第341話 寄宿舎訪問。(棚を考えよう)
「で?アリスお嬢様、エイミーさんの部屋はどうでしたか?」
「可愛らしかったです。」
武雄の問いかけにアリスが返答し、女性隊員2名も頷く。
武雄は「そっちかぁ」と思う。
「・・・ヌイグルミはちゃんとベッドの中に居ましたか?」
「はい♪」
「な!なんでわかるのですか!?」
「いや・・・なんとなく?
日頃しっかりしている人はプライベート空間は可愛い物が多かったり、逆に日頃ふざけている人はプライベート空間はきちっとしていたりとなる人が多いと思っただけです。
普段、皆に見せている外見は無意識に自分が作っているものですから個人の部屋になると何かしら反動がくるものかと。」
「う・・・そういうものなのですか?」
「私はそう思っていますよ。
内も外も完璧な人間はいませんよ。」
武雄は若干、顔を赤らめながら聞いてくるエイミーに苦笑を返す。
「ベッドや勉強机、本棚以外にどんな物が必要そうでしたか?」
「んー・・・衣服の収納ですね。」
「ん?壁の所だけでは足りませんか?」
「いくら男性が女性より衣服の数が少なくて済むとはいってもちょっと足りないですね。」
アリスの言葉に武雄はクローゼット内を見てみる。
中は服が掛けられるように丸棒が通っている。
「そうですか・・・ちなみにですが・・・
ここに服を掛けたら下側が空きますが、そこに家具は入れていましたか?」
「はい、入っていました。
ただ・・・サイズが合わないようで、はみ出てしまっていて・・・」
「エイミーさん、このサイズの収納はないのですか?」
「ないですね。
奥行きが市販されている家具より浅いのです。
特注でなら作れるとは思いますが・・・そこまでする気にもならないですね。」
「そうですか。
でも壁面から出てしまうのは見た目にもあまり良い感じはしないですよね。
エルヴィス邸に帰ったらスミス坊っちゃんと相談して下着をしまう場所を作らないといけないですね。」
「な!タケオさん!私は下着とは言っていませんからね!」
エイミーが顔を真っ赤にさせ抗議してくるが、武雄は無視して軽く考えこむ。「簡単収納棚か・・・紙か布地かな?」
「・・・さて、あとは部屋の各サイズを採寸してお暇しましょうか。」
「わかりました。」
武雄達は手際よくメジャーで採寸をしていく。
・・
・
武雄がクローゼットの高さを測ろうとして何気なく手を天井に付けた時。
「きゅ!」
「主!止まってください!」
いつの間にか起きていたチビッ子達が武雄を止める。
「ミアちゃん!クゥちゃん!どうしたの!?」
アリスがチビッ子達の口調に驚く。
「主、そこの板を退けてはダメです!」
「板?・・・天井ですか!?」
「はい!」
「きゅ!」
チビッ子達が頷く。
「退けたりはしませんよ?何か居ますか?」
武雄は目を細めながら聞いてくる。
「居ます。動かないでこっちを伺っています。
降りても来ないし、鳴きもしないので放置していましたが・・・
まさか、主が手を置くとは思いませんでした!」
ミアが若干焦りながら言う。
「天井から降りて来ないなら挨拶をする気はないのでしょうね。
・・・ミア、クゥ、大まかで良いのですが、どのくらいの強さがありそうですか?」
「きゅ♪」
「いや、クゥ、それはアナタ基準でしょ?
主は普通の人間と比べた時の意見を言って欲しいのだと思いますよ?」
ミアがクゥの意見に呆れながら言う。
「きゅ?」
「あぁ・・・まぁそうでしょうね。
主、クゥ的には人間でも対処できるのでは?と。」
「そうですか・・・この寄宿舎の主なのでしょうかね。
エイミーさん、今まで何か魔物で困ったことはありましたか?」
「いえ・・・あ!王立学院七不思議がありますよ!
夜中にお菓子の蓋を開けておくと数が減るとか、誰もいない部屋から声が聞こえるとか、夜中に廊下に出ると白い影に追われるとか、机に置きっぱなしの本がいつの間にか本棚に戻っているとかですね。」
「・・・全部この主のような気がするのですけど・・・
というよりほとんどが個人の無精ですね。最後のなんて片づけをしてくれています。」
「全くですね。」
武雄とアリスがエイミーの七不思議を聞いて呆れる。
「うぅ・・・呆れられました・・・・
なので魔物で困ったことはないです。」
エイミーは顔を真っ赤にしている。
「ふむ・・・実害はないようですし。
寄宿舎を楽しませる存在なのでしょうね。
・・・さて、採寸もほとんど終わりましたし、お暇しましょう。」
武雄の言葉に皆が頷いて部屋から出始める。
武雄はクローゼットに近寄り胸ポケットからお菓子を取り出しお供えをする。
「来年の春にこの部屋に入る男の子を見守ってください。よろしくお願いします。」
武雄は手を合わせる。
「タケオさん、行きますよ?」
廊下からエイミーが声をかけてくる。
武雄は一礼をしてから退出するのだった。
・・
・
ちなみに帰りにクラーク議長に挨拶をしようとしたら会議に出席のため不在だった。
なので書置きを残してお暇することにした。
「主、部屋に残って何をしたのですか?」
武雄達一行が寄宿舎の玄関を抜けた所でミアが聞いてくる。
「ん?ミアとクゥ用のお菓子を置いてきましたよ。
主さんに贈り物です。
ちなみにバターサンドです。」
「きゅ!?」
「なんですと!?」
チビッ子2名は武雄に突進し、ミアは武雄の頭をポカポカ殴り、クゥに至っては武雄の足をかじりはじめる。
「コラっ・・・痛い、痛い。」
武雄は苦笑しながら対応をする。
「きゅ!」
「よくも私達のお菓子を!」
「あとで作ってあげますから。」
「絶対ですよ!」
「きゅ!」
「もうしょうがないですね~。バターサンドで良いのですか?」
「プリンを要求します!」
「きゅ!」
チビッ子2人は真顔で要求を告げる。
「わかりました。それで良いのですね?」
「きゅ♪」
「はい♪」
チビッ子達は一転して上機嫌になる。
武雄もアリスも朗らかに見ながら癒されるのだった。
・・・王都守備隊の5名は・・・「王都壊滅の引き金がお菓子になるとかないよね?」と心の中でため息をつくのだった。
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武雄達一行が騒ぎながら敷地を出ていくのを203号室の窓際から見る者がいた。
「・・・」
武雄達が去っていくのを確認してクローゼットの方に移動する。
武雄が残したお菓子を興味深そうに見ると。
大口を開けてパクリと食べる
「!!!!」
目をこれでもかと大きく見開き、誰もいない室内をグルグル動き回る。
「早く春が来ないかなぁ」
春が待ち遠しい者が1人増えるのだった。
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