第343話 魔法師専門学院へ。(採用予定者。)
「こちらになります。」
トレーシーが武雄とアリスの前に冊子を置き2人が見る・・・というより皆も覗き込んでくる。
「これは?」
「はい。今年8月に生徒に行った最終進路希望の第1志望にエルヴィス家を書いた者の資料になります。
そして・・・その・・・言い方は悪いですが、成績下位10名の資料も後ろに入れています。
あ、この資料はお渡しできません。
お帰りの際に簡単な履歴を書いたリストを用意しておりますので、そちらをお渡しいたします。
こちらは正式に採用された者が入隊の時に提出する書類になります。」
「はい、わかりました。
・・・これは成績も載っているのですね?」
「はい。今年はエルヴィス領を志望する者が4名いるのです。
いつもは・・・2、3名で定員割れを起こしているのですが・・・」
トレーシーは困った顔をする。
「それはしょうがないでしょう。」
アリスが苦笑を返す。
「・・・トレーシー、番号に間違いはないのか?」
資料を覗き見ていたアンダーセンが聞いてくる。
「ないよ。」
「409番・・・だと?王都には来ないのか?
現状では何位なんだ?」
「3番だね。
私も教師たちも進路については生徒に好きに選ばせている。
誘導はしていないからな。」
「・・・」
アンダーセンが腕を組んで思案始める。
「アリス殿、不躾な事を言わせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「構いません・・・と言うより2年前の事ですね?」
アリスから笑みが消え真顔でトレーシーを見る。
「はい、わかりますか。」
「氏名が・・・そうですか、遺児ですか。」
「・・・」
アリスが物思いに耽り、他の面々は何も言わないでいる。
「他の2名はなぜうちに?」
アリスが聞く。
「はい。今年エルヴィス領を第1志望した4名全員がエルヴィス領出身です。
そして409番、423番は父親が2年前のゴブリン襲撃の際に殉職されています。
その2人は襲撃後に目覚ましい成長を遂げました。
10月の成績時点では409番は3位に、423番は7位になっています。
また、他2名も27位、35位と上位を伺う成績を残しています。
何卒、この4名の採用はしていただきたく思っています。
そして本人達の志望通り戦闘部隊に入れていただきたいのです。」
トレーシーは頭を下げる。
「私は良いのですが・・・こればかりはお爺さまや文官、武官達が決めます。
何とか働き掛けはしますので、このまま4名を採用をさせてください。」
「わかりました。」
アリスとトレーシーが頷くのだった。
「この2人のうち1人をこっちで採用してみますかね・・・」
資料を見ていた武雄が呟く。
「「え!?」」
アリスとトレーシーが驚いて武雄を見る。
「タケオ様!?本当ですか?」
「え?・・・それはどういう事でしょうか?
キタミザト殿はエルヴィス家の方ですよね??」
2人して武雄に聞いてくる。
「学院長、私は爵位を拝命し、武器の研究所を設立する許可がでるそうです。」
「え?では、キタミザト殿は貴族になられたのですか?」
「はい。
ですので武器や防具の試験小隊を設立する運びになるらしいので人員を探しているのです。」
「そ・・・そうなのですか・・・
武器や防具とはどんな物を?」
「そうですね・・・軽量な盾だったり、携帯に便利な殺傷能力が低めの武器とか。
あとは素材系の研究もしないといけないですよね。」
「何名くらいの人員になる予定なのですか?」
「素案では10名の小隊でしたが・・・正式に何名になるかはわからないです。
あ、試験小隊だけではなくて研究員や試作をする鍛冶屋も雇うのか・・・」
武雄は「んー・・・」と悩む。
「タケオ様、すべてをタケオ様が決めなくても良いのでは?
管理する者は別に雇っても良いと思いますけど?」
アリスが苦笑しながら言ってくる。
「つい先日、私が言った言葉のような・・・まぁそうですね。
試験小隊も研究資金も両方管理できる人を探すしかないですね。」
「キタミザト殿・・・人選の基準はありますか?」
「・・・魔力量と知識そして覚悟。」
「魔力量と知識はわかりますが・・・覚悟なのですか?」
エイミーが武雄に聞く。
「開発・・・それも魔法具のなのです。
どんな開発をするかはまだ決めていませんが・・・
下手したら魔法が使えなくなるリスクがあります。」
「「え?」」
アンダーセンとエイミーが驚く。
「そうですね・・・例えば」
武雄は指を1本上げ、指先にファイアを出す。
「これファイアですけど・・・必要な魔力量はいくつになるのでしたか?」
「確か・・・数値にすれば7か8だったかと思います。」
トレーシーが言う。
「これを消費魔力量2か3で発動できるようにする研究も考えられます。」
「え?・・・という事は・・・消費魔力量が少なくて良いと?」
「そのための魔法具を研究するのです。
試験小隊はその試作試験を担当します。
・・・魔力量の消費を少なくするはずの魔法具を装備したら、ファイアを発動するだけで魔力量100を消費する可能性もあるのです。
そして最悪の場合、魔法の適性すら無くすかもしれません。」
「それは!」
トレーシーが席を立つ。
「研究とはそういう物です。
もちろん開発から魔法小隊に行くまでにはいろんな試験、魔力導通、机上想定をしてからです。
いきなりそんな危ない物は渡せません。
ですが、絶対ないとは言えないのです。
なので、私の試験小隊の隊員は魔法適性が最悪なくなってしまっても良い覚悟が必要です。」
「魔法適性がなくなった者はどうされるのでしょうか・・・」
トレーシーが席に着き、苦渋の顔を武雄に向ける。
「どうとは?」
「解雇されてしまうのですか?」
「しませんよ。
責任を持って、その兵士が辞めますというまで雇います。
それに魔法具だけの研究ではないのです。
魔法適性がない者用の武器や防具の開発、新たな戦術の考察、事変が起こった場合の偵察任務等々多岐に渡る業務が控えています。
それに兵士出身の研究者も欲しいですね。
剣一つとっても剣先の長さ、持ち手の改良・・・考えるとやらないといけないことがたくさんです。」
「むぅ・・・」
トレーシーが武雄の説明を聞いて悩む。
「ちなみにキタミザト殿、小隊長人事はどうするのですか?」
アンダーセンが聞いてくる。
「そこも悩み所なのですよね。
一応、ウィリアム殿下にお願いして試験小隊の主だった人員は異動可能なリストから選べるのか確認をしてもらっています。
今言った覚悟を持っている方を探せるのか・・・」
武雄が難しい顔をする。
「あぁ・・・あれですか。」
アンダーセンが頷く「俺も候補に入っていたよなぁ」と思う。
「とりあえず、後で決めないといけないですよね。」
武雄がため息を漏らす。
「アリス殿、キタミザト殿、取りあえずその2名に会ってみますか?
異例ではありますが・・・この2名は、ほぼエルヴィス領に行くことを志望していますし・・・
その・・・試験小隊に行く覚悟があるかも聞いておいた方が。」
トレーシーが聞いてくる。
「私達の為にすみませんが、タケオ様の話を聞くと本人の覚悟によっては兵士か試験小隊か選んで貰った方が良さそうです・・・
タケオ様、どう思います?」
「いきなり知るよりかは良いでしょうね。
じゃあ、この子もついでにお願いします。」
と、リストの後ろの子を武雄が指す。
「「「え?」」」
武雄が指した子に皆が驚くのだった。
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