表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
383/3565

第375話 29日目 悩める女子生徒と部下たちの午後1。

武雄達は順調に旅路を行く。

「今日は国境の前の町で一泊でしたね?」

武雄がマイヤーに確認する。

「はい。それにしても本当に何も起きませんね。」

「そう毎回毎回ゴタゴタが起きたら・・・」

「起きたら?」

「陛下や伯爵たちの胃が大変な事になりそうですね。」

「確かに・・・ついでに対応する者の体がボロボロになりますよ。」

「まったくですね。」

「主、お腹が空きました!」

内ポケットのミアが空腹を訴えてくる。

「おや?もうそんな時間ですか。

 マイヤーさん、お昼にしましょう。」

「わかりました。

 もう少し開けたら取りましょうか。」

「はい。

 今日は昨日仕入れたソーセージをタマゴサンドに挟んでみました。

 小さい瓶にトマトソースも作りましたよ。」

「おぉ!それは期待できますね。」

「主の料理はいつも美味しいです!」

マイヤーとミアがお昼ご飯を楽しみにするのだった。


------------------------

「はぁ・・・タマゴサンドは美味しいですね。」

「きゅ。」

アリスとクゥはウィリアム達の書斎から戻って来て遅めの昼食をテラスで取っていた。

「それにしても・・・どの間取りを見ても私とタケオ様の部屋がないのが面白かったですね。」

「きゅ?」

クゥが首を捻る。

「あ、クゥちゃんは寝ていましたね。

 実はですね、両方の意見を朝聞きに行って間取りを見せて貰ったら、ベッドルームや書斎よりもまずは来客用の寝室の数が不足していたのですよ。」

「きゅ?」

「ふふ。

 うちは地方貴族だから来客用の部屋は少なくて良いのですけど。

 ウィリアム殿下の所は来るのが当たり前なはずなのにテンプル伯爵、ゴドウィン伯爵、お爺さま、3伯爵用にはあったのですけどね。

 私とタケオ様用にはなかったので文句を言ってきました。

 そしたら・・・『ごめん、自分たちの事しか考えてなかったわ』『アリス達を蔑ろにしたわけではないわよ?』とアルマお姉様もレイラお姉様も平謝りでね。

 ウィリアム殿下に至っては『まったく・・・4貴族が来ることが想定できるからすぐに間取りを根本から作り直そう』と言ってね。」

アリスはクスクス笑う。

「きゅ?」

「んー・・・当面のイザコザは遠のいた感じですね。

 まぁ・・・次の間取りが来たら違う事を言ってみますかね。」

「・・・きゅ。」

クゥはため息を付きながら頷く。

と、クゥの所に小鳥がやって来る。

クゥの周りをチチチッと鳴きながら回っていたがクゥが軽く鳴くと飛び去って行く。

「あら?クゥちゃんは小鳥とも話せるの?」

「きゅ。」

クゥは頷くのだった。


------------------------

「・・・どうしよう。」

ジーニーは一人になるとそんな呟きを何日も繰り返している。

各領地や兵士への求人票が発表されるまで1週間を切った。

今日からはもう卒業に向け自習続きになっている。

ジーニーは食が進まないまま昼食を目の前にして悶々としていた。


王都守備隊と同格・・・つまりは王都の文官と武官がいる組織から外れた陛下直轄の特務機関なのだ。

それを王家の方やベテラン貴族ではなく新人貴族が任される。

それだけでもキタミザト卿が王家から信頼されているとわかる。

お母さんからの手紙だと毎日キタミザト卿はアリス様と楽しそうに街中を散策しては色んなものをみて商売のアドバイスをしたりと私欲では動いていないらしい。

それに先の戦闘では何一つ自分の業績を誇ってもいないとの事だ。

人としても施政者としても立派な方なのだろう。


アリス様の婚約者であり、先のゴブリン等の襲撃には指揮官として参戦し被害0という常人ではなし得ない偉業を成し遂げ、街を救ってくれたのだ。そんな方からオファーを貰う。

本来なら即答でお受けしないといけない事なのだとは思う。

普通に考えれば王都守備隊と同格組織に、どんなに優秀でも学院卒業したての新人は入れない。

王都守備隊と同格の組織に入ったとお母さんや妹達が知れば喜んでくれるだろう。

お父さんにも良い報告が出来る。

アリス様もキタミザト卿も私達全員を採用するために何とかしようとしているのはわかる。

キタミザト卿に至っては、使えるかもわからない新人を採用するという非常手段を使ってくれている。

私達全員を採用する。領民を大切に思ってくれている。

それは十分にわかっているのだ。

だが・・・「魔法適性の消滅の可能性」が頭を掠める。

受諾するかどうか決めないと・・・私が断れば次はケイが同じことを悩まないといけない。

ここ数日同じ事を考えそして結論が出せないでいる。

私ばっかりが考えていてもいられない。

断るなら断る、受けるなら受ける・・・答えを出さないと・・・

「学院長に話を聞いて貰おう。私一人で悩んでいても答えが出ない。」

ジーニーは席を立ち学院長室を目指すのだった。


------------------------

「なんで今日も来てるかね?」

学院長室に戻ってきたトレーシーが苦笑しながら言ってくる。

「いや・・・暇だからだな。」

アンダーセンがソファに座りながら読んでいた本から顔を上げて真顔で答えてくる。

「いやいや、引継ぎはどうしたのさ?」

「ん?分隊の副官に任せてきた。

 元々第三魔法分隊自体の引継ぎ事項なんてないんだよ。

 やることは皆が十分にわかっているしな。

 分隊長なんて命令を受諾して部下を動かす判断をするだけの役職だし。

 それに異動が決まった者が指揮を取ってもね・・・なので次の分隊長である副官に投げてきた。

 まぁ夕方にでも今日の報告を受ければ終わりだよ。」

「優秀な集団は楽そうだね。」

「お前はどうなのだ?」

「ん?学院長の後任かい?」

「あぁ、良い人材はいたのか?」

「王都守備隊から回して貰う事にしたよ。」

「王都守備隊から?」

「あぁ、第二情報分隊のベテランさんを学院長にして総監局の若手課長を副学院長にするんだって。」

「なるほどね。」

「そう言えば試験小隊の人事はどうしたんだい?」

「あぁ、こっちも4名全員の事前了承は取れたな。

 意外とベテラン勢が試験小隊に興味を示しているのがわかったな。

 それに俺の下に付くのも大して気にしていないそうだ。」

「ふーん、いろいろ思惑がありそうだね。」

「今日はご家族を説き伏せに行くと皆が言っていたな。」

「アンダーセンの所は反対はなかったかい?」

「うちは女房も息子もすぐに了承したね。

 息子に至ってはアリス殿の名前を出した瞬間に了承しやがった。

 嫁は『美味しい物があれば良いなぁ』と呑気なものだ。」

「はは、それにしても鮮紅のアリスの異名は凄いね。」

「まったくだな。

 トレーシーの所はどうだ?」

「うちは少し揉めたよ・・・」

「・・・異動がダメだったのか?」

「いや、異動自体は別に何とも思っていない。

 やりたいようにして構わないと言ってくれたんだけどね。」

「・・・何が問題なのだ?」

「地方都市・・・」

トレーシーがガックリとする。

「あぁ、奥さんは王都育ちなのか?」

「そうなんだよ。

 うちら夫婦は王都以外を知らないんだよね。」

「でも地方の村ではなく伯爵邸がある街なんだから不自由さはあまり感じないと思うけどな。」

「そう説明をしたんだけどね。

 王都以外は未開の辺境というイメージが拭えないらしい。」

「まぁ地方が題材の絵はそんな風景画ばかりだしなぁ。」

「それに妻曰く『2年前に魔物に襲撃されている』と言ってたね。」

「確かに魔物の襲撃を2年で2回も受けたのはあそこだけ・・・というよりも襲撃を受けること自体が異例なんだが・・・

 前はアリス殿の覚醒で凌いで、今回はキタミザト殿が知略で凌いだ・・・英傑が2人もいるな。

 で?どうやって説き伏せたんだ?」

「・・・どこに居ても襲撃の可能性はあるし、逆に言えばエルヴィス家は慣れているから平気だろうと。

 あと美味しい物が沢山あるかもとも。」

「・・・キタミザト殿に伝えた方が良いな。

 良いお店を紹介して貰わないと。」

「だな。」

アンダーセンとトレーシーは嫁対策を考えるのだった。



------------------------

「あれ?ジーニーちゃん?」

「ホントね。」

パメラとケイは図書室から一緒に戻って来る途中で自分達が歩いている廊下を横切ったジーニーを見つけたのだが・・・

「・・・何だか思い詰めてる顔をしていたよね。」

「そうね・・・後を追ってみましょうか。」

2人は少し距離を取りながら後を追うのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ