第338話 エイミーとパットの会話(王位継承権)。まずは寄宿舎に行ってみよう。
「・・・」
エイミーは寄宿舎の玄関横にあるフリースペースで1人ボーっとしながら座っている。
いつもは寄宿舎内は会話や走り回る音や怒られる声など喧騒としているのだが、今日は朝からの爆発事件で寄宿舎内の喧騒は鳴りを潜めていた。
そして今日は王立学院が臨時休校で外出は特別な場合を除き禁止になっていた。
「エイミーか?」
たまたま通りかかったパットがエイミーに声をかける。
「あら?パット?何しているの?」
「いや、たまたま通りかかっただけなんだが。」
「そう・・・朝の爆発、貴方じゃないわよね?」
エイミーはジロッとパットを見る。
「流石に王都で爆発を起こす真似はしないさ!」
「・・・本当に?タケオさんやアリス様への暴言・・・洒落にならないことをしでかしているのよ?」
「う・・・それについては何も言えないが・・・
アレは深く反省しているさ。もう二度と父上に迷惑はかけないようにする!」
「そうね・・・アナタ、自分の立場をちゃんと認識しなさいよ?
王家という括りから一歩出ているのよ?アナタは王候補なのですからね!?
今後また変な事をしでかしたなら・・・アナタ、王都から追放されるわよ?」
「我が居なくなったら次代の王候補が居なくなるぞ?」
パットがニヤリと笑う。
「アナタ本当にバカね・・・そんなのお爺さまが王家の血筋から誰か養子を取れば何とでもなるわよ。
それに・・・はぁ・・・今回の事を踏まえ妃会議で決まったことをアナタにも言っておくわ。
クリフ伯父上、ニール父上には新たに側室が入る運びになります。」
エイミーは呆れながら淡々と事実を話す。
「え!?」
パットの表情が固まる。
「第1皇子正室ローナ妃、側室セリーナ妃両名からの提案よ。
『今回たまたまタケオさんが手を抜いてパットには手を出さなかったが、下手したら命を取られていてもおかしくない事件だった。
今後、襲撃や強盗、他国の政略、調略でパットが命を散らすことも考えられる。
今のうちに第2候補を擁立するべきだ』とね。
第1皇子夫妻は苦渋の決断をしました。
我ら第2皇子一家は、そもそも父上に再婚をするようにお願いしていましたので即色よい返事をしましたし、第3皇子一家も同意しています。」
「・・・そんな・・・」
パットの顔が蒼白になる。
「確かに継承について陛下からの宣言があった為、現在のクリフ伯父上が王位継承権1位、アナタが2位になります。3位に私の父上がなりますが、今後のアナタの成長によってはそれも危うくなることをちゃんと認識しなさい。
3皇子は仲が良い、王城内での評判はそう言われています。
ですが王家内での内輪の話では少し違うのよ。
私の父上が必死に領地運営のみに精を出し王都の政策には思う所があっても何も言ってこなかった事。
ウィリアム叔父上が自身で考えた王都繁栄の計画を棚上げにし、自身がボンボンの使えない皇子を演じることによって貴方の父上、第1皇子が王位を継ぐに相応しい者と思わせる事に注力していたからです。
クリフ伯父上に至っては自身が王位を継ぐに相応しいと思わせるよう努力をしています。
そして弟達がそういった努力をしている事も知っています。
私達の親たちは必死になって王家の家名を守ろうとしています。
そして王家同士でのいがみ合いを無くそうとしているのよ。
パット・・・アナタの振る舞いでこれまでの王家一同の努力を無にしようとするなら私は許しません。」
「・・・知らなかった・・・」
パットは明らかに狼狽えている。
「今知って良かったわね。
卒業まで数か月・・・パット、ちゃんと成長してね?
数十年後に王家同士で政略合戦なんてしたくもないからね。」
「あぁ・・・わかった。
今後は絶対に軽率な行動はしない!」
「そう・・・今は信じてあげるわ。
今後は振る舞いで評価させて貰うからね?」
「わかった、誰もが認める王になってみせる。」
「ええ、弟達が出来てもあの兄には敵わないと思わせる器を見せてね。」
「任せておけ!
で、誰を待っているのだ?」
「アリス様とタケオさんが来ます。
なので私はこれから寄宿舎内を案内をするのよ。」
「え!?」
「ここにいる?さっき王都守備隊から連絡があったの。
そろそろ来るはずなのだけど・・・」
「・・・一言、挨拶してから部屋に戻る・・・よ。」
パットはそう言いながらも顔面が蒼白だ。
「そう。」
エイミーは「今すぐにでも部屋に戻りたいだろうなぁ」と心では思う。
と、同時に「頑張れ、パット。一歩づつよ。」と思うのだった。
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武雄達一行と第三魔法分隊長のアンダーセン以下部下4名(男女2名ずつ)は寄宿舎門で受付を済ませて寄宿舎の玄関に着こうとしている。
「遠くから見ていて少し色が黒いとは思いましたが総石造りなのですね。」
「私は王城みたいに白で統一されているのだと思っていました。」
武雄とアリスが歩きながら外観の感想を言いながら玄関に着いた。
と玄関のロビーに2人の影が見える。
「アリス様、タケオさん、ようこそ寄宿舎へ。
レイラお姉様よりお2人をお迎えし、今日一日同行するよう申し付けられました。」
軽くスカートの両端を持ち、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま挨拶をする。
「アリス殿、キタミザト殿、ようこそ寄宿舎へ。
先日は大変ご無礼をいたしました。
本日はごゆっくり寄宿舎をご見学ください。」
「エイミー殿下、パット殿下、出迎えありがとうございます。
私達の急なお願いをお聞きくださいましてありがとうございます。」
アリスがエイミーと同じように挨拶をする。
「エイミー殿下、パット殿下、出迎えありがとうございます。
また本日ご同行をして頂けるとの事、誠にありがとうございます。」
武雄は礼をする。
「アリス殿、キタミザト殿、私は所用がございますのでこれで失礼いたします。」
と、パットはそそくさと寄宿舎内に戻っていってしまった。
エイミーは「早いよ?パット。」と心の中でため息をつく。
「・・・えーっと、アリス様、タケオさん。
この度は王都での不祥事、大変申し訳ありませんでした。
今後はこのような事がないよう王家一同努めて参ります。」
エイミーが深々と頭を下げる。
「え!?いえ!?・・・エイミー殿下まで・・・」
アリスはエイミーが謝るとは思っていなかったのでアワアワし出す。
「エイミー殿下、ありがとうございます。
私は今後同様な事がなければ良いと考えています。
今回の件については、王都の判断を尊重したいとは考えてはいます。」
「タケオさん、ありがとうございます。
まだ補償内容が決まっていないとの事で私の父、ニールがボヤいておりました。
補償の確定につきましては、もうしばらくお待ちになってください。」
「はい、わかりました。」
武雄は頷くのだった。
「では、王立学院の学院長がお待ちです。」
とエイミーが先導するのだった。
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