第369話 王都の西の町に到着と仕立て屋組合との打ち合わせ後の話。
9時課の鐘が鳴る前に武雄とマイヤーは王都の西の町に着いており、高級宿屋に来たのだが・・・
「お客様申し訳ございませんが、当宿は本日は貸し切りになっており、一般の方のご宿泊が出来ません。」
受付の店員が深々と頭を下げる。
「あら?」
「キタミザト殿、すみません。
それにしても困りましたね。」
マイヤーが苦笑しながら謝って来る。
西の町に着いた際にマイヤーから「子供達が絶対行くべきと薦める宿があります」と言われここに来たのだが断られた。
「ん~・・・この宿の夕飯に出てくるスープが美味しいと聞いたのですけどね。」
「ありがとうございます。
最近、当宿が本に載ったとの事でお食事付きで泊まりに来ていただくお客様は増えております。
ですが、本日はどうしても一般の方はお泊め出来ないのです。
期待をしていらっしゃったのにお断りして申し訳ございません。」
店員が再び深々と頭を下げる。
「・・・ちなみに・・・貸切ったのは王都から来るとある高貴なご一家関係でしょうか?」
武雄が声を潜めて聞いてみると店員は一瞬驚くが何も言わずに頷く。
「では、しょうがないですね。」
武雄はマイヤーに言う。
「ですね、ソコと張り合ってはいけませんね。」
マイヤーもため息を付きながら言う。
「んー・・・ダメで元々なのですが、一応聞いても良いでしょうか。」
「はい、何でございましょうか。」
「宿泊は出来ないにしても夕飯だけいただくことは可能ですか?
例えば、宿泊される方の夕飯前の時間に食べられるとか。」
「そうですね・・・
宿泊されるご予定の方々の到着が晩課の鐘辺りになります。
ですので、それよりも前に食べ終わっていただけるとお約束いただけるのでしたら可能です。」
「わかりました。マイヤーさん。」
「はい。キタミザト殿、平気です。今食べましょう。」
マイヤーは武雄が聞く前に返事をする。
「申し訳ありませんが、今から良いでしょうか。」
「畏まりました。
実は最後の配膳練習を今しておりますのでその練習役としてご参加ください。」
「無理を言って申し訳ありません。」
武雄とマイヤーは頭を下げるのだった。
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王城内のカフェにてラルフ店長達とウィリアムがお茶をしている。
武雄が見たらクラシカルな喫茶店だと言いそうな雰囲気が醸し出されている。
「・・・話が上手くまとまり過ぎましたよね?」
職人がラルフに聞いてくる。
「やはりそう思いますか?組合長はどう思いますか?」
「ラルフさん達が思っていることと同じです。
ウィリアム殿下、ほぼこちら側の要求が通ってしまったのですが・・・
どういうことなのでしょうか。」
「そうですね・・・たぶんですけど良いでしょうか?」
「「「はい。」」」
ラルフ達が頷く。
「ここ3日程の間に王都に勤めていた貴族が25家から20家になりました。
それはいろいろな事情があってのことですが・・・少なくなったのは確かです。」
「え?25家から20家に???」
ラルフ達が驚く。
「ええ、タケオさんへの襲撃事件の事は聞きましたか?」
「はい。キタミザト様とアリスお嬢様から聞きました。」
ラルフが答える。組合長もラルフから聞いており頷く。
「その実行者の貴族2家が追放されています。
また2日前の爆発で3家が行方不明で爵位を剥奪されました。」
「「「・・・」」」
ラルフ達はじっと聞いている。
「王都の仕立て屋はどこかの貴族のお抱えがほとんどなのですが、一気に5家がいなくなったのです。
起死回生の商品が欲しくて仕方ない所に今回の話が舞い込んできたのです。
王都の組合員の顔を見ましたか?
表面ではむずがっていましたが・・・こちらからの要求を拒否しないで飲んでいたでしょう?」
「確かに・・・
こちらの想定通りに話が進み過ぎてしまって困惑したくらいです。
ですが、結果的には良い商談をさせていただきました。
キタミザト様との事前に話した内容のままで取引が開始出来そうです。
ウィリアム殿下、骨を折っていただきありがとうございます。」
ラルフ達は深々と頭を下げる。
「いえいえ、話を聞くだけで終わってしまいました。
何も苦労はしていませんよ。
それよりも組合長方・・・この機を逃してはいけません。
一気に契約を取ってこないと何を言い出すかわかりませんからね?」
「はい。その為に明日、もう一度席を設けて貰ったのです。
明日は契約書にサインをしてもらう運びとなると思います。」
「はい、それで良いでしょう。
父上も楽しみにしていますからね。」
「畏まりました。
それとですね、エルヴィス邸にご滞在中の採寸をした方のトレンチコートですが、発送を終えたと伝文がきました。
私どもの宿に一旦、届ける事になっているのですが・・・
今回キタミザト様のシャツを作ったあの店に納入する事でよろしいですか?」
「はい、それで結構です。」
ウィリアムが頷く。
「あ・・・そうだ。
大事な事を忘れていました。」
「はい、ウィリアム殿下。」
「僕達第3皇子一家は領地を拝領し異動することが決まりました。」
「「「は!?」」」
「つきましては、私の公領の兵士850名のトレンチコートを発注させていただきます。」
「「「え!?」」」
ラルフ達が口を開けたまま固まっている。
「ん?・・・驚きましたか?」
「ウ・・・ウィリアム殿下、おめでとうございます。」
「「おめでとうございます。」」
組合長の言葉にラルフや職人も深々と頭を下げる。
「いえいえ、今は人員を選定している段階なのですが・・・異動とはこんなにも大変なのですね。」
ウィリアムは苦笑を返す。
「ウィリアム殿下、公領の予定地はどこになるのでしょうか?」
ラルフ店長が聞いてくる。
「場所はエルヴィス領とゴドウィン領とテンプル領に面した場所です。
エルヴィス邸からだと・・・馬で3日くらいでしょうか。
まだ地理がはっきりわかっていないのでうろ覚えで申し訳ないですが。」
「近くに来られるのですね。」
「ええ、経済面でも付き合いを深めていきますよ。
まずはラルフ店長の所からですね。
一応1年後を目途に異動しますので詳しい納期を後日教えてください。」
「畏まりました。」
ラルフ店長が頭を下げるのだった。
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