第366話 早めのお昼と変な古文書。第2皇子一家と第3皇子夫婦の午後。
武雄は厨房へ明日用の干物等を物色しに行っている為、アリスとミアとクゥは先に戻って来ていた。
「んー・・・」
アリスは部屋に戻ってきてから悩んでいた。
「アリス様、どうされたのですか?」
「いえ、クゥちゃんとの意志疎通はどうやろうかと。」
「きゅ?」
クゥが首を傾げる。
「お腹が空いたとかあっちに行きたいとか・・・危ないとか?」
と部屋の扉がノックされ、アリスが「どうぞ」と返事をすると、武雄が食材が入った袋を持って入ってくる。
「ただいま戻りました。
昼食を持ってきましたよ。」
「タケオ様、お帰りなさい。」
アリスは笑顔で出迎える。
「料理長と話して、アリスお嬢様とクゥの為に2日に1回は夕飯時にプリンを出して貰えるようにしてきましたよ。」
「きゅ!」
「本当ですか!やりましたね、クゥちゃん!」
アリスとクゥは嬉しそうに抱き合う。
そんな様子をミアは「もう意志疎通出来ているのでは?」と呆れるのだった。
「それと今日の夕飯後は、アリスお嬢様は皇子妃達とお茶会らしいです。」
「タケオ様、私は何も聞いていませんが?」
アリスは「はて?」と首を傾げる。
「部屋に戻って来る時にレイラさん達に会いましてね。
伝えておいてと言われました。」
「タケオ様はどうされるのですか?」
「王城内でお酒が飲める場所があるそうで、私はウィリアムさんとそこで少し飲んできます。」
「明日は出立なのですから深酒はダメですからね?」
「わかっています。
ミアとクゥはアリスお嬢様の方に行きますか?
お菓子が出ると思いますよ?」
「わかりました、アリス様の方に行ってみます。」
「きゅ。」
チビッ子達が頷く。
武雄は持って来ていた昼食を配膳し始めるのだった。
・・
・
昼食も終わり、食器をメイドさん達に片付けて貰うと、アリスと武雄はのんびりとお茶をしていた。
チビッ子達はベッドに戻ってお昼寝です。
「・・・タケオ様、準備は良いのですか?」
「ええ。元々持ってきた物は少ないですし、後はさっき厨房から貰って来た干物を入れるだけですね。
マイヤーさんとの昼食は明日用意して貰えるそうですので、もうやることはないですよ。」
「そうですか・・・暇ですね。」
「暇ぐらいが丁度良いのですよ。」
と武雄が配膳の際に空いている席に置いていた2冊の本を机に置く。
「?これはなんですか?」
「レイラさん達から渡された物です。
『読めますか?』との事で・・・よく考えればレイラさん達もメガネを作っているのですから、私に渡さなくても良いと思うんですよね。」
武雄は苦笑しながら言ってくる。
「そうですね。
でもメガネって出来てからまだ20年くらいですからね。
あまりかける習慣もないでしょうし。
『わからない本はタケオ様に読んで貰えば良いのでは?』と気軽に考えたのではないですかね?」
「まぁ・・・そうでしょうね。」
と武雄はメガネをかけずに読み始める。
「え!?タケオ様、メガネをかけないのですか?」
アリスは驚く。
「ええ、読めますからね。
コレ、私が居た所の本ですよ。」
武雄はしれっと答える。
「私も見てみたいです!」
とアリスはメガネを取り出し、武雄が読んでいない方の本を見てみるのだった。
・・
・
「んー・・・寄宿舎の話でしょうか・・・」
アリスは悩みながら武雄に聞いてくる。
「まぁ、そんなものですね。
小説ですかね・・・内容的には恋愛物で・・・
『初恋 ○○高校演劇部(3)』と書いてありますね。」
武雄はアリスが読んでいた本の表紙の題を見ながら言う。
「むぅ・・・いきなり話が始まっています。
それにわからない単語が多いです。」
「そうでしょうね。それは3巻目なので1巻、2巻があるのでしょう。」
「最初から読みたいです。
どこかにありますかね?」
「さて・・・レイラさん達からは『宝物庫で見つけた』と言われましたが・・・
それにしても相当放置されていたのですかね・・・紙が捲っただけで切れそうです。」
武雄は慎重に捲る。
「タケオ様が読んでいるのも童話なのですか?」
「違いますよ。
私のは『物理Ⅰ』という本です。
ただ・・・欠落していますね。
途中までしかありません。」
「ちゃんと冊子になっていますよ?
欠落があるのですか?」
「ええ。コレは何章にもなっているはずなのに・・・1章分しかないですね。
誰かが意図して分割したのか・・・こればっかりはわかりませんね。
トレーシーさん辺りに教えれば変な物を考えそうですが・・・」
「タケオ様の言い方からして・・・使えそうなのですか?」
「使えますよ。物理の基礎ですからね。
この計算式を使っていけば、試作前に防具の推理が出来るようになるでしょうね。」
「へぇ~・・・
よくわかりません。」
アリスは難しい顔をする。
「まぁこの本を使えば直ぐに何か作れるわけではないですね。
発想を物に出来る人達が見て初めて価値が出ます。」
「そうなのですね。」
「ええ。この本を写させてもらえるか聞いてみましょうかね。」
武雄は思案しながらお茶をすするのだった。
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「皆さまお疲れ様です。」
ストーニーが皆を労う。
ウィリアム、アルマ、レイラが自身の机で腕を組みながら頷く。
ここはウィリアム達の執務室。
先に決めていた他の武官や文官達は、今面接した者達と別室で打ち合わせの為に退出している。
「ストーニー騎士団長、とりあえず連れて行ける幹部はこれでOKかな?」
ウィリアムが聞く。
「はい、ウィリアム殿下。
全員が元々異動が可能な者でしたし、殿下が即決で役職も通達したことで覚悟をその場でしたようでした。
武官側としては、現在向こうにいる兵士や、合流してくる兵士達との擦り合わせも必要ですが、そちらは私達が後程行います。
文官も多分同じでしょうが・・・あとでお聞きした方が宜しいでしょう。」
「そうですか。
では、後で総監局長と総務局長にこれからの予定と決めなくてはいけないことを確認します。」
「はい。では、私も向こうの会議に出席してきます。
総監局長と総務局長には少し時間を置いてからこちらに来るように伝言をしておきます。」
「はい、わかりました。
ストーニー騎士団長、これからよろしく。」
ウィリアムはにこやかに頷く。
「は!
では!これにて!」
とストーニーが退出していった。
・・
・
「はぁ・・・終わったね。」
ウィリアムは書斎で椅子の背もたれに寄っ掛かりグッタリとする。
「頭痛い・・・面接って面倒ですね。」
「まったくね・・・」
レイラとアルマは机に突っ伏しながら答える。
「はは、当分の間この状態が続くのかな?」
ウィリアムが苦笑しながら2人をみるのだった。
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第2皇子一家の寝室にて。
「お母様♪」
「はい。クリナ、何ですか?」
「えへへ♪」
リネットにクリナが抱き着いている。
「良かった・・・クリナがむずがったらどうしようかと思った・・・」
ニールは2人の様子を見ながら安堵のため息を漏らす。
「お母様。」
「はい。エイミー殿下、何でしょうか。」
リネットは顔を引き締めながら聞き返す。
「・・・なんでクリナは名で呼べるのに私には『殿下』付きなのですか!」
エイミーがジト目で抗議をする。
「む・・・無理です!今まで『殿下』で呼んでいたのです。
今さら名で呼ぶなんて出来ません!!」
リネットが泣きそうになりながら言ってくる。
「それはクリナもそうでしょう?
そっちはすんなり言っているのに・・・なんで?」
エイミーが額に手を当てながら考える。
「まぁリネットは、エイミーの護衛兵だったからなぁ。」
ニールはシミジミと言いながらお茶を飲んでいる。
「父上。」
「どうした?クリナ。」
「弟はいつ出来るのですか?」
クリナの発言に室内が固まる。
「・・・ん~?誰にそう言われたのかな?」
ニールは若干顔を引きつらせながら聞く。
「昨日の夜、父上の所に行こうとしたらエイミーお姉様が『今夜は父上とリネット・・・お母様が弟が出来るお祈りをしているから行ってはダメ』と言っていたので。
父上?弟は出来ないのですか?」
「んー・・・もう少しお祈りが必要かな?」
「そうなのですか・・・早く弟が欲しいです!」
クリナが失望と希望の合わさった顔をニールに向ける。
ニールは朗らかな顔をクリナに向ける。
「で?エイミー・・・言いたいことはあるか?」
その顔のままニールはエイミーに顔を向ける。
「いえ、ありませんね。」
エイミーは平然と答える。
「ほぉ・・・ないか。
だが・・・エイミーは、こう言った画策をするような子ではないとは思う・・・誰が決めたのだ?」
「妃会議ですけど。」
「あぁ・・・義姉上達か。押し切られたな。」
「父上にわかっていただきありがたいです。
ですが、父上が側室をいつまでたっても入れないことが原因です。
今回は良い機会でしたので、私からリネットにお願いをしました。
リネットは元々側室候補に入っていましたから良い機会でした。
それに大元は、パットの次の後継を擁立する為にクリフ伯父上に側室を入れる話の延長線上なのです。」
「クリフ兄上に側室か・・・義姉上達は苦渋の決断をしたな。」
「はい。その決断の後にアリス様からタケオさんが・・・その・・・男性の・・・を元気にさせるキノコを買ったとの報告があったので、ローナお姉様もセリーナお姉様もレイラお姉様も乗り気に。」
「・・・物凄くその時の光景がわかってしまうな。
まぁ・・・結果的には良い方向にいった。
エイミー、心配をかけたな。」
ニールが苦笑する。
「うぅ・・・父上、騙したことすみません。」
エイミーは涙目になりながら謝る。
「いい、いい。
俺も決めなかった事で先延ばしにしていたからな。
エイミーが動いてくれて良かった。
文官や貴族達に相談していたらもっと面倒だったさ。
リネット、これからよろしくな。」
「はい、ニール殿下。」
「ん~・・・俺にも『殿下』付きなのか?
まぁおいおい慣れていって貰えればいいか。
リネット、エイミー、クリナ、俺たちはもう家族だからな?」
「「「はい。」」」
3人の返事にニールは嬉しそうにするのだった。
「あ、そうだ。リネット。」
「何でしょうか?ニールで・・・」
「無理に変える必要はないぞ?
それよりも来年春からの寄宿舎なんだがな。」
ニールがエイミーに反撃を開始するのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。