第350話 さてと隣も静かになったし、試験小隊に勧誘でもしましょうか。
「なるほど。
とりあえず今回の事件については、伯爵様達の判断が必要ですね。
で、私共はキタミザト様のシャツを作るのですね。」
ラルフ店長が難しい顔をさせながら頷く。
「ええ、ですけど。
仕立てる場所がありますか?」
「そちらはウィリアム殿下から王家ご用達の店に行けば材料等々を用意していると言われています。
好きなだけ作って良いそうです。
こちらが住所になるそうです。」
ラルフ店長が武雄に紙を渡す。
「あ、あの店ですね。」
エイミーが横から見ながら確認する。
「エイミーさん、わかりますか?」
「はい、わかります。
そこならどんな無茶な対応もして貰えます。」
「なるほど、では後ほどそちらに行きましょう。」
「私どもは先に行ってご挨拶や準備をしておきます。」
「すみませんがお願いします。」
武雄は頭を下げてお願いする。
と、丁度隣から一際大きな歓声が上がって「「お開きだ~」」と退出する気配がする。
「おや?隣も早々に切り上げましたね。
では、店長さんお願いします。」
「はい、では私共は先に行きます。
お会計の方は?」
「あぁ、私が払いますから平気です。」
武雄が苦笑を返す。
「そうですか?・・・では、お言葉に甘えさせていただきます。
お先に失礼します。」
ラルフ店長と職人は退出していった。
「さて、アンダーセンさん。」
「何でしょうか?キタミザト殿。」
「マイヤーさんを連れてきてください。
まだ店先に居るでしょうから」
「はい!?」
アンダーセンが驚く。
「ちょ・・・ちょっとタケオさん?
なんで第一近衛分隊長が居るとわかるのですか?」
エイミーも驚いて聞いてくる。
「さっきまでの隣の飲み会は第一近衛分隊です。」
「なんでわかるのですか!?」
「秘密です。
さ、さ、アンダーセンさん。」
「わ・・・わかりました。」
アンダーセンが「本当かなぁ?」と言いながら退出していった。
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「気を付けて帰れよ?
飲みに行くなよ?」
「「それは私達から隊長への言葉です!」」
マイヤーが皆を店先で見送っていた。
「帰って昼寝だな。」
と皆とは反対の方向を向いた時に腕を掴まれる。
「!?何ヤ・・・アンダーセン?
どうしたのだ?」
「キタミザト殿がお呼びです。」
「ふむ・・・緊急事態か?」
「いえ・・・まったくの緊急ではありませんが、話を聞きたいとのことです。」
「・・・わかった、どこにいらっしゃる?」
「・・・こっちです。」
と、マイヤーを引っ張りながら店内に戻って行くのだった。
・・
・
「・・・おい、ここはさっきまで飲んでいた部屋じゃないか?」
「そちらではないです。こっちです。」
と飲み会場の隣の部屋の扉をアンダーセンがノックする
中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する
「キタミザト殿、第一近衛分隊長をお連れしました。」
「あ!本当に居たのですね?」
エイミーが驚く。
「・・・なぜ?」
マイヤーは部屋の入り口で固まっている。
「さ、さ、中にどうぞ。」
武雄が苦笑しながら招き入れる。
「うぅ・・・」
マイヤーはうな垂れながら入室をするのだった。
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皆に新しいお茶が配膳され店員が退出していった。
「偶然とは怖い物ですね。」
エイミーがため息をつきながら呟く。
「その・・・どの辺から?」
マイヤーは恐々聞いてくる。
「どの辺?・・・『じゃ、今日もお疲れ!』ですが?」
武雄が苦笑しながら言う。
「最初じゃないですか!?」
「ちなみにマイヤー隊長・・・私達の方が先に入店していますからね?」
アンダーセンがマイヤーに言う。
「・・・」
マイヤーはほろ酔い気分が一気に抜ける。
「さてと。
まぁ今日の爆発の対応でお仕事は昼上がりなのでしょうから手短に。
少し私から確認しておきたいことがあります。」
武雄がマイヤーを見ながら手を組んで聞いてくる。
「は・・・はい!」
マイヤーが姿勢を正す。
「第一近衛分隊長殿、私の試験小隊の隊長になってみる気はありますか?」
「え!?」
マイヤーは頭が一瞬真っ白になる。
「ん?どうしました?」
「いえ・・・先ほどの飲み会での会話を聞いていたのですか?」
「・・・エイミーさ・・・殿下が人気者という面白い話は聞いていましたけど・・・
アンダーセンさん、マイヤーさんは小隊長人事について何か言っていましたか?」
「たぶん・・・機会があればとか何とか言っていました。」
「そうですか、私も聞いておけばよかったですね。
この話をしたのはたまたまです。
それに何で第一近衛分隊が隣で飲み会をしているのを知ったのかと言えば、ウィリアム殿下の騎士団長を人選するのに、殿下から相談を受けた私も一緒に名簿を見ながら選んだからです。
飲み会の最初に新騎士団長が挨拶をしていましたよね。
それでわかりました。
昨日、ウィリアム殿下は面接を実施して内定を出したのですね。
なので、名簿に名前があった中で知っている方が居たので声をかけた次第です。」
「そうなのですか・・・」
マイヤーが考え込む。
「第三魔法分隊長殿。」
「はい。」
「うちの試験小隊の副隊長になってみる気はありますか?」
「え!?私もですか!?」
「ええ、名簿に入っていましたよね?」
「・・・はい。」
「まぁ、すぐに返事を求めませんので考えてください。
それに試験小隊への参加には覚悟が必要ですから。」
武雄が苦笑をする。
「覚悟ですか?」
マイヤーが聞き返す。
「試験小隊という性質上、下手したら魔法が使えなくなるリスクがあります。」
「そんな・・・」
「そこまで危ない試験は今の所させる気はありませんが・・・結果的にそうなってしまう事もあるでしょう。
なので、万が一、魔法が使えなくなっても良い覚悟が必要です。」
「・・・はい。」
マイヤーが頷く。
「お2人とも強制ではありませんからね。
断っても良い事です。
自身の一生に関わるかもしれないのです。」
「「わかりました。」」
「では、マイヤーさん。話は以上です。
私達は次の店に向かいましょうか。」
武雄達は席を立ち退出するのだった。
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