第332話 第3皇子夫妻と武雄達の夕飯。
「では、頂こうか。」
「「「「「はい。」」」」」
「きゅ。」
ウィリアムの言葉に全員が答え、夕飯を取り始める。
第3皇子夫妻は今日は他の者よりも早く食べるらしく厨房に夕飯を作りに来た武雄達とレイラが鉢合わせになった。
レイラが「新種のお酒があるのでしょう?あとで飲むのなら皆で一緒に食事を取れば良いのでは?」
と提案し今日の夕飯はウィリアム達とアリス達の皆で取ることにした。
本日の夕飯はキノコとほうれん草をオリーブオイルで炒め、魚醤を隠し味で使いパスタと絡めた物。
また紅魚は身をぶつ切りにして干しシイタケのスープに入れ少々、魚醤を入れてみた。
そしてサラダには紅魚の身ををほぐしてマヨネーズに和えたツナマヨを沿えた。
「タケオ様、とっても美味しいですぅ。」
アリスが一口食べて目をキラキラさせながら満面の笑みを向けてくる。
「ええ、美味しいですね。
ミア、クゥ、どうですか?」
「主、美味しいです!」
「きゅ!」
「クゥもこれは良いと言っています。」
「うんうん、そうですか。
また、明日にでも何か作りますからね。」
「「はい!」」
「きゅ!」
アリス達が感想を述べている間、第3皇子夫妻は無言で一気に食べている。
「・・・あのレイラさん?何も言わないのですか?」
「言うよりも食べる方が優先です!!
もう少し待ってください!」
レイラの言葉に武雄もアリスも苦笑しながら自分たちも食べるのだった。
・・
・
皆、あっと言う間に完食し、食後のティータイム。
「幸せってこういう事を言うのね。」
アルマが感動しながら言う。
皆も感想は言わないまでも余韻を楽しんでいる。
武雄は、そんな光景をニコニコしながら見ていたが。
「相変わらず、皆さん蕩けそうな顔をして。」
武雄はクスクス笑う。
「タケオさん、何をしたのです?
見た目はいつも出るようなキノコとほうれん草のパスタと魚の切り身のスープだったのに明らかに味が別次元でした。
なんと言うか・・・甘いような・・・いやとにかく美味しかったです!」
ウィリアムが感想を言う。
「昼間、干物屋で調味料を見つけましてね。
それを使ったのですよ。」
「え!?タケオさん、本当にアレを使ったの!?」
レイラが驚きながら聞いてくる。
「ん?レイラ、何をそんなに驚いているの?」
アルマが不思議そうに聞いてくる。
「いえ・・・魚が腐った物を調味料と言って引き取って来たので・・・」
「魚が腐った??なんですそれは?」
アルマがさらに「説明して」と武雄に顔を向ける。
「腐った・・・まぁ正解ですが、私的に不正解です。
ウィリアムさん、アルマさん、今回手に入れたのは魚のぶつ切りを塩漬けにした物です。」
「あ、うちの実家の酒場で食べられている珍味ね。
でもアレが調味料???」
アルマが言ってくる。
「確か干物屋の店長さんがテンプル領から仕入れたと言っていましたね。
で、仕込んでから10か月経ったと言われました。」
「・・・いくら塩漬けでもそれは流石に腐るわね。」
「タケオさんはそれを引き取ったのです。」
レイラが苦笑しながらアルマに報告する。
「・・・なぜ?」
アルマが武雄に顔を向ける。
「今食べた料理に使った調味料だからなのですけど・・・」
武雄は苦笑しか返せない。
「魚を塩漬けにして10か月程度経つとこんなに味が変わる美味しい調味料が出来るのですね。」
ウィリアムが感心して聞いてくる。
「正確にはレイラさんが腐った腐ったと言っている物を濾してから軽く加熱殺菌した物を水で15倍くらいに薄めて使いました。」
「「「15倍!?」」」
「ええ、もう少し薄めても良かったかもしれませんが、とりあえず美味しい物が出来ましたね。
薄めれば匂いも気にならない感じですし、これは料理の幅が広がりそうです。」
武雄は楽しそうに言う。
「はぁ・・・あの濾している作業を見ていましたけど・・・
あれからこの料理は想像できません。」
アリスがため息を漏らす。
「タケオさん、これは何ていう調味料になるのですか?」
ウィリアムが聞いてくる。
「これは魚醤という物ですね。」
「魚醤・・・知りませんね。
こんなに美味しいのなら私達が異動したら作ってみても良いですか?
あ、もちろんうちの屋敷だけでしますから。」
ウィリアムが武雄に聞いてくる。
「それを止めはしませんが・・・
レイラさん、濾す際に毎回あの臭いがしま」
「屋敷で製作をしてはダメです!絶対ダメ!」
レイラは慌ててウィリアムに言う。
「レイラ・・・絶対なのかい?」
「絶対ダメです!」
「タケオ様、うちも屋敷ではダメですからね?」
アリスが呆れながら言ってくる。
「え?・・・アリスお嬢様、この調味料は美味しくなかったので?」
「とっても美味しかったですが、製作するとなるとあの濾す作業がありますよね?
屋敷の中や周囲に異臭が立ち込めてはしまうのはダメです。
屋敷の敷地以外で製作をお願いします。」
「ん~・・・そうですか・・・」
「タケオさん、どこかで作ります?」
ウィリアムが苦笑しながら言ってくる。
「作るだけならどこでも出来ますが・・・
今回はたまたま魚醤になっていた物を見つけたから良いのですけど、これをある程度の量を作るなら、材料、量、仕込み期間を試験してちゃんとした品質を作りたいですよね。」
「商品化するの?買うわよ?
あ、でもこの調味料はどのくらい持つのかしら?」
アルマが聞いてくる。
「んー・・・そうですね。
たぶん20日間か1か月程度だと思いますね。
あまり期間がないと思うのですよね。」
武雄がそう言うが皆が静まり返る。
「ん?どうしました?」
「いえ、タケオさん。この調味料は1か月持つと見ますか?」
「そのぐらいが限度でしょうね。
あとは季節により多少の誤差はありそうですが・・・」
武雄が「んー」と悩む。
「そんなに持つのですか?
塩なら数か月は持ちそうですが、他には知らないです。
料理長なら知っていそうですけど。」
アリスが驚きながら言う。
「え?長期保存できる調味料はないのですか?」
「ハーブ系は庭とかで栽培している所もありますが、基本採ってから数日ですし・・・
他の調味料は知りませんね。」
レイラも考えながら言う。
「なるほど。
なら1か月持つのは随分破格なのかもしれないですね。
でも作るとなると・・・場所はどうしましょうかね。
たぶんこういった食材は温度管理をちゃんとしないと腐敗しますし・・・
・・・ん?温度管理・・・」
「タケオ様、何か閃きました?」
「いえ、ワイナリーなら室内の温度管理ができるのでは?と思ったのです。
・・・エルヴィス領の北町のワイナリーで数か月保管してもらいましょうかね。
町はずれにあれば迷惑はあまりかけないのですが・・・でも他に温度管理をしてくれそうな場所も知らないですし・・・」
「タケオ様、とりあえず帰ってから決めますか?」
「・・・いや、今日行った干物屋にある在庫の魚の塩漬けを送ってしまいましょう。
開封厳禁と長期保存をしておいてほしいと但し書きをしておきましょう。
一度ワイナリーにも行ってみたいですしね。
アリスお嬢様、後で手紙を書いてほしいのですが。」
「ええ、わかりました。」
アリスは頷く。
「上手くいったら言ってね。ちゃんと買うからね。」
レイラが嬉しそうに言うのだった。
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