第347話 第一近衛分隊の打ち上げ2。武雄達の雑談。
武雄達が隣にいるとは知らない打ち上げ会場。
「それにしてもうちの隊から騎士団長とは・・・
総長が喜んでいそうですね。」
第一近衛分隊の中でも最年長の者がマイヤーに話しかけてくる。
「そうだな・・・ニール殿下以来の騎士団創設だし。
どの部隊も新設の騎士団長と兵士長の役職には入れたいだろうからな。」
「ああやって楽しんでいるのも数日でしょうね。」
「だな。騎士団人事は大変だからな。
ニール殿下の時は第1騎士団が4割ぐらい抜けたらしいな。
今回から満遍なく採用するようにお願いしているらしい。」
「それは総務局から言われたのでしょうかね?
まぁ・・・ニール殿下の正室は第1騎士団でしたし・・・
殿下と元仲間に頼まれたら嫌とは言わないでしょう。」
「うちらだってうちの隊から皇子妃が出て、領地異動に一緒に来てくれと言われたら行くだろう?」
「行きたくなりますね。」
「まぁ、ニール殿下の時の混乱はうちらは見ていたからな。
こいつらは楽しそうにしているが・・・武官の人事が動く・・・ウィリアム殿下が異動すれば今度はクリフ殿下が入城するからな。
ひと悶着あるかもしれん。」
「うちらの仕事が増えそうですね。」
「今日みたいな任務はしたくないな。」
「まったくです。
とりあえず今回の任務で欠員が出ずに良かったです。」
「あぁ、こんなバカ騒ぎが出来るのは良い事だな。」
ベテラン2人は、はしゃいでいる部下を優しい眼差しで見守るのだった。
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「タケオ様、それ魚醤ですか?
こんなところにもソレを持ってきたのですか?」
アリスは武雄の手元を見て驚く。
「おや?バレましたか。
少し薄めて持ってきたのですが、アリスお嬢様もかけてみますか?
味が変わりますよ。」
「わかりました。」
アリスは武雄から魚醤が入った小瓶を受け取りシーフードパスタに少しかけて軽く和えて食べてみる。
「タケオ様!?」
アリスは驚きながら武雄を見る。
武雄は嬉しそうに頷く。
「アリス様、タケオさん、何をしているのですか?」
エイミーがアリスの反応が気になり声をかけてくる。
「エイミーさん、コレを少しパスタにかけて食べてみてください!」
「はいはい。」
エイミーがアリスから魚醤の小瓶を受け取りシーフードパスタに少しかけて軽く和えて食べてみる。
「え!?なにこれ!?全然違う!?」
「主、私達も!」
チビッ子達が自分の皿をズリズリと武雄達の方に押してくる。
「キタミザト様、私達もよろしいですか?」
ラルフ店長達も興味津々で次々にパスタにかけて食べてみる。
・・
・
「幸せ・・・」
エイミーは、うっとりしながら言う。
「いや・・・まさかキタミザト様の持っていた調味料でここまで変わるとは思いませんでした。」
ラルフ店長が言い、他の面々が頷く。
「皆さんのそのうっとり感を見るとついつい違う料理も作りたくなりますね。」
武雄は苦笑しながら言う。
「キタミザト殿、この調味料は販売しているのですか?
王都で食べたことがないのですが?」
アンダーセンが聞いてくる。他の者も興味津々だ。
「販売はしているようなしていないような・・・返答に困りますね。
今の所、この商品は販売していないですかね?
これの原材料を昨日、偶然見つけて私が手を少し加えたのです。
今後、エルヴィス領で販売してみようかとは考えていますけど。」
「「本当ですか!?」」
ラルフ店長と職人が「やったね」と嬉しそうに顔を合わせる。
「タケオさん!王都や私の実家とかには卸せないのですか!?」
エイミーが武雄に聞いてくる。
「んー・・・輸送に時間がかかりそうですからねぇ・・・
今は考えていませんね。」
「そうなのですか・・・」
エイミーはそれはもう肩を落とすのかという勢いでガックリとする。
「ふふ、エイミー殿下。」
「ん?アリス様・・・『さん』で結構ですよ?」
「いえ、エイミー殿下。スミスと付き合えば・・・結婚したら毎日食べれますよ?」
アリスはニコリとしながらエイミーに爆弾発言をする。
「え!?」
エイミーはアリスの言葉に驚きの表情をアリスに向ける。
第三魔法分隊の面々は苦笑し、ラルフ店長達は固まっている。
「あ・・・確かに・・・いや・・・でも・・・」
エイミーは顔を赤くさせながらも「食べ物の為に結婚するのも違うよね?」とも「最大の特典だよね?」とも思うのだった。
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「それにしても隊長、新設人事と言えばまだありますよね?」
第一近衛分隊の若手がマイヤーに聞いてくる。
「ん?・・・研究所の試験小隊か?」
「です!私は最初の初案しか見ていませんが、合計3小隊が創設されるのですよね?
まだまだ栄転の機会はありますね!?」
「・・・あるが、お前はまだまだ先だろ。若すぎる!
ウィリアム殿下の件では部下に先を越されたが、今度こそ!」
「え!?隊長、異動を希望していたのですか!?
てっきり総長を目指しているかと思っていましたよ。」
「今日の任務でわかったわ・・・徹夜はもう無理だ!
お前の頃は2日ぐらい徹夜の任務も平気だったのに・・・
もう後任を決めて地方で隠居生活だな。」
マイヤーはため息をつく。
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「・・・」
アンダーセンが腕を組んで隣から漏れ聞こえる会話を聞いている。
「え!?襲われたのですか!?2回も!?」
ラルフ店長が声を大きくはさせないが、十分に驚き武雄に詰め寄る。
武雄達はしばらく隣の会話を聞いていたが大して面白い話が聞こえて来なかったので武雄達が王都に着いてからの事件を語っていた。
「ですが、とりあえず王都からは『そんな慣例はないから次回から対応して貰って良い』と言われました。」
「「当たり前です!」」
ラルフ達が武雄に食って掛かる。
「もう・・・キタミザト様だから対応できたのでしょうが・・・
伯爵様が知ったらどうするのですか?」
「んー・・・どうするんですかね?」
アリスが苦笑する。
「はぁ・・・うちの住民たちも黙ってはいないと思うのですけど・・・」
「え?なんで皆が?」
「アリスお嬢様がやっと結婚できるって皆が喜んでいるのに、いきなりの襲撃なんて話が来たら・・・」
ラルフ店長がため息をつく。
「えーっと・・・ラルフさん、街の方たちはアリス様とタケオさんの事はどう思っているのですか?」
エイミーが聞いてくる。
「エイミー殿下、うちの住民達はお2人の事を温かく見守っています。
アリス様は我が子のように、キタミザト様は街を守る実力もあり私達に優しく対応してくれると。
アリスお嬢様に相応しい方が現れて良かったと、べた褒めです。」
「あぁ・・・虚像が出来上がっていく。」
ラルフ店長の言葉に武雄が苦笑する。
「ちなみにお2人の結婚式でのお祝いの品を何にするのか各組合が話し合いをしているそうです。」
「?・・・各組合?別にスミスの結婚ではないのですからそこまでしなくても・・・」
アリスが「大事過ぎない?」と思いながら聞いてくる。
「いえいえ、アリスお嬢様もキタミザト様も街を守っています。
それは住民一同ちゃんと認識していますし、横暴をするわけでもなく毎日楽しそうに街中を歩かれているのでこれからも楽しんで過ごして欲しいという思いから贈り物をしようとしています。」
「タケオ様、どう思います?」
「私的には皆が笑顔でいてくれればそれだけで良いのですけど。
そういうことなら私からも何か街に贈り物をしましょうかね・・・」
「・・・タケオ様、これ以上何を?」
「んー・・・何か食べ物を用意しますか?・・・でも5万人分は難しいか・・・」
「キタミザト殿、その気持ちだけで十分です。
皆に『ありがとう』と言ってくれるだけで喜びますから。」
ラルフ店長が朗らかに言う。
「そうですか・・・街の発展に寄与することで恩返しをしますかね。」
「はい、それで結構です。」
武雄の言葉に皆が朗らかに頷くのだった。
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