第331話 魚醤作りと武雄の考え。
アリスとミアとクゥは、王城の庭の隅に机と椅子を持って来てお茶を楽しんでいる。
武雄はアリス達から少し離れた場所に穴を掘って・・・掘り終えた。
そしてアリスの元に来る。
「タケオ様、本当にソレを開けるのですか?」
「ええ、だから王城の庭の隅に来ているのです。
・・・ちゃんと風上に椅子を用意していますね・・・」
「当たり前です。
風上なら匂いは来なさそうですし。」
アリスが真顔で答える。
実は武雄達一行が部屋に戻り、お茶の用意を始めた時に料理人が1人訪ねてきて「注文されていた物が届きました。」と連絡をくれたので厨房に向かったのだが・・・
「全く・・・ちょっと蓋を開けただけなのに
『止めてください。なんでも使って良いので、ここで開けないでください。』と言いますかね?」
武雄が愚痴りながら用意されたお茶を飲む。
「言うと思います。
あの匂いが厨房に蔓延したら他の料理に匂いが移りそうですからね。」
アリスが呆れながら答える。
「そうですか・・・そうですね。」
武雄は考えながら今度は簡易かまどを作っていく。
「クゥ、クゥは風系の魔法が使えますか?」
「きゅ。」
「使えるそうです。」
「そよ風で良いので、そっちに匂いが行かないように出してくれますか?」
「きゅ。」
クゥが頷く。
武雄がツボと厨房から借りた物を持って穴の縁に行く。
「じゃ、開けますよ?」
「「はい!」」
「きゅ!」
武雄を除く3人が緊張する。
パカッ。
「きゅ。」
アリス達が居る所から少し強めの風が来る。
「クゥ・・・そこまで強くなくて良いのですけど?」
「きゅ!」
クゥは風量を一向に抑えようとしない。
「・・・まぁ、良いです。」
と、武雄はツボの上部に溜まった魚の油分をオタマですくっては穴に捨て、すくっては穴に捨てを繰り返す。
殆ど油分が取れてから、寸胴鍋に粗目の布を被せ縄で重しが載っても落ちないようにしてツボの中身を濾す。
中身全部を布の上に出し水分が鍋に溜まったら、濾した布を外し穴に捨てる。
今度は鍋に先ほどよりも穴の隙間がない布を被せろ過する。
・・
・
ろ過を3回繰り返し、液体中にゴミが浮遊していないことを確認して、鍋に蓋をする。
そして寸胴鍋やオタマや鍋などをアクアを使い穴の縁で洗っていく。
数回水洗いをして匂いが付いていないと確認して寸胴鍋等をアリスの机に置く。
「とりあえず第1段階は終わりましたよ。」
「借りた調理器具に匂いは残っていませんね。」
アリスがクンクンしながら確認する。
「さてと・・・」
武雄は今度はかまどに火を入れ弱火を作り出すと鍋を火にかける。
「沸騰させてはマズいでしょうね・・・
手を入れる訳にもいきませんし、湯気が出るくらいを維持しますか。」
と、武雄はかき混ぜながら火加減を調整し始める。
・・
・
「・・・タケオ様。」
作業をボーっと見ていたアリスが唐突に聞いてくる。
「アリスお嬢様、何ですか?」
「さっきの会議どう思います?」
「・・・パット殿下への対応と慣例の対応ですね。
まぁ、そもそもパット殿下に対しては私達は何とも思っていないのでどうでも良いですが。」
「一応、王家の王候補ですが?」
「彼が王になる頃には私は居ないでしょうからね。
なので特段何とも思っていませんが、あの慣例の実施者でしたか・・・
貴族も大変ですね。」
「タケオ様、不思議に思いませんか?
私達は一応、王家からの招待で来た者です。
それを襲撃されて王家の面子は潰れています。
実行犯のみ死刑で一家は王都追放。少し甘いように思いますが。」
「そうですね。
それにおかしいと言えば、そもそも私が襲撃された際に早々に調べにこなかったこともそうですね。
何かしら意図があるのか、陛下は何を狙っていたのかです。
陛下やウィリアムさんは個人的には良い方です。
ですが、あの人達は王家なのです。
表立って言えない事もしているはずなんです。
でなければ何百年もの歴史は作れないですよ。
何かしら意図があるからあの2家の罪は軽いのでしょうね。
そして何かしら意図があるから表立って調べにこなかった。
まぁ、そもそもそれどころではなかったとも考えられますが。」
「あ、私ですか?」
「ええ。普通の人は同時に問題事が発生した場合、同時に作業は出来なくなります。
どんな人でも混乱はするものです。
そんな時は1つずつ対処するしかないのです。
遅いかもしれないですが、今発生している問題の中でどれが一番最初に対処しなければいけない事なのか。
そこを見極めて順々に対処するしかありません。」
「今回の陛下の判断はタケオ様が下に置かれただけだと?」
「ええ、まずは鮮紅のアリスが暴走していることに対応してから私への対応をしようとしたのではないですか?
私は命に別状はないと報告されているはずです。
ならば、まず死者が出る可能性がある第2騎士団への対応を優先させたのではないですか?
そもそもその辺りを捜査する機関が第2騎士団だった場合、捜査の手がないでしょう。」
「あぁ、なるほど。
・・・私がいけなかったと?」
「いえ?そうは言いませんが。
そうなのかも?と言うだけです。
それに今回の事でたぶん王家、王都に貸しができました。
貸しは作られる物ではなく、作る物です。
今は貸しが出来た事を喜ぶべきでしょう。
近々、何かしら返して貰わないといけないでしょうが。」
「タケオ様はどんなことで返してもらうつもりですか?」
「今の所欲しい物がないのですよね。
武器も新調しましたし、アリスお嬢様は横に居てくれますし、ミアも居てくれますし。
王家からお金も貰えて、さらには遊ぶ金までくれるという・・・
割と順風満帆だと思うのです。」
「まぁ・・・確かにそうですね。」
アリスは頷く。
「さて・・・私達は今後どう動くべきなのか。
王都内も大きく動きそうですね。」
武雄は苦笑しながら言うのだった。
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