第374話 28日目 アリスの元に原作が。仕立て屋組合の考え。
「・・・順調ですね。」
マイヤーがクリフの邸がある街の入り口で呟く。
「?何を期待しているのです?」
武雄がマイヤーに向かって言う。
「期待はしていませんが・・・キタミザト殿は王都に来られる際にクゥ殿を連れてきましたからね。
今回の旅でも何か出てくるのか・・・緊張しております。」
「クゥはたまたまですよ?
私だって何も道中は起きて欲しくはないですが。」
「でしたら問題はないのですが・・・」
マイヤーは「本当に大丈夫だよね?」と不安を覚えながら街に入って行くのだった。
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「組合長、上手くいきましたね。」
「あぁ、ラルフやったな。」
ラルフ店長と組合長が手配した馬車を宿の前で待ちながら話し合っていた。
「とりあえず2件目の契約が出来そうですね。」
「殿下からの発注が来たか・・・
それに王都の仕立て屋10軒から20着ずつの依頼も取れたな。
ラルフ、キタミザト様に我々は付いて行くべきなのだろうな。」
「はい。私はそう思ったからこそ組合員を説き伏せているのです。
組合長は最初は統合に反対と言っていましたものね。」
ラルフ店長が苦笑する。
「本心では面白そうとは思ったんだが。
トップはまず否定からするもの・・・そう思っているのは確かだな。
それに私達組合のトップ2人が両方とも最初から了承していたら反対派の組合員が面倒を起こしそうだからな。
まぁトレンチコート自体は皆が認めているから杞憂と言えば杞憂だったが。
・・・妥協案で皆の工場を作るという案が出せたのは良かったな。
あれで反対派がこちら側に妥協をしだしたからな。」
「はい・・・さて、一度帰ってキタミザト様の授与式用の礼服を作らないといけませんね。」
「あぁ。それに工場の立地について伯爵様と話をしないといけないだろう。」
「キタミザト様がもう手を打っていそうですが。」
「あぁ、それも含めての打ち合わせだな。」
「はい。」
と、馬車が宿の前に到着する。
ラルフ達の王都での打ち合わせが終わるのだった。
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「きゅ・・・」
「今日もダメでしたね。」
アリスとクゥが自室の机に突っ伏しながら呟く。
本屋で買った美味しい物マップを元に昨日、今日とスイーツ店に行ってみたのだが・・・
「はぁ・・・どうしてタケオ様と同様な味がないのでしょうね?」
「きゅ?」
2人して不満足で王城に帰ってきていた。
「んー・・・スイーツは諦めて肉料理を食べに行ってみるしかないですかね・・・」
「きゅ~・・・」
アリスの言葉にクゥが頭を捻る。
と、部屋の扉がノックされ、アリスが「どうぞ」と返事をするとレイラが入って来る。
「アリス、クゥ殿、おかえりなさい。
・・・ん?何その不満顔は?」
「昨日と今日で本に載っているスイーツ店に行ってみたのですが・・・
あまり美味しくなかったです。」
「きゅ。」
クゥも頷く。
「え?・・・ちょっとその本を見せてみて。」
レイラはアリスから渡された美味しい物マップを見てみる。
「どれも超が付くほど有名店ばかりね。
どれに行ったの?」
「おすすめ4位と6位です。」
「ふむふむ・・・これ2つとも食べた事あるわよ。
美味しいと思ったけど・・・ダメだった?」
「タケオ様の料理に追い付いていません。
味が呆気ないです。」
「きゅ。」
レイラの問いかけにアリスもクゥも不満タラタラだ。
「・・・それは比べる所がおかしいわよ。
私達王城の中では、タケオさんの料理は料理界の頂点に君臨していると思ってるわよ?」
「そうなのでしょうか?
タケオ様は簡単そうに作っていますけど?」
「そこがまずおかしいわよね。
アリス・・・ちゃんと街中の味も確認しなさいよ?
タケオさんの料理ばっかり食べていると街中で食事が出来なくなるわよ。」
「そうなのですか・・・気を付けます。」
「・・・ちょっと不思議に思ったのだけど。
アリス、旅の間の食事はどうしていたの?
干し肉とパンだった?」
「はい、そうですよ。
毎食タケオ様が作ってくれていましたけど?」
「・・・マヨネーズ?」
「はい、毎食美味しかったですよ。」
「・・・タケオさんに感謝ね。
あの味気ない料理を美味しく頂けるようにしてくれているなんて・・・
マヨネーズは瓶詰にして売り出そうかしら。」
「それは良いですね!」
「タケオさんが王城に戻ってきたら話し合ってみましょうか。」
「はい。」
「と、そうだ。
用向きが違ったわ。」
「はい。レイラお姉様、何でしょう?」
「実はね、例の童話第2弾の原案の執筆が終わったのよ。」
「早かったですね。」
「ええ、さっさと書いたしね。
で、その原案をアリスに読んで欲しいのよ。」
「自分で自分の伝記物を読むのですか?イヤです。」
「あら?どうして?」
「恥ずかしいですよ。なのでこの間の本も中身は読んでいません。」
「あら?そうなの?
タケオさんも読んでいないの?」
「タケオ様は読んでいましたけど・・・面白そうに読んでいましたね。
私は読みませんよ。」
「ふむ・・・じゃあアリスに読ませなくても良いかな・・・」
「突拍子もないことは書いてはいないのですよね?」
「ええ、多少の脚色はしたけど・・・元々が突拍子もないことなんだけどね。」
レイラが「んー・・・」と明後日の方を見ながら答える。
「・・・置いて行ってください。
気になったら読みますから。」
「そう?じゃあ、気晴らしにでもどうぞ。」
レイラが1冊机に置く。
「レイラお姉様達は何をしているのですか?」
「領地異動の随行する文官と武官が決まったからね。
各幹部達が何が必要かを考えて各々が動いているんだけど。
ウィリアムは、その裁可をしているわ。
まぁ私とアルマお姉様は屋敷の間取りを決めているわよ。」
「決まりそうですか?」
「んー・・・大まかには決まっているのよ。
というより業者から何通りかの見取り図が来ていてね。
それの良し悪しを見ているんだけど・・・
アルマお姉様がベッドルームを広くしたいらしいのよ。
で、私はベッドルームよりも個々の書斎を大きくする事を提案中なの。
まったく・・・一日の大半を書斎で過ごすのに・・・」
「・・・どっちでも良いですね。」
アリスは呆れる。
「あら?アリスだったらどうするの?」
「私だったら?・・・タケオ様のおかげでお風呂に毎日浸かれますからね。
お風呂の拡張を提案しますね。
それに・・・今のお風呂だと私は足を伸ばして入れますが・・・タケオ様は足を伸ばせないでしょうからね。
タケオ様にも足を伸ばして入って欲しいですから。」
「あ・・・確かにね。
毎日浸かれるならそれも良いわよね。」
レイラがアリスの言葉に頷く。
「まぁ、レイラお姉様達の屋敷ですので納得するまで詰めてみれば良いのではないですか?」
「そうね。まぁどちらかに決めるか、全く別の案が出るのか・・・
もう少し話し合うわ。」
「それが良いでしょうね。
喧嘩しない程度にお願いします。」
「わかっているわよ。
あ、それと今日は2日に1回のプリンの日だからね。」
「わかりました。」
「きゅ。」
アリスとクゥが頷く。
「じゃあね。また来るわ。」
レイラが退出していった。
・・
・
「はぁ・・・レイラお姉様も意外と愚痴が溜まっていますね。
・・・これはアルマお姉様にも愚痴を言う機会を作りますかね。」
「きゅ?」
クゥが頭を捻る。
「ん?・・・あぁクゥちゃん的には不思議ですか?」
「きゅ。」
クゥが頷く。
「レイラお姉様はこれを届けにきましたけど・・・本当は間取りのやり取りでの愚痴を言いたかったのですよ。
で、レイラお姉様が愚痴を言いに来たという事は、反対のアルマお姉様も愚痴があるはずなのです。
居候させてもらっていますからね。
妃間で(お姉様たちが)喧嘩をする前に愚痴を聞いて上げようかと。」
「きゅ?」
クゥが首を傾げる。
「まぁ・・・ここのイザコザが巡り巡って貴族間の対立にもなりかねませんからね。
早い内に解決しておくのが良いと思います。
男性達なら殴り合って終わりという事をしそうですけど、女性達は陰でコソコソ噂話をしたりしますからね・・・
派閥を作る前にさっさとアルマお姉様とレイラお姉様の対立を解消しないと面倒です。
クゥちゃん的には『どうでも良い』という感じでしょうけど。」
アリスはため息交じりに言う。
「きゅ。」
クゥは頷く。
「はぁ・・・明日はお店巡りは中止してレイラお姉様達の屋敷の間取りを見に行ってみますか。
クゥちゃん、明日は寝ていて良いですよ。
私が抱えて動きますから。」
「・・・きゅ。」
アリスのため息を聞きながらクゥも明らかに面倒そうに返事をするのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。