし、皇位の返上も終わったわ。
もう私は平民よ。」
「そう・・・姉さんの笑い声が聞こえなくなるのは寂しいね。」
「あら、嬉しい事を言ってくれるわ。
・・・巷ではチコの事を『鮮血の帝王』と言っているらしいわね。」
「まぁ兄さん達が立て続けに急死したしね。
そういう噂も出るだろうね。」
チコは飽き飽きしながら言う。
「こんな真面目な弟が兄を暗殺なんかするわけないのにね。
まぁ私の件も公表されるだろうから・・・さらに異名が轟いちゃうわね。」
エリカが苦笑する。
「言い訳しても勘繰る輩がいるから黙ってはいるけど・・・良い気はしないよね。」
「まぁ、そうよね。
そういった噂も歴代の皇帝を見るといろいろあったみたいね。
父上も就任直後はいろいろ言われたみたいだわ。
チコなら噂自体も上手く使えるでしょう?」
「・・・まぁ何とかしていくよ。
エリカ姉さん、コレは餞別だよ。
冒険者登録をするだろうからその際に振り込んでね。
あと越境許可書も渡しておくね。
エリカ姉さん、好きな所に行って好きな事をしてね。
今まで不幸続きなのだから・・・人生を楽しんでね。」
「ありがとう。
・・・まぁお金とかその辺はカサンドラに任せるわ。」
チコから封筒を2個受け取り自分の懐に入れる。
「じゃあ、姉さん・・・お元気で。」
「ええ。チコ、立派な皇帝になってね。」
女性が退出していった。
・・
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「はぁ・・・これで上の兄と姉は居なくなったか・・・
まぁ結果的にこれでやりやすくはなるか。
・・・姉さんが皇位の返上を言い出してくれて良かった。
と、そうだ魔法師組合長が来るんだったか・・・
何やら面白い物が出来たとか言っていたな。」
チコが窓の外を見ながら呟くのだった。
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