第357話 陛下の謝罪と示談の成立。
武雄とアリスが王城内の広間の扉前で緊張をしていた。
「アリスお嬢様、片膝をついて胸に手を当てるのでしたよね?」
「はい、そうなります。
椅子があった場合は椅子の手前で敬礼。
指示があれば椅子の横に移動・・・後はなるようにしかなりません。」
アリスも若干、緊張気味だ。
「立ち位置と座るタイミングはこちらで軽く頷きますので見逃さないようにしてくだい。
よろしいでしょうか?」
先導した執事が苦笑しながら確認をしてくる。
「「はい。」」
2人は返事をする。
「では。」
広間の扉を執事がノックする。
中から「構わぬ。」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する。
「陛下、失礼いたします。
タケオ・キタミザト殿、アリス・ヘンリー・エルヴィス殿をお連れしました。」
「うむ、通してくれ。」
「「失礼します。」」
武雄とアリスも入室する。
アズパール王は座っており、3皇子とクラークとオルコットは立って出迎えていた。
執事が武雄達の前を先導して立ち位置まで連れて行く。
そして軽く武雄達に対して頷く。
と、武雄もアリスも片膝立になり胸に手を当て頭を垂れて最敬礼をする。
「陛下。
アリス・ヘンリー・エルヴィス、タケオ・キタミザト両名ご指示により参りました。」
アリスが武雄に代わり声を発する。
「うむ、2人とも急に呼び出してすまないな。
横の椅子に掛けてくれ。」
「「はい。」」
武雄とアリスが椅子の横に移動し立つと3皇子とクラーク議長、オルコットが座る。
と、執事が軽く武雄達に対して頷く。
武雄とアリスが席に着くのだった。
「さてと・・・いろいろ話したいがそれは後にしよう。
アリス、タケオ、2人とも王都に来てからの一連の騒動について苦労をかけたな。
この通り謝罪する。」
アズパール王が頭を下げる。
武雄もアリスも微動だにしないで見ている。
「で・・・だ。
オルコット。」
アズパール王が頭を上げ、オルコットを呼ぶ。
「はい、畏まりました。」
オルコットは席を立ち武雄とアリスに紙1枚を渡してから自身の席に戻る。
「では、今回の一連の事についてですが・・・
まず王城での第1皇子殿下の息子であるパット殿下がご迷惑をかけた件で第1皇子一家よりエルヴィス伯爵に金貨60枚、キタミザト殿とエルヴィス殿に金20枚をお支払いをする用意がございます。
またその後の慣例と称した襲撃事件ですが、キタミザト殿に対しては王家から金貨300枚、貴族会議から金20枚の計金貨320枚をお支払いをする用意がございます。」
「うむ。アリスにタケオ、王都より捻出した金額だ。
これを補償金として受け取ってほしい。」
アズパール王の話に武雄はオルコットを見る。
「キタミザト殿、何かございますか?」
「・・・今回の件を受けて今後はどう対応されるのかをご説明頂けますか?」
「畏まりました。
まずはパット殿下の処遇についてですが、現在、父親である第1皇子クリフ殿下に一任されております。
罰の内容はまだ未確定でありますが、王国追放等々の重罰ではないことは確かになっております。
何か要望はありますか?」
「・・・その件についてはわかりました。
では、次に平民への襲撃事件については今後どう対応されますか?」
武雄はオルコットの質問には答えず次の説明を求める。
「キタミザト殿を襲撃した実行犯及びその家族については処分をしました。
共犯や背景等については現在調査中ではありますが、他の貴族等の関与が発覚した場合は今回と同様な処分をするものと確約させて頂きます。
そして文官、武官、貴族に関係なく王城内で王家の許可なく無辜の民を傷つけた者には厳罰に処すことが決まっております。
王城内の変更点としては、今の受付をすれば終わりという行程ではなく、抜本的に城の入り口から受付そして客間ないし招待者への案内までの一連の行程を見直す事になりました。
また軍務局、警備局において兵士の教育方法を見直し、警備の仕方や王都の法律の熟知度を上げる努力をしていきます。
こちらにも何か要望はございますか?」
「・・・わかりました。
今後同様な事がないよう努めていただければ結構です。
王都の判断に異議を唱える気はございません。」
「私も王都の判断に異議を唱える気はございません。」
武雄とアリスが示談を受け入れる。
「うむ、そうか・・・2人ともすまなかったな。
オルコット。」
「は!
冒険者組合を通して支払いをいたします。
本日の晩課の鐘までにはお支払いが出来ますので、明日にでも入金されているかご確認をお願いします。」
「「わかりました。」」
武雄とアリスが返事をする。
「うむ、2人とも忙しい所すまなかったな。
以上だ。」
「「はい。」」
武雄とアリスは席を立ち広間を退出していくのだった。
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「疲れた・・・」
広間を退出し、だいぶ離れてから武雄が壁に背を預けてグッタリとする。
「はぁ・・・これは疲れますね。
タケオ様、この後はどうしますか?」
「そうですね・・・厨房に戻って料理を早々に作って部屋に戻ります。」
「わかりました。
私もレイラお姉様に挨拶をしてから部屋に戻ります。」
「はい、わかりました。
では、後で。」
武雄とアリスはお互いに苦笑しながらそれぞれの場所に戻って行くのだった。
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広間にて。
「ふむ・・・あっけなかったな。」
アズパール王が呟く。
「いやいや。父上、タケオさん達は凄いですよ。
ですよね?オルコット宰相。」
ウィリアムがアズパール王に向かって言う。
「ええ。
初めての王城で顔見知りとはいえ、陛下への面会といきなりの謝罪を受けて驚く声も表情にも出さないで淡々とこなしていたのですよ?
さらにはこちらの今後の対応を聞いてきましたし・・・並みの方ではないですね。」
オルコットが感心して頷く。
「オルコット宰相、ワザと対応を説明しなかったのですか?」
クラーク議長が言う。
「はい。
ですが、説明をしましたので先の会議で決めたことは絶対に実施いたします。」
「うむ、そうだな。
さて、これで最大の難所と思っていた示談は終わったな。」
「最初なのに最大の難所・・・まぁキタミザト卿としては最大の褒め言葉なんでしょうかね?」
オルコットが首を傾げながら言うのだった。
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