第346話 あれ?店長さんだ。第一近衛分隊の打ち上げ。
武雄達は魔法師専門学院を後にし、6時課の鐘が鳴るのを歩きながら知った。
「もうお昼ですね。」
エイミーがボソッと呟く。
「主、お腹が空きました。」
「きゅ。」
チビッ子達も昼食を所望する。
「そうですね。
じゃあ、どこかでお昼にでも・・・ん?」
武雄は周りの店を軽く見回しながらあるお店のテラスに居る人に目を止める。
「あれは・・・
ちょっとすみません。知り合いが居ましたので挨拶しても良いですか?」
「構いませんよ。」
武雄達一行はテラスに向かって歩いて行く。
・・
・
「店長さん、こんにちは。王都に着いたのですね。」
武雄が仕立て屋の店長に声をかける。
「キタミザト様!?アリスお嬢様も!」
ラルフ店長と席を同じにしていた男性が驚く。
アリスは会釈をする。
「あ、店長さんの所の職人さんでしたね。いつも唐突ですみませんね。
店長さんたちは王都にはいつ?」
「はい。
昨日の夕方に着いたのですが、ウィリアム殿下に到着した旨と王都の仕立て屋組合との商談日程で打ち合わせを申し込んだのですが、明後日まで待ってほしいという回答とキタミザト様のシャツを作って欲しいと伝言を貰っておりますが・・・それに今朝の爆発・・・何があったのでしょうか?」
ラルフ店長が若干声を潜めて聞いてくる。
「・・・そうですね。
この店は個室があるのでしょうか?」
武雄が思案する。
「タケオ様、確認してきましょうか?」
「お願いします。」
アリスと護衛の女性兵が店の中に入って聞きに行く。
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マイヤー以下、第一近衛分隊の面々が一室に集まっている。
手にはワインが。
「じゃ、今日もお疲れ!」
「「「お疲れ様です!!」」」
マイヤー達は一気にワインを飲み干す。
「かぁーーー!!!
この仕事終わりの一杯は至福の時だな!!」
「隊長!最初の1杯目で酔いが回りそうです!!
徹夜明けは効きますね!」
「あぁ!全くだ!ははは!
と、そうだ!良い機会だ!皆に発表しろ!」
マイヤーが1人の男性を指さし楽しそうに言う。
と、指名された男性が立つ。
「では、僭越ながら。
私ケネス・ストーニーはですね。」
「子供が出来たか?」
他の隊員が冷やかす。
「いやいやこれ以上子供が出来るとうちは破産しますね!
って、そうじゃなくて!・・・コホンッ。
私ケネス・ストーニーはウィリアム殿下の騎士団長に内定しました。」
「「「「はぁ!?」」」」
隊員達が悲鳴を上げる。
「ふざけるなぁ~!お前はまだ34歳だろうが!俺より先に栄転するなぁ~!」
「失礼な、33歳です。
昨日の夕方に面接をした際に内定を頂きました。
栄転です!
という訳で、明日からウィリアム殿下付きになりますのでよろしくお願いします。」
「「「「はぁ!?」」」」
「待て待て!急すぎないか!?
隊長!良いのですか?」
周りの隊員が動揺しだす。
「それなぁ・・・確認したらウィリアム殿下の方が優先順位が高いんだわ。
なので、王都守備隊の任務はもうしなくて良いとなった。」
「こいつ班長ですよ!?引継ぎどうするんです!?」
「あぁそれについてはしらん!班内で引継ぎをしておけ!
後任は俺が勝手に決めるから!」
「「横暴だぁー!」」
班のメンバーがブーブー文句を垂れながらも仲間の門出を楽しんでいる。
マイヤーは嬉しそうに言いながら仲間と飲むのだった。
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店の奥にある個室にて。
「・・・という事はキタミザト様が貴族になり、アリスお嬢様が騎士になったのですか!?」
最初、エイミーやアンダーセン達に驚いていたが、さらに武雄が自分たちの現状を説明し始めると唖然としながら聞いている。
「そうなりますね。
そして先ほども言った研究所の設立許可が下ります。」
武雄の説明にアリスも頷く。
「・・・ちょっと時間をください。整理しますから。」
ラルフと職人は腕を組みながら武雄が説明した貴族になったことや研究所の事をウンウン頷きながら思案を始める。
「やっぱり唐突ですよね。」
武雄が苦笑しながら呟く。
「ミア殿、クゥ殿、どれを食べます?」
エイミーが武雄達の会話には加わらず、メニューを見せながらチビッ子達に聞いている。
「エイミー様、私達は文字が読めないのです。
読んで頂けますか?」
「きゅ?」
ミアとクゥが首を傾げながら返答をする。
「う・・・これは可愛いわ・・・
2人組なのがさらに可愛さを引き立ててるわ。
えーっと・・・まずはですね」
エイミーはチビッ子達にメニューの説明をし始める。
「・・・隣が若干、うるさいですね。
どこの隊でしょう?」
アンダーセンが壁を見ながら呟く。
「楽しんでいるのでしょうから気にしなくて良いのでは?」
武雄は「さっき知っている名前の人が自己紹介していたような」と思いながら聞き耳を立てるのだった。
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第一近衛分隊の打ち上げ会場。
「それにしても先日は隊長ズルいですよ!」
「ん~??何がだ?」
マイヤーはチビチビ飲みながら若手の隊員に詰め寄られていた。
「エイミー殿下の護衛の任務です!」
「何がズルいんだ?」
「我らに回してくれても良いじゃないですか!?
エイミー殿下の護衛は王都守備隊で人気上位の任務なんですよ!?」
「そんなの知らん!
レイラ殿下からの依頼で陛下が許可したのだ。
文句があるならさっさと出世しろ!」
「くぅ・・・あの可憐なエイミー殿下を護衛なんて羨ましすぎる!
あぁ・・・可憐なエイミー殿下は素晴らしいです!」
他の隊員が恍惚とする。
その様子をマイヤーは見ながら「こいつ・・・間違いが起こる前に結婚させなくては!」と心に誓うのだった。
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店の奥にある個室(第一近衛分隊の打ち上げ会場の隣)
ラルフ店長達は苦笑している。武雄達の話は隣の話が面白いので後回しになっていた。
「良かったですね、エイミーさん。人気者ですね。」
武雄はお茶を飲みながらエイミーに向かって苦笑する。
エイミーは顔を赤くして俯き、何も言えない。
「話し声がダダ漏れですね。
これは教えてあげた方が良いのでは?」
アリスがため息交じりに言う。
「面白いからこのままで良いのでは?
あの場に乱入してシラケても可哀相ですし。
こちらの声は聞こえていないのでしょうね。
普通の会話なら気にならないのに・・・あっちはお酒を飲んでいるので声が大きいですね。
あ、この料理美味しいですね。」
武雄は出されている肉料理を食べながら隣の話を聞いている。
「・・・」
アンダーセンが「うちの隊での飲み会では気を付けよう」と心に誓うのだった。
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