第328話 王都の干物屋に突撃2。(まさか・・・これって。)
結局、紅魚も購入し、今日の夕飯は魚系という事にして厨房で調理しながら考えることにした。
干しシイタケや干し小魚、干し肉、干し蟹・・・大きさの違いはあれどエルヴィス領で見ていた物が目立つ。
さらにはクルミ等のおつまみ系も揃えられているようだ。
適当に見ながらいろいろ購入するのを決めて行ったのだが・・・とりあえず面白い物は発見できずにいた。
「きゅ。」
クゥがいきなり止まり店の奥を見ている。
「ん?クゥ、どうしました?」
武雄が聞く。
「きゅ?」
「腐った匂いがする・・・そうです。」
ミアが訳す。
「腐った?・・・面白そうですね。
クゥ、こっちですか?」
「きゅ。」
武雄達は店の奥に行くのだった。
・・
・
「きゅ。」
クゥが片手で開けられるくらいの蓋の陶器製の小ツボの前で止まり鳴く。
「ふむ・・・開けても良いのでしょうか?」
「タケオさん、止めたら?腐っているのでしょう?」
レイラが止めにかかる。
「干物屋で腐った匂い・・・面白いと思いません?」
「思いません。」
レイラが即答する。
「レイラお姉様、そこはタケオ様の為にも思うというべきなのでは?」
アリスも微妙な笑顔を向けなが・・・呆れながら言う。
「さ、開けましょうか。」
武雄は「ちょっと見てみよう。」という軽い気持ちで開ける。
パカッ。
「きゅ・・・」
「「「うわぁ・・・・」」」
武雄以外の面々が異臭による苦痛を訴える。
武雄はそっと蓋をする。
「タケオ様!そっとではなくすぐに蓋をしてください!」
「いや・・・感情に任せて閉めて割れたら最悪の事態になると思ったので・・・」
「う・・・賢明な判断です。」
「アリスお嬢様、店員さんを呼んできてください。
聞きたいことがあります。」
「そうですね!
異臭のする物を置いて置けませんものね!」
「あ!アリス、私も行くわ。」
アリスとレイラが店員を呼びに行く。
・・
・
「レイラ殿下!申し訳ございません。」
「良いのよ、気にしないで。
他の人でなくて良かったわ。」
「そう言って頂きありがとうございます。」
店長が平謝りを繰り返している。
・・・アリス達が呼びに行ったらレイラを確認した店長がすっ飛んできた。
「ちなみに店長さん、コレは何でしょうか?」
武雄が聞く。
「はい。
テンプル伯爵領からの商品でして、小魚のぶつ切りを大量の塩で塩漬けにした物です。
基本的に酒場へ納入している珍味なのですが・・・
申し訳ありません。作ってから10か月が経過しています。
すぐに廃棄いたします。」
「・・・店長さん、スプーンはありますか?」
「え?・・・はい、少々お待ちください。」
と、店長は近くの棚からスプーンを持ってきて武雄に渡す。
「「ま・・・まさか・・・」」
レイラとアリスが2歩下がる。
「蓋を開けますから・・・嫌なら下がってください。」
武雄からの勧告に武雄以外の全員が店の奥から急いで退避する。
「・・・え?そんなに嫌なの?・・・まぁ、良いでしょう。
さ、ご開帳~。」
武雄は蓋を開ける。
と、「早く閉じてください!」と遠くから女性陣の苦情が聞こえるが武雄は気にしない。
武雄は、ツボの端の淀みをゆっくりかき分けるとやや透明な油分が動く。
スプーンを左右に素早く往復させ、油分の下の液体をすくい、すぐに蓋をする。
そして軽く舐めると頷き、皆に見えないようにガッツポーズをとる。
「終わりましたよ。」
武雄は皆に言うとゾロゾロ戻ってくる。
「タケオさんの行動が奇抜で困ります。」
レイラがため息をつきながら言う。
「ふむ・・・店長さん、これおいくらですか?」
「「「は!?」」」
アリスとレイラと店長が驚く。
チビッ子達は・・・ため息をついて呆れている。
「・・・いえいえいえいえ。タケオさんダメです!
城門の件ですか?慣例の件ですか?・・・お願いしますからこれをぶちまけるというのはやめてください!」
レイラが慌てて武雄を止めにかかる。
「・・・レイラさん、店の前で好きな物を買って良いと言いましたよね?」
武雄が目を細めながら言う。
「う・・・言いました・・・」
「買います。」
「・・・はい。」
レイラはガックリとうな垂れる。
「店長さん、おいくらですか?」
「あ・・・廃棄しますので・・・お好きにどうぞ。」
「では、譲られましょう。
えーっと・・・アリスお嬢様、レイラさん、他に買う物はありますか?」
「「ありません。」」
「ミアとクゥはどうですか?」
「きゅ。」
「私達もありません。」
「私も他にはとりあえずないですね・・・
店長さん、コレも一緒に下さい。」
武雄は持っていた他の干物も店長に渡す。
「畏まりました。
どちらにお届けすればよろしいでしょうか。」
「んー・・・王城の料理長宛に送ってください。
それと但し書きをしてくださいね。
『開封厳禁、異臭注意、キタミザト以外接触厳禁』と。」
「畏まりました。」
店長が会計を始めるのだった。
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レイラが会計を済ませ皆で干物屋を出ると。
「タケオさん、本当にアレを引き取るの?
まだ断れるわよ?」
「断りませんよ。
と言うより・・・レイラさん。私があれを買った理由はなんだと思っているのですか?」
「・・・王城内に異臭が立ち込めるという嫌がらせをする・・・」
「そんなわけないでしょう。」
武雄はレイラの非難に苦笑する。
「え?タケオ様、あれはタケオ様の中では何なのですか?」
「調味料です。」
「「調味料!?」」
レイラとアリスが驚く。
「ええ、匂いはアレですけど・・・
アレは魚醤という調味料に近いと思います。」
「あんな物が・・・」
「あとはどんな食材と合わせればよいのか・・・
さっき魚の干物も買ったし・・・煮つけかな?お吸い物に?」
武雄が楽しそうに今日の夕飯を考え始める。
その横で・・・
「アリス・・・本当にアレは調味料なのかしら?」
「わかりません・・・わかりませんがタケオ様が楽しそうに思案しているという事は、本当に調味料なのだと思います。」
「・・・これは夕飯が緊張感に包まれそうだわ。」
レイラとアリスは頷きあうのだった。
と、レイラ達に見覚えのある集団が近寄って来る。
「レイラ殿下、お買い物中申し訳ありません。」
「第一近衛分隊長、どうしたのですか?」
「はい。
ウィリアム殿下からレイラ殿下に帰還指示が、そしてキタミザト殿ご一行の帰還依頼がされました。」
マイヤーが真面目に答える。
「そう・・・ウィリアムが呼んでいるのね。
アリス、タケオさん、2人とも申し訳ないけど王城に戻って良いかしら?
他に買いたい物があっても明日にして貰いたいのだけど。」
「「わかりました。」」
レイラの通告に武雄もアリスも頷く。
そして一行は王城に帰還するのだった。
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