第372話 27日目 武雄達お昼中と部下達の午後。
武雄達は街道脇に座り昼食を取っていた。
「さ、ミア、リンゴですよ~。」
「ありがとうございます、主。」
ミアは武雄が切り分けたリンゴを受け取り、もぐもぐと食べ始める。
「キタミザト殿、今日は野営なのですよね。」
マイヤーは武雄作成のサンドイッチを頬張りながら昼食を取っている。
「ええ、昨日の宿の後に軽く食材を買いに行って今日の夕飯を作りましたが・・・マイヤーさんが嫌なら宿にしますよ?」
「いえ、野営でも宿でもどちらでも良いのですが・・・
そうですか、昨日キタミザト殿の部屋からゴソゴソと音が漏れていましたので料理を作っていたのですね。
何をしているかと思っていました。
このサンドイッチは美味しいですね・・・何でしょうこの味は。」
「マヨネーズとハムと野菜です。
今日の夕飯は肉の塊を軽く焼いてある料理にしますからね。」
「主、あの美味しい肉を作っていたのですね?」
ミアが3つ目のリンゴを食べながら聞いてくる。
「ほぉ、ミア殿は食べたことがあるのですか?」
「はい!マイヤー様。
王都に行くときに主が作ってくれました。」
「はは。アリスお嬢様が干し肉の塩加減が強いと呟いていましたから1食ぐらいは塩が薄いのでも良いのかな?と作ったのです。」
「ほぉ、それは今日の夕飯が楽しみですね。
いつかはお店を作るのですか?」
マイヤーが楽しそうに言ってくる。
「ゆくゆくは私の知識でお店を作って貰っても良いですが・・・
今はエルヴィス邸のみの食事ですね。」
「はぁ・・・エルヴィス邸がある街は凄い事が起きそうですね。」
マイヤーが未来を想いながらサンドイッチを頬張るのだった。
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魔法師専門学院にて
「はぁ・・・で?何でアンダーセンがいるんだい?」
トレーシーが総監局の会議が終わり学院長室に帰って来て最初の一言がこれだった。
「おかえり。
・・・いや・・・居場所がなくてな・・・」
アンダーセンはソファに座り苦笑しながら答える。
「正式に通達はされていないんだから・・・自分の第三魔法分隊に居れば良いじゃないか。」
トレーシーはアンダーセンの向かい側に座りながら言ってくる。
「そうなんだが・・・今日はコレをしようと思ってな。」
アンダーセンはトレーシーに資料を見せる。
「リスト?・・・キタミザト卿から渡されたヤツかい?」
「元々はウィリアム殿下の異動に付いて行ける者の異動可能リストなんだが・・・
これを他の隊員の前では見られんからな。
だから同僚の所に来た。」
「まぁ良いや、今日は終わりみたいなものだし。
さてと・・・こっちは正式に総監局の会議で私の異動が他の幹部に連絡されたよ。
研究所への異動は来年3月の卒業式典の後になる予定だね。」
「そうか。何か言われたか?」
「いや、特にはないね。
元々4年前に突然異動してきたんだし、陛下や宰相そして局長が認めているからね。
誰も表立っては異議は出なかったね。
生え抜き達からは厄介払いが出来て良かったと思われているかもね。」
「後任は決まったのか?」
「全然・・・まぁ何案かあるみたいだけど、これから決めるんだってさ。
うちの学院長になるには魔法師の経験も必要だからね。
ただ総監局内にいる魔法師出身者は少ないからね・・・さて誰が後任になるのやら・・・」
「そういう意味ではお前が抜けるのは痛いな。」
「まぁね。王家専属魔法師部隊を辞める際に一番最初に引き取ると手を上げたのが総監局なんだよね。
どれだけ魔法師が居ないんだろうね。」
トレーシーが苦笑しながら言ってくる。
「そうだな、元々が少ないからな・・・
でもキタミザト殿の研究で変わるかもしれないな。」
「そうだね。魔法師の価値を高めつつ、同時に戦力を高める為の武具の研究だね。
正直な所、難しいとは思うけど・・・国内の魔法師の数が倍増できるわけではないからね。
キタミザト卿の考えは正しいと思う。
数が増やせないなら質で勝負させるのだろうね。」
「あぁ、小銃の話もあるからな。」
「そうだね・・・魔法師を真似る為の武器か・・・
昔から同じような考えはあるんだけどね。」
「実現はしていないな?」
「うん、魔法師組合がうるさくてね。まぁアズパール王国はそこまでうるさくはないか・・・
それに手立てが思いつかないんだよね。
魔法と言う便利な方法があるのに、それを一旦否定して兵器を作ることは魔法師達には難しいかもね。
かと言って魔法以外に遠距離の攻撃と言って思いつくのは弓矢だけど射程が50m・・・良くて100mぐらいだからね。
小銃の概念は良いとして、結果魔法師を狙い撃ちにすることも可能な兵器を作ってしまった。
キタミザト卿は魔法と剣の状況を変えたくないと言っていたね。
射程が400mかぁ・・・どうやって対抗しようかなぁ・・・」
トレーシーが頭を悩ませる。
「確か倍の魔力量をかければ倍の射程にはなると言っていたよな?」
「そうだね。で、魔力量を低減させられる魔法具をニール殿下方面の研究所で研究してもらうのだよね。」
「ああ、陛下が依頼してみようと仰っていたな。」
「あれはキタミザト卿の回避に聞こえたけどね。」
「そうか?限られた予算でアレもコレも作れないだろう?
正しい判断だと思うけどな。」
「そうかい?
・・・あれはリスクを回避したと見ているけどね。」
「なぜだ?」
「魔法を低減させる効果を持つ魔法具・・・明らかに試験小隊への負担が大きい。
もしかしたら事前に説明のあった魔法適性の消滅になり得るよ。
キタミザト卿はそのリスクを自分の試験小隊から遠ざけたと考えるけどね。
まぁ悪い判断じゃないよね。
自身のやることを明確に宣言してリスクは他に・・・所長としてちゃんと部下を想っているね。」
「しかし向こうの研究所がリスクを取ってしまうのだな。」
「どちらかがリスクを取るなら今回は向こうにお願いしただけだろうね。
次回はこっちの小隊がリスクを負うかもしれない。
それにキタミザト卿はたぶんあちらは相当時間がかかるだろうから近々の課題である小銃の攻撃から生存を高める方を最速で作り上げたいんだろうね。」
「なんだか腑に落ちないな。」
アンダーセンが「んー」と腕を組む。
「キタミザト卿も施政者という事だね。
部下である我々はキタミザト卿の要望をしっかりと形にする努力をすれば良いんだよ。」
「そういうものか・・・まぁ戻ってこられたら聞いてみよう。」
「そうだね。
と、武官の人事だったね?
決まったのかい?」
「とりあえず8名中・・・4名かな。」
「少ないね。」
「んー・・・ベテラン勢で俺の下についていただけそうな方は王都守備隊からまずは4名だな・・・」
「んー・・・?
あれ?王都守備隊のみ?」
「あぁ・・・うちと同格扱いだろう?
だとしたらベテランというだけで騎士団から取って良い物なのか・・・悩むな。」
「キタミザト卿は気にしないのではないかい?」
「気にしないだろうなぁ・・・だからこそこっちに投げてきたのだし・・・」
「まぁ、とりあえずその4名から事前面接をしてみたらどうだい?
採用の可否はキタミザト卿との最終面接で決まるのだろうから。」
「そうだな、そうするか・・・」
アンダーセンとトレーシーが頷きながら今後の予定を考えるのだった。
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