第36話 カフェでお茶をしよう。
雑貨屋を出るといつの間にかお昼は過ぎている様だった。
「アリスお嬢様、予約したカフェは入れますかね?」
「ええ。時間的には少し早いですが、席が空いていたら入れるかもしれませんね。」
「では、カフェでお昼とお茶にしましょうか。」
「はい、そうしましょう。」
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先ほどアリスが予約しに入った店に着いた。
「タケオ様、ここが美味しいカフェです。」
「わざわざ『美味しい』と付けるのですか?」
「はい、絶品です。」
中に入るとあまり人はいなかった。
「アリスお嬢様、いらっしゃいませ。」
店員であろう初老のおばさんが挨拶をする。
「予約より少し早いですが、良いかしら?」
「構いませんよ。」
とアリスと武雄を席まで案内する。
窓側の席に通される。
「頼んでいたものは、少し後にしますから、お昼用のメニューをいただけるかしら?」
席に着くとそうアリスは店員に伝え、店員が持っていたメニューを受け取り開く。
武雄にもメニューが渡される。
「どうも」と受け取り、中をみるが・・・
パンとサラダとパスタとワインだけだった・・・他にないの?
っと思うが、冷蔵庫はないのだろうからそんなものかと考えることにした。
「タケオ様は決まりましたか?」
「ええ。」
「では、私はこのサンドイッチを。」
「私もアリスお嬢様と同じもので。」
「畏まりました。」
と店員が厨房に向かう。
「・・・謀りましたね?」
アリスはジト目で見てくる。
「最初からアリスお嬢様と同じものにしようと思っていたので。」
武雄はにこやかに言う。
「言って頂ければタケオ様のを選んだのですが。」
「ん?私はアリスお嬢様と同じ物を食べたかったのですよ。」
「え?」
アリスは少し驚き、少し考えて・・・顔を赤らめる。
「タケオ様は、いつもそんなことをさらりと言うのですね。」
「心外ですね。お嬢様の前でしかしていないつもりですが?」
「私をからかっているのですね!」
と少し拗ねた顔をする。
「はいはい、怒らない怒らない。折角の美人が勿体ないですよ。」
「むぅ・・・」
アリスは更にジト目で抗議してくる。
武雄は、そんなアリスを無視して窓の外に目をやる。
「良い街だ」素直にそう思った。
街に来てまだ2日だが、活気があり人々には笑顔がある。
武雄がいた所は都市ではあったが、ここまで笑顔が溢れていなかった。
「タケオ様、この街はいかがですか?」
アリスは唐突に聞いてくる。
「良い街ですね。皆に笑顔があります。
まぁ・・・アリスお嬢様といるからというのもあるのでしょうが。」
「そうですね。
それに良い所しか見せていませんから。」
「でしょうね。
案内されたのは、表通りのメインストリートだけですからね。
今まで行ったお店は上位のお店・・・ですか?」
「ええ。接客、品揃え、技術、納期、プライド。どれも確かな店ばかりです。
ですが、そんな商店相手に商談をするのですから、タケオ様は商才があるのでしょうか?」
「ないでしょう。」
武雄はきっぱりと言う。
「私がしているのは、自分の知識を披露しているに過ぎません。
何か閃いたわけでもなく、作ったわけでもない。ただただ知っていただけですよ。」
「私は・・・いえ、私達はその知識に価値を見出しています。
こちらに来てまだ3日。それなのに実用性がある服の商談を1つこなしたことは異様ですよ。
普通ではできないでしょう。」
「ふふ。随分私を買ってくれていますね。
まぁ、あのコートは向こうの熱意が凄かったからですが。
・・・アリスお嬢様、私といて楽しいですか?」
「ええ!とっても!思いもよらない考えを示すのですもの。
これからも楽しませてくださいね。」
アリスは顔をキラキラさせながら言う。
「まったく、私の上司は部下に期待しすぎです。
・・・ですが、期待に応えられる様にユルユルとしていきますかね。」
「あら?早急ではなくて?」
アリスは苦笑いをする。
「はは。早急にしてしまうと私がアリスお嬢様を楽しむ時間がないですからね。
のんびりとしていきますよ。」
「?・・・それはどう」
アリスが問いかけようとした時、
「食事をお持ちしました。」
とアリスが注文した物がやってくる。
初日夜に食べたハムとトマトソースが挟まったパンが出てきた。
・・・これは軽食だとスタンダードな組み合わせなのだろうと武雄は思いながら食べる。
二人ともすぐに食べ終わってしまう。と、
「予約していた物をください。」
アリスは店員に注文をする。
とすぐに、マドレーヌを持った店員がやってくる。
「これがお勧めの一品です。」
とアリスが胸を張る。
・・・眼福ですな。
「では、と言いたいですが、この小瓶は何ですか?」
マドレーヌと一緒に小瓶が置かれていた。
「はちみつです。甘党の方はかけるみたいですが」
「私は、かけないでこのままいただきましょう。」
「はい。」
とアリスはフォークを上手く使い食べ始める。
アリスが食べたのを見てから武雄も手をつける。
「しっかりとしていますが、美味しいですね。」
「ですよね。」
とアリスはご満悦だ。
武雄は自分でも作れそうなお菓子を後で作ってみるかと思案するのだった。
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