第364話 人事と武雄達の裏の打ち合わせ1
アズパール王の書斎にて。
アズパール王と王都守備隊総長とマイヤーとアンダーセン。
オルコットと総監局長とトレーシーが居た。
王家一同は今は小広間にてお茶会中。
「うむ、タケオは受け入れたのだな?」
「はい、即決で採用を決められました。」
トレーシーがアズパール王に言う。
「オルコット宰相、キタミザト殿が給料面で悩まれておりました。
平均給料とはどのくらいでしょうと我々に聞いていましたよ?」
マイヤーが苦笑する。
「研究所の運営費金貨1750枚内での研究費と人件費の配分は所長の権限ですからお好きに決めて良いのですが・・・
試算を研究所の設立要件に記載しておきましょう。」
オルコットが頷く。
「3人とも給料面では納得したのか?」
「はい、3名とも不満はありません。
こちらがキタミザト殿から預かった武官リストとキタミザト殿の組織表と給料表です。」
アンダーセンがアズパール王に書類を渡す。
「マイヤーが総監、アンダーセンが小隊長、トレーシーが研究室長か。」
「「「はい。」」」
「ふむ・・・なるほどな。
他には何か言っておったか?」
「明日から20日程度カトランダ帝国に視察に向かうので私とアンダーセンには武官8名の選定を、トレーシーには研究資料を探す事を依頼をしておりました。」
「8名?あと20名の採用枠があるはずですが?」
オルコットが不思議そうに聞き返す。
「キタミザト殿は初年度からいきなり20名を採用せず、まずは10名程度を採用し、残り10名は2、3年かけて順々に採用すると。
上限人数を今年採用してしまうと来年以降で欲しい人材がいた場合、採用できないのを防ぎたいと申しておりました。」
「なるほどな・・・確かにこっちの事情としても試験小隊だけでも2小隊分の兵士が抜け、さらにウィリアム関係でも抜けてしまうと王都の人材が不足してしまうな。」
アズパール王は腕を組ながら呟く。
「それにキタミザト殿の考えでは、軍服や試作装置、資料等を余った10名分で買い揃えるとのことです。」
「ふむ。オルコット、タケオの考えも間違ってはいないな。」
「はい。2、3年程度で試験小隊20名が揃えられるのでしたら問題はないかと思われます。
それにキタミザト卿の言ももっともですね。
ただ人数を集めても意味がないですので、所長の判断としてはしっかりとした考えだと思います。」
「うむ、そうだな。」
「総監局長、キタミザト卿から魔法師専門学院の学院長の任期はいつまでになるのかの確認をするように言われています。」
トレーシーが総監局長に聞いてくる。
「陛下、私達は言われていませんが、キタミザト殿は私達にも言ったと認識しています。」
「ん?どういう事だ?」
「はい。キタミザト殿的にはエルヴィス領での準備が全く手つかずなので、いきなり来られても意味がないのでもう少しこちらで働いた方が良いと言っておりました。」
「そうだなぁ・・・内示が出ている段階でもう今の仕事はしなくても良いのだが・・・
トレーシーは学院長だからその後任人事や引継ぎもあるだろう。
マイヤーやアンダーセンも隊長だからその後任選びと引継ぎがあるな。
王都守備隊総長、総監局長、日程的に無理の無いように調整してくれ。」
「「は!」」
2人は頷く。
「3人とも今まで王都勤めご苦労だった。
これからはタケオの下で力を発揮しろ。
通達については正式にはタケオの爵位授与後に出す運びとなるだろう。
それまでは兼務とする。」
「「「は!」」」
マイヤーとアンダーセン、トレーシーが返事をする。
「と、話は以上だな。
・・・マイヤーとアンダーセン、トレーシーはこの場に残れ。少し雑談をしよう。
他の者はご苦労だった。」
「「「は!」」」
王都守備隊総長と総監局長とオルコットが退出していった。
・・
・
「行ったか?」
アズパール王が3人が退出して行って少し経ってから呟く。
「はい、陛下。」
アンダーセンが答える。
「マイヤー、アンダーセン、第3皇子夫妻とタケオ達一行を呼んできてくれ。
内々の話をする。」
「「は!」」
マイヤーとアンダーセンが退出して行く。
「トレーシー、済まぬが隣の部屋から人数分の椅子を持って来てくれ。」
「畏まりました。」
トレーシーは皆が来る準備をするのだった。
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アズパール王の書斎にて。
アズパール王と第3皇子夫婦と武雄達一行とマイヤー達が揃った。
「皆集まったな。いきなりすまぬな。」
全員が頷く。
「さてと。タケオ、この3名の採用は確実なのだな?」
「はい。ご本人達やそのご家族が拒否されない限りは採用いたします。」
「うむ。マイヤー、アンダーセン、トレーシー。
3人とも本当にタケオの下で働く覚悟はあるのだな?」
「「「はい!」」」
「うむ、そうか。
タケオ、お主の出自とこの研究所の根本の話をしてくれるか?」
「・・・する必要があるのでしょうか?」
武雄は首を傾げながら聞き返す。
「あるな。
少なくともお主の研究所の幹部3名にはお主の出自は知ってもらわないと今後の行動が怪しまれるぞ?」
アズパール王が苦笑しながら言い、ウィリアム達も苦笑している。
「そうですか・・・では、まず私のことからですね。」
武雄は自身の出自の話をし始めるのだった。
・・・
・・
・
「「「んー・・・」」」
マイヤー、アンダーセン、トレーシーが考え込んでいる。
「陛下、やっぱり突拍子もない事なのですね。
信じて貰えないようです・・・」
武雄は自身の出自と小銃の大まかな歴史、そして小銃の開発者の考察を話していた。
「うむ、だろうな。
我はタケオの改造小銃の威力を目の当たりにしておるからな。
実感を持って聞いていられるが・・・3人はどうだろうな?」
「陛下、私もあの戦闘を見ていますからその話の信憑性は高いと判断できますが・・・
アンダーセンとトレーシーが問題です。」
マイヤーが苦笑しながら言う。
「僕やレイラも父上や第一近衛分隊長と同じ感想を持っているはずですけど・・・アルマは難しいかな?」
「私は・・・お義父さまやウィリアム達を信じるわよ。
タケオさんがこういう嘘を言う人ではないのも見ていればわかりますし。」
アルマは頷く。
「陛下、では研究所の本当の狙いは、キタミザト卿に小銃の研究をさせる事なのですか?」
トレーシーが聞いてくる。
「うむ、最初はそうだな。タケオはどう考えておる?」
「はい。
小銃も研究するという言い方が正しいと考えます。
お3方に話をした防具や戦術の研究もしますので研究する一題材みたいな物です。
それに先ほども言いましたが、誰でも魔法師と同等の武力を簡単に発揮できる武器を主力にする気はありません。
武器が流出すれば自分たちの首を絞めかねませんので。
ですが、近隣国でそんな兵器が誕生したのですから負けない為の防具の開発をいち早くする為の研究機関と考えていただければ良いかと思います。
なので、当分は武器ではなく防具の開発を中心にしたいと思っています。」
「そうだな、今の所はそういった方針で良いだろう。
タケオ、盾の目処は付いているのか?」
「フルプレートに使われている鉄板の厚さでは貫通しないことを確認していますので、同程度の厚さの鉄板を盾にする方法を考えています。
軽くて丈夫な盾が出来れば良いと思っています。」
「ふむ。
だが、盾のみだと少なからず犠牲は出てしまうな。
小銃自体はどうにもならんか?」
「そうですね。
小銃を無くす方法はありませんが、相手に装備されている小銃の価値を下げさせる方法はあります。」
「そんな方法があるのでしょうか?」
トレーシーが聞いてくる。
「私達が小銃を脅威だと思っている要因は2つ、魔法適性がない者が魔法と同様の攻撃を仕掛けられる事と魔法師の射程が200mに対して小銃の射程が400mあることで現在の戦法では対抗出来ない事です。
小銃を無くせないなら射程450m~500mで初撃を与えれば優位はなくなります。」
「それは出来るの?」
アルマが武雄に聞いてくる。
「アルマさん・・・私がこの前しましたよ?」
武雄は苦笑しながら言う。
「そうね、タケオさんがオーガを撃ったのが550mだったわね。
あの時は城門から600mと言われていたから報告書を見るまでずっと600mを砲撃したと思っていたわ。」
レイラが苦笑する。
「あ!」
アルマが思い出したように頷く。
「と、いう事はですね。
対抗兵器を私がいつの間にか作ってしまっていたのですよ。
試験運用も実地試験も終わっている代物がね。」
「ただし魔力量が150必要だったな。
そんなに魔力量を使うのならはっきり言って戦場で使い物にはならん。
ならタケオに盾を作って貰って近づいてから砲撃戦を開始した方がマシだな。
・・・マイヤー、タケオの小銃と同程度の威力がある魔法はなんだ?」
「はい。
そうですね・・・ファイアに魔力を80くらいかけた程度ですね。
ただし射程は200mです。それ以上は威力がかなり落ちるはずです。」
「ふむ。トレーシー、魔法師の射程を今の200mから450mにする方法はあるか?」
「はい・・・単純に言えば、倍の魔力量をかければ理論上は出来ます。
ただ400mを当てるイメージが大変そうですね。
それに倍の魔力量・・・今の魔法師の平均魔力量が確か2500~3000ですので撃てる回数が減ると思います。」
「そうか・・・タケオ。」
「陛下、消費魔力量を減らせるような魔法具を作れと?」
「うむ、出来るか?」
「さて・・・こればっかりは私の知識外ですので・・・
出来ればうち以外の研究所にお願いしたいですね。」
「そうなのか?」
「ええ、盾は軽量かつ高防御を実現したいですから。
その試作だけで相当費用がかかると思います。
そこに素材の研究もとなると・・・費用的に現状では出来ないです。」
「そうか・・・では、アルダーソンに依頼をしてみよう。」
「はい、お願いいたします。」
武雄はアズパール王に頭を下げる。
武雄は「他の研究所長はアルダーソンて言うのかぁ」と思うのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。