第335話 23日目 寝る前の雑談。粛清対象者のある一家。
終課の鐘が鳴って少し経っている。
アリスと武雄はお風呂も髪を乾かすのも終わり部屋でマッタリとしていた。
ミアとクゥはお風呂を上がってからベッドでゴロゴロしていたが、すぐに寝てしまった。
「今日は夕飯もお風呂も早かったですからね。」
アリスはミアとクゥを見ながら呟く。
「ですね。」
「タケオ様、とりあえず王都に着いてからの騒動は終わりましたね。」
「私達の分は・・・ですね。
これから王都の方達は背後関係の洗い出しやら被害者の補償に追われるでしょうね。」
武雄は苦笑する。
「タケオ様は貴族になってしまいましたが、何か影響はありますかね?」
「さて・・・エルヴィスさんだけでなく、王都に向けて有能だと示す必要はありそうですね。
少なくとも防具関連で成果を出さないといけませんね。」
「防具ですか?
小銃は報告しないのですか?」
「今のところは王都にはする気はないですが、ウィリアムさんには報告した方が良さそうですね。
それにカトランダ帝国へ行って小銃の開発者を探せるのか、会ってみて引き抜きが出来るのかによって小銃の研究内容が変わります。」
「そうなのですか?」
「はい。
引き抜きが出来るなら開発者に製造、研究をして貰います。
出会えなかったり、引き抜きが出来ないなら私の持っている小銃を複製する方法を考えないといけません。」
「なるほど。」
「それに小銃だけでなく、小型輸送船の駆動部の開発、物流網の素案、盾や魔法具の開発・改良、魚醤の商品化、温泉の視察・・・私はやる事がいっぱいです。」
武雄が苦笑する。
「タケオ様は欲張りですね。」
「ええ、思い付いた事をポンポン発言したらやることが増えました。
部下は今はミアだけですが・・・今後は研究所も運営するのですから増やさないといけません。
一番の問題は果たして私の知識を理解してくれて、説明だけで試作品を作る腕や発想力がある者に出会えるかですね。」
「誰でも良いわけではないですものね。」
武雄もアリスもため息をつく。
「それに何だかんだ言っても魔法社会ですから魔法師の確保も重要ですし。」
「明日、魔法師専門学院に行きますが、優秀な人に出会えますかね?」
「わからないですね。
ただ私が欲しいのは武力としての魔法師よりも魔法具を作り出せる魔法師ですからね。
一概に成績上位者が良いとは言えないでしょうね。」
「難しいですね。
私も人を採用した実績はありませんし。
あ、レイラお姉様達の文官、武官は選びましたよね。」
「あれは例外でしょう。
最初の選考自体はレイラさん達がしてくれています。
あの最終リストは全員同行させても良いとレイラさん達が思っていたのでしょうから、あとは第3者の意見で踏ん切りを付けたかっただけです。」
「そうなのですか?」
「ええ。
それにもし3人だけで決めた場合、3人全員が良いと言えば良いですが、例えばウィリアムさんとアルマさんが良い、レイラさんだけダメと感じた人を選んだとして、その者が期待外れもしくは不正をした場合、レイラさんは『だから言ったのに』と3人の仲が悪くなる恐れがあるのです。
そうならない為には第3者に選ばせて『あの者が言ったから決めた』としたかったのでしょうね。」
「そういう物なのでしょうか・・・わかりません。」
アリスは「むぅ」と腕を組みながら唸る。
「私も試験小隊の隊長だけ決めて他の隊員は隊長に選抜して貰いましょうかね。」
武雄も腕を組ながら頭を悩ます。
「とりあえず、明日また考えますか。」
「そうですね。
さて・・・寝ますか。」
「はい。」
武雄とアリスはベッドに向かうのだった。
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朝課の鐘が鳴り終わった。
とある屋敷の書斎に男性2人が酒を煽っている。
1人は老人、1人は中年。
「あの2家が追放されるとはな。」
「・・・父上、私達に繋がりますか?」
「わからん。
基本的に我らは手紙でのやり取りを避けていた。
それにカトランダ帝国からの依頼は紙でだが一目見たら焼却処分をしているはずだ。」
「今日の会議の感じなら・・・あののほほんとしたアランだ。
追放という軽い刑にしたのだ!2家の家宅捜査はこれからと見る。
襲撃計画で調べるのだからまだ時間的に猶予はあるはずだ。
そうだな・・・明日の昼に用事を作り、そのまま王都を脱出する!」
「わかりました。
・・・父上、今朝方向こうに送った送付状の控えと向こうからの受領書が残っていませんでしたか?」
「あ・・・すぐに焼却しろ!
カトランダ帝国への納付台帳もだ!」
老人に言われ、中年男性が席を立ち、書斎の壁に備え付けられた本棚の一角にある本を10冊抜くと壁に小扉があった。
そして反対側の本棚から1冊の本を抜き開くと本の中心部分がくり貫かれており、鍵が入っていた。
中年男性が鍵を使い小扉を開く。
ボンッ!
「・・・え?」
中年の男は一瞬何が起こったかわからなかった。
扉を開けた腕に違和感があり見ると腕がなくなっている。
「う・・・腕が!!」
次の瞬間、中年の男が壁まで吹き飛び壁に当たった衝撃で気絶する。
「な!なにや」
ドンッ!
座っていた老人も壁まで吹き飛び気絶する。
扉の前にはいつの間にか3名のフードを深く被った者がいた。
「・・・」
2名が動かない事を確認して3名の内2名が束縛に動く。
「・・・隊長、終わりました。」
捕縛を終え1人が扉の前から動かない1人に報告する。
と、動かない男性がフードを取り顔を露わにする。
マイヤーだった。
「了解。
その隠し扉の中の書類をリュックに詰めろ。」
「は!」
と扉の外側から軽くノック1回をしてマイヤーと同じフードを被った者達が入って来る。
「第一近衛分隊長、こちらは終わりました。
全対象者処理終わりました。」
「第二情報分隊長、了解です。
こちらも終わりました。
対象者を予定通り捕縛しました。尋問できます。
この場を委譲します。」
「了解です。
すぐに尋問を開始し、賛課の鐘までに終わらせます。
また室内の押収もこちらでします。
裏手に第1騎士団が幌馬車を用意していますのでそちらに詰めておきます。
また先ほど第一近衛分隊隊員が隠し部屋を発見したと報告してきました。
玄関横の納戸だそうです。」
「了解です。
我らは各部屋の再確認をしてきます。
賛課の鐘前に玄関に集合で。」
「了解です。」
とマイヤーは書斎から部下2名と共に退出して行く。
入れ替わりで数名の第二情報分隊隊員が入って行く。
・・
・
玄関横の納戸にて。
「隊長、こちらです。」
部下と共に隠し部屋に入ると。
一面に金銀財宝が鎮座している。
「・・・良く集めた物だな。」
マイヤーはため息を漏らす。
「隊長、コレも押収ですね?」
「あぁ、どうするかは後で決めるだろう。
押収しておけ。」
「は!」
マイヤーは部下に指示をだし室内から退出しようとしてふと目の隅に何かが引っかかる。
マイヤーが違和感を覚えその場所を見ると。
小さな本棚があった。
「・・・」
マイヤーは何げなく1冊を取り中を見るが・・・わからない。
他の本も見てみるが中は何やら数式が羅列されているし、わからない文字で書かれている。
「わからない文字??・・・キタミザト殿?」
マイヤーはふと思う。「陛下に相談してみるか。」
適当にあと2冊取り自身のリュックに入れる。
「この本は直接、陛下に報告する。
他は押収しておけ。」
「は!」
マイヤーは今度こそ隠し部屋から退出するのだった。
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